鎧と死体と共闘と
-第42説 鎧と死体と共闘と-
周囲を包む業火。
「ひぃっ!? 」
それにより、周囲を飛び交っていた烏はあっという間に殲滅される。
選也は思わず悲鳴をあげた。
すんでのところで当たらなかったが、当たっていたらどうなっていたことか。
後ずさる選也の前に、少し遅れて、悠斗が降りてくる。
「おい、危ないだろ! 」
悠斗は選也にそう怒鳴られると、申し訳なさそうに目を伏せて、前と同じように控えめな声で謝った。
「すみません。」
その言葉に敵意は感じない。
どうやら、悠斗との戦闘はないらしい。彼は謝りながらも突き刺さった大剣に触れて、剣の両面に装飾の如く施された6つの魔法陣を稼働させる。
「もっと気をつけてくれよ。」
選也はそれをため息混じりに見つめてから、ダバアの方に焦点を戻した。
一方で自分の《モルモット》を大量に殺されたダバアはなにが可笑しいのか片手で顔を抑えて大笑いしている。
「ははっ、やってくれたね火無ちゃん。これが君の研究の成果ってやつなのかいぃ? 」
挑発するような男の口調。
しかし悠斗は彼の言葉には答えず、険しい表情で後ろを振り向くと、選也が持っている弓に腕を向けて魔法陣を呼び出し、選也に言う。
「選也さん、それを使って下さい。あいつの《玩具》に対抗する魔法です。」
選也は自分の中の武器に掛けられた魔法を確認した。
「ありがとう、使わせて貰う。」
武器には本でも見たことのない、淡い光を放つ不思議な紋章が浮かんでいる。
(知らない魔法だ。これって、あの本の魔法より高度な魔法なのかな? )
原理が気になるところだが、今はそれを解読している場合ではないだろう。
目の前ではダバアが服の内ポケットから小型のナイフを取り出して、空中を何度も切りつけ、何かをしているし、悠斗も大剣の魔法陣のうちの一つに腕を突っ込んで何かの準備をしている。
(取り敢えず、俺もなにかするか。)
いつ誰が仕掛けるか分からない現状。
選也も二人に遅れをとらないように、魔法の詠唱を始めた。
しかし、一番先に動いたのは悠斗だ。
よく見えなかったが、悠斗は魔法陣から瞬時に腕を抜いて、大剣を両手で持ち直すと、それを自分の身体を軸に振り回し、剣先が作る円と同じ大きさの巨大な魔法陣を地面に作り出した。
そこでようやく見えた彼の腕から手先にかけては、鎧のような武装がなされている。
先程の術はあの《鎧》を着る術なのだろう。
次に動いたのは、ダバアだった。
手を止めたダバアが奇声をあげると、地面から湧き出すように、人型のなにかが次々と立ち上がる。
「皆ぁ! お腹ぐぅでしょぉ? あいつら食べちゃっていいよぉ! 」
選也は青ざめた。
はっきり見えなくても、今までのダバアの戦い方を見ていれば、あの人型が何なのか簡単に分かる。
そう、これぞまさに《死体》を使う魔法使いの王道、人型ゾンビ。
そのゾンビが次々と地面から沸き上がってくるのだ。
更に言うなら、さっき倒したはずの烏も水っぽい音を立てながら復活している。
ダバアの術はオート復活ならぬ、オートゾンビ復元。
タチが悪すぎる。
こうなってしまえば、術師を狙っている場合ではない。無駄でも倒さなければこちらが攻撃される。
選也は泣く泣く、せっかく終わった詠唱で呼び出した4つの魔法陣を全て周囲のゾンビ達に向け、電撃を放つ。
そして、電撃を受けたゾンビ達は、感電し、その場で硬直したが、この魔法を止めればまた動き出してしまうだろう。
「悠斗、こっちは俺が止めるから、そっちは頼んだ。」
選也は自分ではどうにも出来ない問題を解決するため、周囲を警戒したまま、悠斗に向かって叫んだ。
悠斗は選也の言葉に「任せて下さい! 」と期待以上の声をあげると、自分の足元に作った大型の魔法陣を発動させて、今度は両足に鎧を装着する。
「上げていきます! 」
正直、現状で止めを刺せるならさしてほしいのだが、きっと出来ないのだろう。
鎧は強化系の魔法だろうか。
大剣を持った悠斗が地面を蹴ると、その身体は瞬間的にダバアの目の前に移動する。
ダバアは自分の目前に現れた悠斗に、少し驚いたようだったが、直ぐに平静を取り戻し、懐から抜き出した糸付きの針を投げつけた。
投げつけられた針を悠斗は左手の鎧で防ぎ、右手に持った大剣でダバアの腹を薙ぎ払わんとする。
しかし、ダバアも素人ではないのだろう。防がれた瞬間に目線を悠斗から、彼の足元の烏の死体に移し、それに術をかける。
術を掛けられた烏は再び動き出し、ダバアの前に飛び出した。
「!! 」
悠斗はいち早く気がつき避けようとしたが、烏はそれを追い、剣に体当たりして、軌道を完全に反らす。
ダバアは不敵な笑みを浮かべた。
「ははっ、残念だったねぇ! 」
術を続けながらそれを横目に見ていた選也はそれに違和感を抱く。
(あれ? 今の烏、動きがおかしかったような………。)
まぁ、死体が動いている時点でかなり変だとは思うが、今言いたいのはそういうことじゃない。
(悠斗の剣を追尾してた? )
今までの烏の動きはダバアから発せられた簡単な命令に従った、単調なものだったが、今見たものは明らかにそれとは違う。命令もないのに、《正確に》悠斗の剣を追いかけていたのだ。
(指定したものを追尾する魔法なのか?それとも………? )
訝しげに目を細める選也の思考を遮るようにダバアの声。
「どんな《魔法》も僕の前では無意味なの! そろそろ学んだらどうかなぁ! 」
ダバアは地面に魔法陣を呼び出して、そこに腕を入れ、何かを掴み、腕を持ち上げた。
持ち上げられた彼の手には黒ずんだ鎖がにぎられている。
悠斗はそれを見ると急に焦ったように大剣を爆発させて、それを妨害した。
「あはっ、やっぱり邪魔してくるよねぇ! 君でも《あの子》は倒せないか! 」
《あの子》というのはそれほどに危険な相手なのだろうか。
選也の考察を遮るように、地面の人型達とは別に、校舎から烏が更に沸いてくる。
「………わーい、夢の永久機関かな。」
この感動 (?)、涙無しでは語れない。
まぁ冗談はさておき、これ以上雷の出力を上げるのは選也には不可能だ。
相手の方が有利なのは確かだろう。
悠斗はそんな選也の表情で状況を察したのか、ダバアから再び距離を取り、今度は自分を囲むように四方に魔法陣を産み出す。
ダバアは自分から悠斗が距離をとったことに少し戸惑った様子だったが、直ぐに狂った調子を取り戻して、もう一度、地面から鎖を引っ張り出し、金属のすり合う音を立てながら、どんどん何かを引き寄せていく。
魔法の発動は同時だった。
悠斗は魔法陣から打ち出された鎧を、胸から腹にかけて装備する。
ダバアはというと、引っ掛かったように急に重くなった鎖に表情を明るくして、踏ん張るように足の間を広げると、思い切り鎖を地面から引き抜いた。
いや、鎖じゃない、鎖の先についたものを引き抜いたと言った方が正確だろうか。
大きな地鳴りと共に、それに似つかわしい大きさの半円状の影が地面からせり上がり、そして、影は両端に砂ぼこりを立てると、大きな指で地面を掴んで、その姿を露にした。
つづく。




