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#19 

これまでのあらすじ★クライはルイーゼに、「マエストロの魔法は人の心を操る禁断の魔法だ」と教える。一方、師匠となったヴァレンに連れられ、ロッテは魔法協会に足を踏み入れる――。


 魔法協会の本拠地は、暗くてじめじめしている場所を想像していたが、そうでもなかった。元は小学校だという建物を改造した広い場所だった。明るい日差しの指す校庭を歩み、ロッテはヴァレンとともに魔法教会の門をくぐったのだった。

(それにしても、なんか、変よね?)

 ロッテは、わだかまりから抜け切れなかった。魔法協会は、女性の魔法使いを快く思っていない。魔法使いの由緒正しき伝統に逆らうから、と聞いている。だから女を弟子に取ったマスターマエストロのクライ(と、その弟子のルイーゼ)は、今、標的にされているのだ。しかし、それならば……

(ってゆーか、あたしも女だし!!)

 ロッテは身の危険を感じ、思わず、ヴァレンの後ろに隠れた。

「ん、どうしたの、ロッテちゃん?」

 気付いたときには遅く、すでにヴァレンとロッテは会議室に着いていて、魔法協会の面々が、四角いテーブルを並んで囲んでいた。いずれも初老の男ばかりで、ヴァレンはひときわ若いほうだ。かなり浮いている。女に至っては、予想通りロッテしかいない。

(こんな危険な場所に迷い込んだ私は小鹿っ!)

 などと酔っている場合ではない。ロッテはおずおずとお辞儀をした。

「は、はじめまして。ヴァレン師匠の弟子の、ロッテと申します」

「この娘は強いよー」ヴァレンが協会のメンバーたちに、しごく適当な紹介をする。老人たちは殺気立つわけでもなく、かといって興味津々というわけでもなく、落ち着いた様子だった。ロッテはどぎまぎしながらも、端っこのほうの席に座った。

 それと同時に、二枚扉が開かれた。

「皆さん、お集まりですね」

 現れたのは、小柄な女だった。化粧っけのない綺麗な肌で、未亡人のような黒いローブを身体に巻きつけるようにしていた。女が現れたことに、ロッテは驚いた。

「では、クライ及びその弟子ルイーゼを生け捕りにする作戦を練りましょう。あ、ちなみにルイーゼは誤って殺してもいいです。どうせ、《ブレイン》を習得していないでしょうしね。でもクライは殺してはなりませんよ」

 あまつさえ、この年齢層の高い会議のなかで、仕切り始めた。ロッテは隣のヴァレンに耳打ちした。

「お師匠様、あの人誰ですか?」

「あれは魔法協会会長のオルビア女史だよ」

「会長? ちょっと待ってくださいよ。なんで女を嫌う魔法協会の会長が女なんで……」

 思わず声が大きくなってしまい、ロッテは皆の視線を一同に集めていた。

(ぐ、しまった……)

 じろりと、黒い静謐な目でオルビアが見やってくる。

「あなたが、ヴァレンの弟子のロッテ?」

「え・ええ・まあ」

「可愛らしくて大変けっこうです」

「え、ええ?」

「でもね――かわいいだけで世の中渡っていこうったってそうはいかないのよオリャアアアアアッ!」

 突然叫んだかと思うと、オルビアはローブの中から樫の杖を取り出し、青く輝く水晶玉を振りかざした。

 ここはとっさに防御、と考えたが実はまったく防御魔法を習得していない弱点があるロッテは、とりあえず三回ほど拘束で床をでんぐりがえって、凍てつく氷の攻撃を物理的に逃れた。ロッテがいた椅子はすっかり、氷の彫刻のような椅子と化していた。

「ほう……なかなかやるみたいね」

「と、とつぜん、なにするんですか、あなたは」

「女なんか連れてくるからよ。ヴァレン、私に恨みでも?」

「とんでもない。ただ、ロッテは貴方様の意思を継ぐ後継者に相応しい人だと思ったんですよ」

「私に女の後継者など要りません。今すぐそんな小娘、破門なさい。いいですか、女は認めません。なぜなら」

 オルビアの瞳が静かに、そして冷たく燃えながら見開かれた。

「私が唯一無二、史上最高の魔女だからです。それ以外の女など、一匹たりとも認めないわ」

 ロッテはその言葉に、戦慄した。

(っていうか……女の魔法使いがこれほど嫌悪されていたのは、この会長の超個人的方針なのかよ――!!!)

 




 *       *       *





「いないみたいだな」

 洞穴をくまなく探したが、テオとシーナは諦めざるを得なかった。

「魔物、見つかりませんね。少し、見てみたかった」

 ここまでふたりを案内したシュカも、少し残念そうな顔を見せた。

「まさか、人間の世界に逃げたのか?」

 シーナが真剣にテオに目配せする。が、テオは笑って肩をすくめた。

「そうだったら、今頃はパニックだろうさ。暴れまわってる頃だぜ。たぶん、魔物は一時的にでも《封印》されると、姿さえ消えてしまうに違いない。シーナ、今は駄目だ、まだクライが魔物を封印したばかり。あと数ヶ月は待たなくては。魔物が復活しかけたときが、魔物が姿を現すときなんだ。その時、クライより早く、この場所に着かなければ」

「ならば、クライ様――いや、マエストロが、どこかに捕まっていてくれれば楽だな」

「それって魔法協会のことかい?」

 テオはにやりと笑った。

「そういう動きがあるんだ」

「魔法協会なんてぬるい連中に、クライがやられるとは到底、思えないよ」

「確かにそうだけど、足止めくらいにはなって欲しいものだ」

 寝返ったシーナの言動は、まだどことなく不自然さが漂っていた。ついこの前まで、クライにべったりだったのだから、仕方ないと言える。

「じゃあ、案内のお礼に、シュカさんの人捜しを手伝うとするか」

 テオの言葉に、シュカは目を輝かせた。

「はい! 行きましょう。行きましょう」





 *        *       *





 ライヒ村からリンドウ町に戻ってきたルイーゼは、ネオン街を見て、呆然としていた。

「え、遊ぶって?」

「ひと仕事終えたあとだし、ぼくは遊びます」

 そう宣言したのは、クライだった。

「今からですか?」

 夜11時を過ぎていた。

「ギャンブルは夜が基本です」

「基本ってこともないんじゃないかしら」

「麻雀とスロットと音ゲーを週に一度はやらないと、ぼくは気が篭るんです」

「先生、オトゲーってなに? 一夜限りの女の人ですか?」

「まあ説明するのが面倒くさいので、そういうことにしておいていいです。君は先に宿に戻っていいですよ。遊んでもいいけど別行動で。じゃ」

 クライはそういい残すと、さっさと夜のネオン街に姿をまぎれさせ、消えた。

 田舎育ちのルイーゼは、街はぶっそうで、時間のつぶし方がさっぱり分からなかった。おとなしく宿に戻ることにした。

(それにしても、こんなにぼうっとしていて、いいものかしら。あたしは、もっと、やらなきゃいけないことがたくさんある気がするんだけどなぁ)

 かといって、なにも具体的には思いつかない。

 クライは、こう言った。マエストロの魔法は禁断の魔法。だから、代々継承していくことを、もうやめにしたい。この魔法が間違った使われ方をしたり、むやみに広まってしまったら、それこそ世界の均衡は乱れ、秩序は破壊するだろう。

(たとえば、好きな人がいたら、その人を振り向かせることができちゃうなんて、そんなのって、あり?)

 私的な欲望に、その魔法を使ってはいけない。その葛藤に、いつでも自制して耐えなくてはならない。先生は、それをひとりで抱えている。平気そうな顔をしながら。たくさんの人に狙われながら。そう、わかる、みんな欲しいもんね。そんな魔法があったら。

(あたしが今いちばん叶えたい願いは)

 ルイーゼはポケットに忍ばせている写真を取り出した。銀髪の王子さまのような少年がそこに居てほほえんでいた。

(リンゴに会いたいわ)

 ルイーゼは写真をそっと胸に抱いた。


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