走馬灯と爆炎
-第44説 走馬灯と爆炎-
※
日差しの強い夏の日。
幼い選也は近所にある公園のベンチに座って、分厚い本を読んでいた。
小さな公園だ。
たいした遊具も無ければ、遊んでいる子供も少なく、静か。どうしてそこに行ったかは、記憶に無い。
ただ、覚えているのは、自分には優しい両親や、ご近所さんがいたため、友人を進んで作ろうと思わず、一人でいることが多かったということ。
それはいじめられているわけではない。
クラスメートや近所の子は話しかければ答えてくれるし、人数が足りなければ遊びに誘ってくれる。
選也は現状に満足していた。
だからこそ、なのかもしれない。
その日の事を選也ははっきりと覚えている。
「なあ、おまえ何してんの? 」
唐突に前から、少年の声がした。
少年は不思議そうな顔で、本から顔を上げて驚いている選也の顔を見ている。
「………本、読んでいたの。」
選也はその顔に見覚えが無かったので、少々警戒しながら、返答した。
しかし、そんな心は伝わらず、少年は選也の言葉に、目を輝かせて、興味津々という様子で選也の隣に座る。
「へぇ、なんの本? 」
選也は少年の友好的過ぎる態度に物怖じしながら、また答えた。
「小説。」
少年はその返答に嬉しそうに頷き、また質問を投げてくる。
「どんな話? 教えてよ。」
それは、なんとも断りづらい問い方だった。選也は仕方がないので、その見ず知らずの少年に物語の概要を説明する。
「別々の所に住んでる人達が喧嘩をして、大変なことになっちゃうけど、最後には仲直りする話。」
ありきたりなお話だ。
少々分厚く挿し絵は少ないが、児童書らしく教育的な内容になっている。
なのになぜか、少年はそれを聞くと黙りこんでしまった。
選也はさっきまで鬱陶しいほど質問を投げ掛けてきていた少年が静かになってしまったことが気になって、なんとなく、今度は自分から話しかけてしまう。
「どうしたの? 」
少年は選也の目を見て、暫く考え込んでいたが、長い間の後、ようやく口を開く。
「いや、やっぱ、仲直りが一番なんだよなって思って。」
しかし、それを聞いた選也は益々分からなくなって少年に言った。
「そんなの、当たり前でしょ? 」
少年は選也の言葉に少し驚いたように目を見開くと、また元の調子に戻って提案してくる。
「だよな、当たり前。そうだ、こんなこと話してても面白くないし、一緒にキャッチボールでもして遊ばない? 」
「え、なんで? 」
選也は瞬きを繰り返した。
少年はそんな選也の手を強引に引いて、立たせると、こんな説明をする。
「なんでって、そりゃ。お前は《面白い奴》だし、友達になりたいと思ってさ。駄目か? 」
よく分からない理屈だった。
でも、きっとこれがあいつの生きてきたなかで学んだ、友達を作るための、楽しく生きるための《理屈》なんだろう。
今なら、そう思う。
だって、この《面白い奴》というのは、アイツが人に話しかけるときの常套句だから。
アイツは他の人間が嫌煙する先輩、後輩、同年代、どんな人間だろうと、こうやって話しかけて仲間になってしまう。
始めは鬱陶しがっていた人も、すぐにアイツが好きになる。
親友だなんて、ちょっと自分が特別みたいなことを言ってみても、やっぱり俺はアイツの友達の一人でしかない。
だからこれは自分勝手な理屈だ。
※
(俺がやらなきゃ。アイツのために。)
なんとしてでも、無実の証拠を手に入れたい、ダバアに負ける訳にはいかない。
選也は全身の痛みに耐えて、瞼を持ち上げる。痛みの原因はすぐにわかった。
耳元に響く、滴の垂れる音。
ここにまんべんなく存在している液体は、身体を溶かす、危険な液体だ。
瞼で隠されていた前方には、半分潰れてしまっている紫烏の姿がある。
このお陰で自分はつぶれずに済んだらしい。選也は思わず、きこちない笑みを漏らした。
「なんだよ、会ったばっかりで、ここまでしてくれなくていいのに。」
選也は指示をしていない。
烏が勝手にこの行動を取ったのだ。
「でも、ありがと。恩に着るよ。」
選也は自分の持てる限りの魔力を烏に注ぎ込み、言う。
「それから、悪いんだけど、もう一仕事、ダバアを蹴散らすのに協力してくれ。」
魔力をたらふく食らった紫烏は、前に聞いたよりも大きな声で鳴くと、崩れかけの身体を動かして、白くならんだ壁に体当たりした。
視界に強い光が差し込む。
しかし、
「なんだよ、これ………。」
そうやって見えた景色に選也は驚愕した。
辺り一面、火の海である。
地面に落ちた黒い死体達は、立ち上がり続けているが、直ぐにその炎に焼かれ、また消えていく。
それだけではない。
炎はどれ程の高温なのか、コンクリート製の校舎が、下から無惨に溶け、そのバランスを失っている。
空の烏も少ない。
そして、自分のすぐ下辺りには、大きな筋肉質の腕を抱えた、全身鎧姿の《火種》があった。
「悠斗………? 」
つづく。




