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#22

前回までのあらすじ★ロッテに騙されてまんまと拉致されてしまったルイーゼ。一方、クライは不調のため脅迫状に気付かず、ツキコとデート。代わりに脅迫状を拾ったシーナが、走り出す!

「ちょっとおおおおおっ! ロッテ、なにするの。リンゴはどこ、どこなのよぉ!」

「汚い真似して、悪かったわね」

 部屋に着くなり、ルイーゼはロッテに身体を突き飛ばされ、部屋のはじっこに転がされた。そこに、天井から頑丈な鉄格子が下りてきて、狭い角の空間に閉じ込められたのだ。

 鉄格子を掴んで揺さぶるが、びくともしない。

「見事にだまされてくれたようだね。さすがは、ロッテちゃんの甘い罠」

 ぱちぱちと手を叩きながら、隣の部屋から出てきたのは、部屋の中なのに帽子とサングラスを外さないヴァレンだった。

「だ、誰、ですか」

 ルイーゼは身を縮込ませる。

「あたしのお師匠さま、ヴァレンよ」

「ごくろ、ロッテちゃん」

「造作もないです」

 ロッテはルイーゼを見下ろし、にやりと笑う。

「仕方ないのよ、許してね。ルイーゼ」

「あんたたち、なにたくらんでるの!?」

「俺たちは、魔法協会のメンバーだ」

 ヴァレンの言葉に、ルイーゼは腰を抜かしそうになった。

「ロッテ、あんた……いつの間に、魔法協会のメンバーに!」

「ええ……つまり、あなたとは敵同士よ」

「わかったわ。あんたがそういう女だって、前からわかってたからなにも言わない。それはともかく、リンゴはどこなの!」

「あんたねえっ、状況を理解しなさいよ。そんなの、おびき出すための嘘に決まってるでしょぉ!!」

 真剣に叫ぶルイーゼに、思わず、ロッテはデコピンをお見舞いしていた。

「いでっ」

 額を押さえるルイーゼ。

「そんなぁぁ。許さないわ、ロッテ! よくも、あたしの純粋な気持ちを弄んだわね」

「って、問題はそこなの? 拉致はどうでもいいの?」

「もう容赦しないわよっ! ミント、出て来いっ!」

 ルイーゼは鞄から〈蜂蜜のベル〉を取り出し、思い切り縦に振った。森の木漏れ日のような光が、一瞬、部屋にほとばしった。手をかざしながら、ロッテは驚愕した。

「あ、あのさルイーゼ、ピンチになったらいきなり他人に頼るの? あんた、魔法使いよね? プライドとかないわけ?」

「魔法で、あんたに、勝てるわけ、ないじゃないの~! しかもこの不利な状況で」

 唇をかみしめながら、ルイーゼはわめいた。

「あら、よくわかっているみたいね」

 小さな光の渦から妖精の少年ミントが、横たわったままの姿で姿を現した。睡眠中だったらしい。

「起きて、起きなさい」

 ルイーゼは手をパンパンと妖精の耳元で鳴らした。ミントは目を擦りながら、「うぅ~ん」と眠そうにうなるだけだった。ルイーゼはがっくりと肩を落とした。

 これのどこが副賞なのよ。役に立たない奴め!

「おとなしくすることね。だいじょうぶよ、すぐにあなたの優しい先生が助けに来てくれるわ」

「先生を脅したの!?」

 ルイーゼは、自分は全く囚われのヒロインに向いていない体質だということを理解していた。人質の素質がないということも。

「そうだ。魔法協会は、魔法使いの女が嫌だとか、てきとうな理由をつけているだけなんだ。それは建前」

 ヴァレンは帽子を脱いで、指でまわした。

「俺たちが本当に欲しいのは、マスターマエストロの魔法、〈ブレイン〉だけなんだよ」

「そんな危険な魔法で、あんたたち、世界制覇でもたくらんでいるっていうわけ?」

 ルイーゼは背筋を冷たくした。手をぐっと握る。先生はたったひとりであの魔法を抱えて生きている。誰にも渡さないはずだ。たとえその身を滅ぼそうとも。

「違う、その逆だ。魔法協会は世界平和を目指している。〈ブレイン〉は一人の手に持っておくのは危険だ。いつクライが正気を失うとも限らない。そこで、俺たちが管理したほうがいいというわけだ」

「……そう。ご立派ね。でも、あれはそんなに単純なものじゃない。あなたたちは、なにか勘違いをしてるわね。先生はきっと、ここには来ない」

「え」

 ロッテは驚いて瞬きをした。

「ほう?」

 ヴァレンは片眉をあげる。

「その心は?」

「だってあたし、先生に利用されているだけなんだもの。弟子なんて、ただのカモフラージュ。なにも教えてもらってない。後継者として認められてもいない。替りはいくらでもいる、ただの都合のいい、田舎の子どもなの。たぶん、先生は……」

 そう、もうひとりの弟子……ルイーゼはしばらく会っていない兄弟子の憎まれ口や、少し煙草くさい息を思い返した。シーナが囚われたのなら、先生は身を投げ出してでも助けにきたかもしれない。

(とにかく、来ちゃ駄目だからね、先生)

 ルイーゼは助けが来ないことを祈った――けど、なんでもいいから助けに来てほしい、とも思った。ああ、もう。じぶんが弱くて嫌になる。

 そのときだった。

 ビジネスホテルの扉が激しく叩かれた。クライではない。先生はこんなに焦ったりしない、とルイーゼは直感で分かった。

「来たみたいだ。ロッテちゃん」

 ロッテはヴァレンの合図を受けて、扉の鍵を開けにいった。

 姿を見せたのは懐かしい、金髪の少年だった。彼は顔じゅうを汗だくにして、飛び込んできた。

「ルイーゼ、無事か!」

「シーナぁぁ!」

 がしゃん、と思わず鉄格子を揺らし、ルイーゼは叫んだ。ロッテは、「なんであんたが来るの?」と失望の目を向ける。

 あながち、ロッテが言っていた『リンゴがここにいる』という話は嘘でもなかったようだ。ただし、誰も気づいてはいないのだが……。





*        *       *





 一日中ツキコにつき合わされ、クライは色んな場所へ行った。ふだん遊ぶといっても一人でカジノに行くことの多いクライは、真っ昼間から健全な遊びを――映画に、美術館に、公園、レストランでパスタのランチなど――しているじぶんに驚いていた。

「ねえねえ、クライ、見て。ここから見える景色は町でいちばん綺麗なのよ」

 そう言ってツキコがクライを連れてきたのは、橋の上だった。手すりにもたれかかり、ツキコは無邪気に夕暮れに染まってゆく町の風景を見つめた。クライもならって、彼女の隣に立つ。

「知らなかった、ここ」

「いいスポットでしょ?」

「ええ」

「クライ、今日は本当に楽しかった。ありがとね」

 あのフームの山でなにを見たのか、なにを聞いたのか、どんな言葉を口にしたのか、魔法の呪文はなにか――クライにはすべてが泡のようになって頭から消えていくような感覚に陥っていた。しかしそれは錯覚だろう。山に行ったあとは、いつもこうなる。気力が萎え、なにも断ることもできず、調子が出ない。ただひたすらに、ひどく疲れた。宿に戻って、早く睡眠を取るべきだった。ツキコには悪いが、今日一日、気分転換をするためだけに付き合ってしまった。でもツキコはたぶん、そのことを気づいている。知りながらも、なにも言わないで、笑顔を向けてくるのだ。

 ツキコの後ろ、橋の奥から、黒髪の少女の姿が見えた。長い黒髪をはためかせ、駆け寄ってくる少女。

 ――ああ、のみこまれる。

 クライは気を失いそうになった。

「どうしたの……?」

 ツキコはクライの視線をたどった。そこには、じぶんより年下のあどけない瞳をした少女が、目に涙を溜めながら、クライに熱いまなざしを向けていた。

「あなた!」

 少女はクライに向かって叫ぶ。

 ――あなた?

 ツキコはじぶんの五感が信じられなかった。モデルのように細い手足の、病弱そうな少女は、クライの胸にためらいもなくするりと飛び込んだ。

「会いに来ました。わたしです。シュカです。あなたに会いたくて、来てしまいました」

 ツキコは声も出せなかった。クライの表情は影になって見えない。彼の両手は、ためらうことなく少女――シュカの背中に触れた。

 橋の上で、ツキコの目の前で、クライとシュカは、強く固く抱きしめあった。



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