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#27

全回までのあらすじ★シュカと魔物<闇の長>の関係を探るためにフームの山に登り始めたルイーゼとシーナ。そこでふたりが見たものとは……!?

 そもそも、フームの山に住まう<闇の長>とは、どんなヤツなのだろう。歴代のマエストロ以外、誰もその姿を見たことがない。ライヒ町の住人たちも口をそろえて、“ただ黒々とした怖いイメージしか持っていない”と答えた。それはルイーゼも同様だった。

 ルイーゼとシーナは五合目のゆるやかな山道を進んでいた。

「<闇の長>はそのあまりの巨大な魔力として知られ、竜ではないかと恐れられているんだ」

シーナは言う。

「竜? だったら人間が適うはずないわね。封印ってどういうふうにしてるのかしら。先生は言ってた、マエストロの魔法は禁断の魔法だって。人の心を変えられるって。<闇の長>の魔力を封印して一時的に眠らせるんでしょう? <闇の長>は、どんな気持ちをどう変えられているのかな?」

「今、ヤツは眠っているはずだな。危険は少ないはずだ。会えるといいが……」

「ええ……先生が封印したばかりだし……ねえ、まさかあんた<ブレイン>を試しに使ってみたりしたことないわよね?」

「あるはずないだろう。だいいち誰に使う」

「ほら、好きな子とか」

「そんなヤツいるか!」

 シーナは斜め後ろで草原をざくざく踏んでいるルイーゼに振り返ってにらんだ。

「なによぉ」

とルイーゼは唇を尖らせる。

「べつにそんなにムキにならなくてもいいじゃないのー……」

 はた、と言葉をとめて宙を見つめるルイーゼ。

「ん、どうした」

「待って。心を変えるっていったらさ、ふつう何を思い浮かべる?」

「? さあ。自己啓発とかかな?」

「なんであんたはそう武道系なの! 普通はね、好きな人を振り向かせる――<ホレ薬>として使うのよ!!」

「そ、そうなのか……?」

 ルイーゼの盛り上がりようについていけないらしく、シーナは首をひねる。

「でも、魔物はホレ薬を使われる方だから、誰かに好かれているっていうこと?……あー、わかんない!」

 頭を抱えてルイーゼは苦悩する。

「俺はおまえがよくわからんよ。ほら行くぞ……」

 進む先にシーナはなにか赤い斑点のようなものを見た気がした。目をこすって、まばたきをする。

「どうしたの、シーナ」

「この先に魔物の気配がある」

「わかるの!?」

「さすがに、これだけ近いと俺にだってわかるんだよ」

 少しだけいまいましげにシーナが笑う。

 じっと耳を澄ましたり、葉がかさかさとこすれあう音が響く山奥のうっそうとした濃い緑色を見つめたりしても、なにもわからなかった。

「ううう、あたしはさっぱりだ」

「いいんだよ、ルイーゼはそれで」

「馬鹿にされてる?」

 ふたりがもう少し進むと、大木の幹がくりぬかれた洞窟のようなものが出現した。





 *   *   *





 その樹齢何千年か知れない大木の下に穴が開いていて、どこかへ繋がっている風景を目にすると、ルイーゼは目をまるまると開けて喜んだ。

「すっごーい! リクラゼーションライフ! スピリチュアルメッセージ!!魔物はこのなかにいるの? なに、なんか魔物って超イイ奴っぽくない?」

「そんなわけあるか! 真面目にやれっ」

「だって、こんな奇跡みたいな住居に住んでいる人、ぜったい悪い人いないわ……」

「これだから……。いいか、見た目にだまされるな。気をつけろ、ルイーゼ。仕掛けがあるかもしれないからな」

「ないわよぉ、そんなの」ルイーゼは微笑みながら、木の根の凹凸を飛び越えて、大木の洞穴へと真っ先に入っていった。シーナの注意もむなしく、彼らはなんの危険もなく、あっさりと洞穴の中心部にたどり着いた。

 地面は塗り固められた土で、木の壁にはランプがくくりつけられ、ほの明るい部屋が出来上がっていた。

 壁も天井も小さなミュージックホールのようだ。その部屋に入ったとき、自然とルイーゼは暖かい光に囲まれて、なぜか懐かしさを憶えていた。

「なにこれ。素敵な部屋……」

 ルイーゼがつぶやく。

 そこは、新婚生活を送るならこんな部屋だ、と思えるような部屋だった。窓はない。でも木の暖かさによって呼吸の苦しさがなかった。真ん中に小さなテーブルが置かれ、花柄の布がかけられている。花瓶には蘭の花。元気なところをみると、魔法で水をあげているらしい。かすかに魔法の気配が漂っている。そして、オーブンレンジや、手作りと思しき木の椅子が二組。棚の上に並べられた少女のぬいぐるみ。まったく、幸せという文字が浮き出てきそうな部屋だ。山奥の魔物がこんな部屋で過ごしていたなんてにわかには信じがたい……。

 シーナは緊張感を失わないままで、観察に余念がなかった。仕掛けはないか、怪しいものがひそんでいないか気を配っていた。

「なにか、おかしくないか」

「え?」

「椅子が二つ。スプーンも二本、フォークも……ペアのマグカップも……とにかく二人ぶんあるんだ」

「来客用かしら」

「魔物には同居人がいる。もしくは同居人を想定しているんだ」

「それって……」

「シュカは好きな人を探して山を降りたといっていた……間違いない、ここは、シュカの家だろう……」

「あの子が、魔物なの?」

 ルイーゼはシュカの姿を思い出した。自分と同じか年下くらいと思われる小柄でやせていて生命力が感じられない、でも強い瞳の光を持つ少女だった。いわれてみれば、常人では考えられないほど強かった。強い意志を持っていた……。

「ああ。そうとしか考えられない」

「あんなにかわいい子が」

「だから、見た目なんてマヤカシなんだ。おまえは外見に弱いからな、そこが気に食わん」

「なによ。今は関係ないでしょ?」

「あるよ。シュカは、本当は年老いた姿をしているに違いないんだ、もうそうとう長生きしているのだから。あれは魔法で若作りしているだけ。シュカの恋人がクライ様だと知って俺たちは驚いたけど、でも本当は――」

「え。なにいってるの。シーナ」

「本当は別の誰かなんじゃないか」

「……どういうことよ」

「クライ様はその身代わりになっているんじゃないか? シュカの恋人の代わりをすることで、彼女の暴走を押さえ込んでいる――」

 

「明察ですね、シーナ」


 声が聞こえた。

 ルイーゼの背中が震えた。聴こえるはずのない、ひどく懐かしい声。あたしの師匠。なんにも教えてもらっていないけど、裏切られたけど、あたしの師匠。

「せんせい……?」

「クライ様?」

 ぼうぜんと、弟子たちはクライを呼んだ。

 きょろきょろと幼子のように辺りを見回す。ルイーゼは導かれるように、壁にたてかけられた姿見のカバーを取り外した。

 鏡には、実態のない虚像だけが――虚像のクライがうつりこんでいた。

「先生!!」

 ルイーゼはおもわず、鏡にすがりついた。

 クライは、彼女がいちばんよく知っている顔で微笑む。

「ふたりとも、よくここまでたどり着きましたね。さすがはぼくの弟子です」


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