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#31

前回までのあらすじ☆魔物シュカは本当の恋人のことを思い出しかけていた。アンダーソンは本当にシュカの恋人なのか? 二人を会わせることは良いことなのか? 悩むモモエのもとに、強力な助っ人ロッテが現れる。一方、ルイーゼとシーナはリンドウ町に戻ってきて――。

 町の中心街に戻ってきたルイーゼとシーナを待っていたのは、安堵のため息をついたテオだった。シーナがテオの胸倉を掴む勢いで詰め寄った。

「テオ、クライ様とシュカは――」

「落ち着けって。クライは無事だよ」

「本当!?」

 ルイーゼもテオの袖に掴みかかる。

「ああ、シュカは出て行ったんだ。今はクライは、やっと魔物から開放されて疲れ果てて眠っている。でも、ヴァレンさんがついててくれているから、心配はいらないよ」

「シュカが出て行っただって。どこにだ」眉をけわしくするシーナをさえぎって、ルイーゼがせかす様にわめいた。

「ねえテオ、先生はどこにいるのっ!」

「ルイーゼ待て、おまえは。今はクライ様よりもシュカだろう?」

「だって!」

「だってじゃない」

 冷たく言い放ち、シーナはテオに向き直る。

「シュカの居場所を教えてくれ」

 その瞬間、きらきらと舞い散る金粉のような粉が頭上から降ってきた。

「ルイーゼ、迎えに来たぜ!」

 弾かれたようにルイーゼは天を見上げる。

「み、ミント……!」

<蜂蜜の鈴>で呼び出せる妖精の少年である。しばらくお目にかかっていなかったが。

「早く来い、お前の助けが必要だ。って、ロッテが」

「ええ? ロッテがあたしなんか頼るわけないじゃない?」

「いいから来るんだ! 時間を稼がないといけない!」

「なんの話よ」

 ミントの案内に導かれて、ルイーゼは走り出した。




 *  *  *




 チョコレートケーキの材料を買出しに女三人でスーパーマーケットにいく。こんなことでなければ、とっても楽しいホームパーティの休日となっていただろう。

 シュカはほとんどいつキレるかわからない少女(もとい魔物)なのだと、トイレにいったときにロッテに教わった。モモエは今にも挫けそうになっていた。

「やっぱりケーキには紅茶よね? シュカ」

「ええ」

 紅茶の缶がならぶコーナーでシュカは微笑む。

「なにがいい? ダージリン? オレンジペコー?」

「なにがおいしいかわからないわ」

「じゃあローズティーにしましょう」

 ほいほいと気前よく買い物籠が埋まっていく。シュカがおそろしい魔物であり、自身もその魔力を目の当たりにしたことがあるというのに、気丈にもフレンドリーに応対するロッテの姿を見て、モモエは感動していた。優等生のトップなだけある。

(ははぁ。アンダーソンさんの恋人がこんな魔物だったなんてもう、どうしたらいいかわかんないよ……)

 というか、問題なのは本人である可能性が低いということだ。アンダーソンはいくら長寿とはいえ、人間。シュカがその恋人と出会ったのははるか昔……ぜったい、人違いのような気もするのだ。

 でもお互い、写真では一致する。

 いったいどういうことなのだ?

(……アンダーソンさん、実は人間じゃなくって、とっても長生きなのかな。もう、魔物と同じく何百年も生きてるとか? そうじゃなければ、説明つかないもん)




 *




 ロッテの自宅に一同は来ていた。実はリンドウ町にロッテの実家があり、学校には下宿していたのだ。

 スポンジを焼いている間、ロッテとモモエは作戦会議を行った。

「これは、いい展開ではあるわね」

 とは、ロッテの意見だった。

「だって魔物の恋人なんて、誰もがとっくにこの世にいないものと思っていたけれど、もし生きているのだったら、再会させれば魔物の暴走はふせげるかもしれないもの」

「でも、ロッテさん。シュカさんたち、そんなに愛し合っていたのならどうして別れちゃったんだろ?」

「そこまでは知らないわよ! つか、どうでもいいじゃない」

「えー、どうでもよくないよーう! だって二人の恋路には障害があったってことでしょ? なら再会してもうまくいくとは限らないし……」

「あんたって、少女小説とか好きなタイプでしょ」

 半眼でロッテは指摘した。

「ええっ! わたし少女小説は読まないよ! あのね、わたしが好きな小説は女子寮の学園もので、かっこいい女の先輩とかわいい後輩がペアを組んで寮生活とか恋とか乙女の道とかの指導するっていう――」

「そういうのを少女小説と言うのよ! そしてそれは百合よ!」

「ゆりって?」

「ごほん。まあいいわ……」 

「じゃあロッテさんは、どんなの読むの?」

「主に学術書とか、哲学書よ」

「うそーうそだよぉ!」

 わしゃわしゃと騒いでいると、ピンポーンとインターホンが鳴った。

「はい」

 客なのに真っ先に玄関に走ったのはシュカだった。「あ、いいのにー」と慌ててロッテも近づいていく。

 がちゃ、と開いた扉の向こうにいたのは、妖精とともにいる、相変わらず寝癖っぽい黒髪が跳ねた少女だった。

「……ルイーゼ」

「来てやったわよ」

 憮然と、ルイーゼが言う。

 ぱたぱたとスリッパの音を響かせながら、

「うそ~~~、ルイ~~ゼ~~~!!」

 間延びした声を上げて、モモエは懐かしい友に駆け寄った。

「モモエっ!」

「会いたかったよぅ、ひーん」

 モモエは頬を真っ赤にして、たいして背丈の変わらないルイーゼの首筋に抱きついた。少し迷惑そうに顔を逸らすルイーゼ。

「こらこらこら、泣くな! 今それどころじゃないのよ。つーか泣きたいのはこっちなの!」

「で、あの男の子は?」

 ロッテがぬかりなく質問を投げる。

「置いてきた。だってあいつ、<ブレイン>を使ってぜったい先生と同じようなことしようとすると思う」

「同感だわ。もっと他に方法がある。絶対にね」

「うん、そうよ」

 ルイーゼとロッテは力強く頷きあった。

「今までないがしろにされてきた、女の実力をみせてやるときが来たのよ。ルイーゼ! 今回ばかりは手を組みましょう」

「もちろんよ」

 ふたりは微笑みあい、軽く握手を交わした。

「うわ~~ん、ルイーゼー、ずるいよー。わたしだって協力するよぉ~~」泣いているのだか怒っているのだか判明しないモモエはぐずぐずの顔でわめく。

「ああもうわかった、わかったから離れなさいよ……」

 ルイーゼはモモエを引き剥がそうともがいていた。

「あんたはちょっと足手まといね」とロッテ。

「ひどぉぉぉい!!」

「ちょっとっていうか、だいぶだけど、仕方ないわ。モモエだもん」

 ルイーゼは嘆息する。が、これで魔法学校時代の三人が揃ったのだ。

 力がわいて来るのがわかる。

 今ならなんだってできそうな気がしていた。



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