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#29

モモエ★ストーリーのあらすじ……舞台女優に抜擢されたモモエは人探しを条件に引き受ける。ボランティア先の老人アンダーソンの、若いころの恋人を探しているのだが……?

「ふう。今日も見つからなかったな、アンダーソンさんの恋人。まあ、手がかりがほとんどないんじゃ仕方ないけど……」

 モモエは喫茶店で一息ついていた。紅茶にうかんでいる檸檬をスプーンの先でつつきながら、ため息を付く。手元には、探し人である名も知らぬ少女の写真があった。それも、白黒写真でピントがぼやけていて、目元が前髪ではんぶん隠れていた。小柄な少女だということしか判別できない。だいいち、現在では成長している。成長それどころか立派な老年期に入っているはずである。こう言ってはなんだが、生きているかどうかもわからない。

「ああーどうしよう、どうしよう。こんなときに魔法があればナー。って、そういえばあたし魔法使い見習いだった。忘れてたよぉ。でも、落ちこぼれでぜーんぜん魔法なんて使えないのよねぇ」

「そこでぶつぶつ言ってるちょっと危ないお嬢さん、よく見るとカワイイ顔してるね? どう、これから飲みにいかない?」

 そう声を掛けて腰をくねくね揺らし近づいてきたのは、ホストっぽい外見の男だった。

「あ、あたし急いでますからぁぁ!!」

 モモエはあわてて席を立った。田舎暮らしが長いので、さんざんトロいだの天然ボケだの足元を見ろだの、注意や中傷を浴びてきた。しかしモモエは、故郷から一歩脚を出したとたんに、なぜか男にモテモテになっていた。

 ナンパなどしょっちゅうである。

 モモエはスカートを風になびかせながら、いそいそと店を出た。しかしストーカーまがいのホスト風はついてきている。

(嫌~!)

 そして、ついでに――

「モモエちゃぁぁぁん!」

「ぎゃああっ!」

 突然曲がり角から姿を現したのは、よく見れば見知った顔だった。

「なんだー。アズマさんじゃないですか。って、やばい。見つかっちゃった」

「探したよ、モモエちゃん。さあ舞台稽古がはじまる。会場へ急ごう」

 サングラスの奥の目をぎらっと光らせ、よほどモモエの演技が見たいのだろう、芸能プロダクションの魔法少女モノ企画者アズマは意気込んでいた。

「カンベンしてくださいぃ~! まだ探してる人が見つかってないんですよぉ」

「そんなの見つかるわけないだろ!?」

「い、言い切らなくても……」

「モモエちゃん。おれはもう見ていられないんだよ、健気すぎる君を――」

「へっ?」

 がし、とアズマはモモエのなで肩に手を当ててきた。モモエは一瞬で、先ほどのホスト風とほぼ同じ類のキキカンを覚える。

「もういいんだ、魔法少女なんかどうでも。それよりおれと付き合ってくれ! おれは、おれは君に恋をしてしまったんだ!」

「はぁ~?」

 モモエがかくんと顎がはずれたように間抜けに口を開ける。だらだらと汗をかきながら温度を20度くらいアップさせてアズマは続けた。

「いや、わかっているんだ。タレントに恋をするなんておれは馬鹿だ。そんな青臭いことはするまいと、業界に入ったときから心に決めていた! 仕事の関係じゃないかおれたちは。ああ、だめだだめだと思っていても止められはしないんだなぁ―――。だからもう仕事を辞めて新しい人生をともに歩むことにしたんだ。それしかない、それしかないよな。年の差カップルだし世間の目は冷たいだろう。でもおれは負けない――」

「あー。あの、アズマさん、一方的な片思いでそこまで盛り上がられても困るんですけどぉ……」

 片思いと言う言葉にアズマが愕然としたその瞬間、視界の端に通り過ぎた少女の姿がやきついて離れなかった。流れるような黒髪。細くて折れそうな腰。太い眉。なによりその静謐な雰囲気。

 モモエの直感だった。

「あっ」

 モモエは思わず口元を押さえる。

「どうしたの、モモエちゃん」

「あの人だ、探してる人」

「うそ」

 モモエは少女の跡をつけた。少女は花屋によって、色とりどりの花に見入っていた。獰猛ともいえるほどに大きな雌蘂をみせている白い百合の花に見入って、少女は百合を買い求めた。

「落ち着けよ、モモエちゃん。あの人、まだ子供じゃん。本人のわけない……」

「そ、そうですけど。でもお孫さんとかかも? あたし聞いてみます!」

 アズマが止めるのもきかずに、度胸よくモモエは花屋の店頭から出てきた少女に愛想よくほほ笑んだ。

「こんにちは!」

 初めてあった人にはまず挨拶から。

 少女は足を止めたが、返事もせず、うなずきもせず、視線すら合わせなかった。

「あの、あたしはモモエっていいます。同じ年くらいだよね? ねえ、この人のこと知ってるかな?」

 もうとにかく用件だけでも伝えてしまえとばかりに、モモエはアンダーソンの若い頃の写真を見せた。

 一瞬、少女の目が細くほそめられた。次の瞬間にはギッとモモエをにらみつけてきた。それは深い闇を含んだ魔女のような目つきだった。モモエの背筋が凍る。




  *   *   *




 ルイーゼとシーナは、テオからの情報を得て、クライとシュカの住まう「新居」に大急ぎで向かっていた。

「ねえ、シーナ。どうすれば先生を助けてあげられるんだろう。先生がシュカの恋人をやめるしかない、でも暴走するシュカを止める手立てがあたしたちにはないのよね」

 いざとなったら、自分が<ブレイン>を使ってでも止めるしかない。それが弟子としての自分の務めだ、とシーナは思った。

 クライのメッセージには、それだけはやめなさいとあった。ブレインを使うことだけはなにがあってもだめだ――

 だから、とうぜん怒られる。罵倒どころではすまない。クライは本気で怒るだろう。本望だ、本気で怒らせてみたかったし、今さら破門されたところで痛くもかゆくも無い。

 そう。クライは確実に命をかけている。魔物シュカと刺し違えてでもヤツの息の根を殺すつもりなのだろう。それくらいの覚悟で、彼はマエストロになった。

 ルイーゼの背中を見ながら、シーナはそんなことを考えていた。あのクライ師匠でさえも正気を失うほどのパワーに取り込まれることを考えると恐ろしいけれど、命を失うよりはいい。万事解決とはいかないけれど、一時的に持ち直すことはできる。

 魔物の恋人になるなど……。

 考えただけで苦笑がシーナの唇から漏れた。以前、師匠にしょっちゅう「火遊びが足りませんよ、シーナ」と言われていたように、こうなるまえに、まともな恋人のひとりやふたり、つくっておけばよかった。これだから師匠にはかなわない。

「あんたさぁ、さっきからなにニヤニヤしてんのよ。気持ち悪いわねー」

 ルイーゼは地図を片手に走りながら、横目でにらんできた。なんだか、可笑しくてたまらなかった。これから戦場に乗り込むというのに。ああ、楽しい。

「なあ、ルイーゼ。もしリンゴが」

「えっ! リンゴが、なに!」

 ルイーゼの目が一瞬で輝いた。変わり身の早い女だ。ばかなやつだ。

「リンゴが突然あらわれて、きみのことが好きだよって言ってきたら、どうする」

「そんな夢のようなこと、ないとも言い切れないわね! 当然オッケーよ」

「いいのか。そいつはもうアイドルじゃない。たぶんもう、かわいい男の子でもないぞ。ただの17歳の男だ」

「なにいってんのよ。リンゴはリンゴでしょ。かっこよく成長してるはずだもん、だいじょうぶよ」

「そうか。よかった」

「? なんで」

「いいから急ぐぞ」

 あとは一本道だ。シーナはルイーゼの手を取り、引っ張るように走り始めた。




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