#26
前回までのあらすじ★謎の少女シュカに、「恋人」として連れて行かれてしまったクライを取り戻すため、一度は離れていたシーナがルイーゼに協力することに。果たしてクライの本心はどこに……?
作戦会議を開くため、ルイーゼたちはクライのいなくなった宿の部屋に戻ってきた。
「初めまして。ルイーゼと申します!」
ぺこり、とお行儀よく頭を下げると、マッシュルームカットの少年が手をひらひらと振った。途中で合流したのだ。
「あ、別にそんなにかしこまらなくて大丈夫だよぉ。俺はテオ。よろしくっ」
簡易な台所では、不機嫌そうに腕を組んで沸騰しそうでしないヤカンを軽く睨んでいるシーナがいた。
「いや、しかし今回はタッグを組むってことでいいんだよね? 俺、君たちからシーナを横取りした形だったから怒ってるかなーって思ってたけど」
「え、別に怒ってないわよ。先生だって隠し事多いしテキトーだし二言目にはハッハッハだし、シーナがキレるのも無理ないわ」
「きみハッキリしてるね。いいねいいね」
「そう? それほどでも」
ルイーゼはにこっと快活な笑みを返した。
「しかしさぁ、シュカが探してた愛しい人――とか運命の赤い糸の人――だっけ? が、クライさんだったとは俺も驚いたよ」
「それは操られているんだよ。シュカって女は魔女だ。間違いないね」
「信じてるんだねぇ、師匠のこと」
「だから、師匠じゃない――」
にやにやと指摘してきたテオに向かって、咄嗟に反論するシーナだが、さらりと長い脚を動かしてかわした。
「まあまあもうそういうことじゃん? クライさんの弟子としてじゃなくて、マエストロになろうったって、だいいちシーナは山にすら登れなかったんだからさ――」
「へ? のぼれなかったって? フーム山に?」
「!!! おまえそれはっっ!」
シーナは頬を真っ赤にして、ベストを着たテオの胸倉を掴んだ。
「あのねー、こいつクライさんに反抗した時、一人で山にのぼろうとしたじゃん。迷って二合目までしか行けなかったんだよー」
「えー、シーナってば、マジ? あんなにカッコつけてた割に……」
「うわーうるさいうるさいうるさいっ!!! おまえもうここにいるな!!」
シーナがひとりでわめいているところで、ヤカンのお湯が沸き、ピーッと快活な音が部屋中に響いた。
「あ、シーナ。沸いたわよ」
「このおっ」シーナは唇の端を曲げながら、ガスコンロの火を止めて急須にそそぎ始めた。
その隙にテオは全く別の話題に摩り替えた。
「ところでルイーゼってカレシいるの?」
なんだその単刀直入な質問は!思わずシーナは湯飲みからお湯をこぼした。
「あー、残念だけど、いないのよねぇ」
「好きな奴は?」
「いるいる。この子♪」
ポケットから一秒たらずで写真を取り出し、ぴらん、とテオに見せた。
それは――銀髪の少年がステージの上で熱傷している、サイン入りの、よくあるアイドルグッズだった。
頬に赤みをさし、マイクにかじりつくように熱唱しているタンクトップ姿の汗まみれの少年を見て、シーナは一瞬で固まった。
「ぬ、ぬぁ、なぁっ……!!」
「あ、あんた知ってる? この子。リンゴっていうアイドルよ。12歳で電撃引退した……」
「知ってるも何も、そいつは、この世で一番だい……」
「え、なに? なんか言った?」
「なんでおまえそんな写真!?」
「だって好きなんだもん、リンゴ」
けろりと宣言するルイーゼ。
「おまえ趣味が悪いぞ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶシーナ。
「なんですってぇ? あたしの好みにケチつけたわねっ! あたしリンゴのせいで最近、銀髪フェチなんだから! リンゴは最高よ、かわいいし熱血漢だしファンを大切にするし! だいたい、あんたにリンゴのなにがわかるというのよ!」
「わかるともさ! 俺は大嫌いなんだよ!! あんな気取ってアイドルヅラしてる気味の悪い男!」
「あー、ひどぉいー!」
わひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。とテオがひとり、こらえもせずに下品な笑いを響かせた。
「なんで笑ってるの?」
「実はね、こいつ……リンゴの昔の友だちなんだぜ」
テオはルイーゼに片目をつぶった。
「うそおおおおおっ!! シーナ、シーナ、あああ、あたしの第二のお兄ちゃん!」
「誰がお兄ちゃんだっ!」
「あたしあんたと会えてよかったわ!」
「俺はよくなかった!」
しばらくリンゴにまつわる騒ぎは続いたが、どんなに粘ってもシーナがリンゴを紹介するつもりはないという一点張りで、そもそも居場所がわからないという言葉にさすがのルイーゼもおとなしくなった。
「でも昔のツテを探せば、ぜったい見つかるはずだわ……」ルイーゼはトロンと目尻を下げた。
「ああそう、探せばいいだろう(探したところで見つかるはずないけど)。ただしクライ様を取り戻してからだぞ」
「わかってるわよぉ。よっしゃあ、さっさとうやってしまいましょう。そのシュカって子のこと、調べるわよ」
そこに関しての作戦はこうだ。クライはマスターマエストロ、シュカは最強の魔女。この最強タッグに、ルイーゼたちなどが力とか魔法で敵うわけがない。そのため、まずはシュカが何者なのかを調べて、彼女の目的を解明するところから始めることになった。
入れたての紅茶を囲み、一同はクッキーをかじりつつ、会議した。
「で、シュカって子とはどこで会ったの?」
「ああ、フームの山だ」
「フーム? え、あの……暴れだす竜がいるっていう……?」
シーナは首肯し、「そう、その竜がいる場所だよ」と肯定した。ルイーゼはしばらく呆然としていたが、
「それって……クライ先生がマエストロであることとめちゃくちゃ関係ありそーじゃない! あのシュカって子、竜のグルなんじゃないの!?」
ばん、とテーブルを叩いてルイーゼは腰を浮かせた。湯のみのお茶の表面がぽちゃりと音を立てる。口を大きく開いて、シーナとテオは「あっ」と声をそろえた。
「あんたらなんで、そんなことにも気づかないのよ~!」
「え、でも、シュカは竜について何も知らないと言っていたぞ? 共に探したんだが、竜の住処は見つからず――」
「シュカが竜の仲間なら、わざわざアジトを敵に教えるわけないでしょっ」
ルイーゼに論破され、テオは「おお、そうか」と手をぽんと打った。
「盲点だったな……」
シーナも腕組みしながらうなる。
「ああああもう、こんなとこで会議してる場合じゃない! とにかく、フームの山に行きましょう! 必ずそこに秘密が隠されているはずよ!」
ぐっと拳を握りしめ、ルイーゼは部屋の電球を睨んで宣言した。
* * *
次の日――テオはクライたちの見張り当番になった。ルイーゼが携帯していたクライの髪の毛を使って、(注:べつにルイーゼがフェティシズムなわけではなく、はぐれた時のために相手を探し出せるよう、パーティの髪の毛を持ち歩いているのである。ちなみに彼女はシーナの髪の毛も持ち歩いている)テオはクライの居場所を監視することになった。
そしてルイーゼはシーナとともに、ライヒ町に戻り、電車を下りて快晴の青空を見上げた。
ルイーゼは歩きながらつぶやく。
「いい天気ね」
「まったく不穏なものが感じられないな」
「先生が竜の怒りを鎮めたばかりだからだね。今ならきっと危険じゃないわ。行きましょう、シーナ」
「ああ」
二人は方位磁石を手に山のふもとに降り立った。




