最終兵器の召喚
-第43説 最終兵器の召喚-
「ははっ! やっと来たねぇ! 」
ダバアは鼓膜を引き裂くような、甲高い声を上げて笑った。
理由は分かっている。
つぎはぎだらけで瞼は無く、歯茎は剥き出しだが、まだ人間の面影を持った、二つの頭、地面に着きそうな程に長く、盛り上がった筋肉質な腕、対照的に短く細い足。
堂々とダバアの後ろにそびえ立つその異形な姿は、正に怪物だ。
「これが僕の最高傑作《ELA》だよ! 」
そして、ダバアが見せるこの絶対の自信と、悠斗の表情が、その確かな実力を物語る。
少しは負傷を覚悟して止めにいかなければ、こちらの息が止められてしまうだろう。
選也は覚悟を決め、電撃を止めて屈み、悠斗に術をかけて貰った弓に手を伸ばした。
悠斗も選也の動きを確認して大剣を構え直すと、鎧に炎を纏い臨戦態勢に入る。
束縛をとかれ、動き出す死体達。
一瞬にして戦場と化す周囲。
「さあ、始めようかぁ! 退屈なダンスはもう飽きたよ、もっと激しい舞踏を見せてよぉ! 」
気分は悪いが、踊るしかなさそうだ。
あいつ好みの過激な舞いを。
振り下ろされる巨大な拳の影が、悠斗の身体に重なる前に、選也は大声で叫んだ。
「悠斗、そこをどけっ! 」
悠斗は選也の声に反応して、敵から選也のいる方へと後ろ跳びする。
直後、地面と、太いつぎはぎだらけの5本の指が接触し、立ち昇る砂埃。
遮られる視界の中から現れた瓶が、怪物の腕に当たって砕け、中の液体が身体に飛び散った。
標的を見失い、砂嵐の様に空中を埋める黒い羽音と、右往左往する足音。
砂埃が収まると、上空の魔法陣から腐った巨人に細い何本もの光の束が降り注ぎ、その身体にかかったものをさながら金属の様に輝かせる。
魔法陣を呼び出しているのは悠斗。
ダバアは自分の操り人形を見て、直ぐにその意図に気がついたようで、慌てて鎖を引き、指示を出した。
二首のゾンビはダバアに従って、両手を地面に着きながら走り、逃げる悠斗を追いかける。
その間にも烏が興奮した様子で、篝火に集まる蛾の様に、大きなゾンビに吸い込まれていく。
そして、悠斗と二首が校舎に近づいた次の瞬間、轟音と共に校舎の壁が破壊された。
中から飛び出して来たのは、あの紫烏だ。
烏は現れて早々、誘われるように羽ばたくと、巨人にその嘴を突き立て、他の烏達と同じく、皮を剥がそうとする。
傷になるほどではないが、鬱陶しいのは間違いないのだろう。巨人はダバアに指示されたのか、少し遅れて、それを追い払うように手を振り回し、何回目かで標的を叩き落とした。
しかし、落とされた烏は一時的に停止こそするが、直ぐに何もなかったように動き出し、また向かっていく。
タフさならまるで遅れはとっていない。
ダバアは憎らしそうに声をあげた。
「おい、クロウ! この出来損ないめ! 敵はそこの人間だ、そっちを狙え! 」
やっぱり彼の素は、狂人喋りではないらしい、あの言葉遣いはキャラ作りの類いだろうか。選也はそんなことを考えつつ、崩れた校舎の二階から、すぐ下にある巨人の頭を見下ろす。
烏はダバアの言うことを聞かない、考えは当たっていたらしい。
選也は思わず意地悪な笑みを浮かべた。
(やっぱあの烏は、操作じゃなく、契約系の術か。………よかった。)
操作系なら魔法使い自身が指示を出し続けなければ行動停止してしまう、だが、契約系の魔法ならその心配はない。元の契約相手の性質を残すからだ。
指示していないときは、本来の動きを繰り返す。
「無駄だよ、もうそれはあんたの《玩具》じゃない。俺のだ。」
代わりに、問題、というか脆い部分もある。契約は直接接触できれば上書きは難しくないし、細かい指示は効かない。
以前のこいつの動き無駄な動きが多く見られたから、きっと契約だろうとは思っていた。
選也は自分から烏に突き出して負傷した、自身の腕に目をやる。
(とりあえず最大強度の血液契約にしたけど………。)
血液契約は一体にしか出来ないし、元々はそうで無かったはずだから、早々上書きしてこないはずだ。だが不安が無いわけではない。
(あの二首ゾンビ相手にどれだけ耐久できるかが問題だよな。)
さっきの攻撃を見る限り、紫烏であの巨人を倒すのは不可能だ。
かといって、奴に掛けられた魔法は操作系の魔法らしく、烏に使ったのと同じ手は通じなさそうに見える。
選也は目をつむって思考を巡らせた。
(さて、どうするか。)
そんな最中、声。
「選也さん! 避けて! 」
声と共に、選也の身体を大きな掌が締め上げる。
「え? 」
次の瞬間、目についたのは深い赤と、酷く腐敗した平たい肉片、白くならんだ硬質の物体。
「は、はは………? 」
そして、ぐしゃりという音と共に、視界は暗転した。
つづく。




