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#18

 あたし、海野モモエ! 14さい、ちゅーに★ 趣味は寝ることと歌うこと♪ ごくフツーの女の子だけど、なんと実はあたし、伝説の魔法少女ピーチエンゼルなの!! しゃべる黒トカゲのミワっていう子に見初められて、正義のために戦う魔法少女になっちゃったんだけど……ああ、誰っ? 恋する乙女にラブレターを出しまくって放課後裏庭に呼び出して、恋するエナジーを吸い取る悪いやつ! 乙女心をもてあそぶなんて、許せない! クマさん腹話術で、おしおきよっ!





 ◇ ◆ ◇ ◆




 

 青いウインドブレーカーをはおった青年が、森の中で、一人の少女を追い掛け回していた。

「だからぁ、あたし、舞台なんてやりませんってばぁ!!」

 そう半泣きで主張するのは、はちみつのような色のふわふわ髪が本人を如実に象徴している少女、モモエであった。

「そう言わずにさぁ企画書だけでも見てくれない? 設定から他の七人の魔法少女キャラまで、かなり細かく決めてあるんだよ。実は主役のピーチエンゼルは前世がトカゲの国の王女様で、ヤモリの国の王子様と恋に落ちるんだけど、国同士が対立していて許されざる恋で、ふたりは駆け落ちしてついには心中自殺を図るんだ。そしてモモエとして生まれ変わったピーチは、前世で愛し合った王子と運命的な再会をするんだけど――」

 青年は、落ち葉を踏んで駈けずりながら、分厚い企画書を片手に力説する。

「うわああああん、もう、いいですっ! だいたいアズマさん、なんで主人公の名前があたしの本名と同じなんですかぁっ! 恥ずかしくて世間に顔向けできませんっ!」

「え、それがまずかったの? じゃあわかった、モモエをモエエに変更するから、出演してくれるよね? モモエちゃん!」

「しませぇえぇぇえぇんっ!!」

「そりゃないよ、だって他の魔法少女のキャストはぜんぶ決まってるんだよ、うちの事務所で売り出し中の子たちだよ。みんな主役のピーチをやりたいって殺気立ってるほど、この作品には賭けてるんだよ!」

「ぜひそちらの新人さんにお譲りしますぅ」

「そうはいかない、なぜなら――」

 若手アイドル系舞台プロデューサー・アズマは、サングラスの奥の目をきらりと光らせてモモエにせまった。

「俺は君に運命を感じたから」

 アズマによれば、かつてノワール学園で行われたマスタークライ後継者オーディションでモモエが披露したロリロリ腹話術を見てインスピレーションを受け、企画書を書き上げ、事務所の上司に見せたところ、タイトルだけで即却下だったが、あきらめきれずに、上司の肩をもんだりお茶を入れたり浮気のアリバイを手伝ったり脱税をごまかしたりして、なんとか取り入り、ようやく舞台化を認めてもらえた作品なのだ。おまけに、今まで雑用しかしていないアズマの初仕事なのである――

「というわけで、俺はぜひ君を採用したい、君こそが俺の夢そのもの――」

 アズマが思いのたけを叫び、顔を上げたところ、モモエの姿が消えていた。木の幹をのぼるリスだけがいた。

「って、ああああっ! つい一人語りしてしまった~!」






 ◆ ◇ ◆ ◇





 

 一ヶ月もつきまとわれているアズマのことを思って、森を抜け出たモモエは、「そこまで仕事しなきゃいけないアズマさんも哀れ……」と同情すらしていた。

 学園は休日だったので、モモエは町のボランティアの一環として、とある一人暮らしの老人の家に向かっていた。週に一度、アンダーソンの話し相手をするのがモモエの日課であった。アンダーソンは足を悪くしていて、自由に外を歩き回れない環境にある。少しでも楽しませてあげないとモモエは足しげく通っているのだ。

(魔法少女の舞台なんてしたら、アンダーソンさんのところに行けなくなっちゃうわ)

 モモエはそう思いながら、今朝早起きして焼いたクッキーを持って赤い屋根の扉を叩いた。

「アンダーソンさん、こんにちは」

 抵抗なく扉が開く。

「おお、モモエちゃん、よくきてくれたね」

 椅子に腰掛けた白髪の老人が微笑んだ。

「今日もあの、モモエちゃんにお熱の男の人に追いかけられたのかい?」

「うん、もうほんとうに嫌になっちゃう」

「モモエちゃんはかわいいからなぁ。男の人が追い掛け回すのもわかるよ。で、付き合うのかい?」

「付き合うって!?」モモエは思わず叫んでしまい、口をつぐんだ。

「ちがうよ、アンダーソンさん! アズマさんはあたしをスカウトしてる事務所の社員さんで――」

「そうか、社会人なのか、今度私にも紹介しておくれよ。モモエちゃんにふさわしい相手かどうか見てあげるからね」

「ああもう……ちがうのに」

 説明しても、『魔法少女ピーチエンゼル』なるものをアンダーソンは概念で理解できないと判断したモモエは、声をすぼめていった。

(まあいいか、そういうことにしておこ)

 そっとため息をつくモモエ。

「懐かしいな、恋愛の沙汰は、私も若い頃はいろいろとあったものだよ」

「え! 本当に? アンダーソンさんの話、聞きたい!」

 ここぞとばかりにモモエは飛びついた。

 アンダーソンはゆっくりと話し始めた。

「とはいってもね、本当に愛した人はたった一人だったよ」

「その人とは、結婚しなかったの?」

 独身のアンダーソンの恋愛話は新鮮で胸が高鳴った。

「ああ……なにせ、突然、彼女は姿を消してしまったんだ」

「え……どうして」

 アンダーソンは首を横に振る。

「理由はわからない。話してくれなかったところをみると、深い事情があったのだろうね。けどこれだけは分かる。彼女は決して私を嫌いになったわけではないんだ。私と彼女の心はいつでも繋がっている。だから私は、彼女と別れたあとも、ずっと他の誰にも心うつりすることがなかった……」

「素敵……」

 うっとりとモモエはつぶやいた。

「アンダーソンさんには心に決めた人がいたのね。それが何十年も続くなんて、やっぱりそれは真実の愛に違いないわ!」

「でもね、モモエちゃん、もう相手も生きているかどうか……死ぬ前に一目会いたいとは思っているんだけど、私の足もこれだし、もうかなわない夢だねぇ……」

 モモエは想像してみた。若い頃に別れた恋人のことをずっと忘れないなんてできるだろうか? 人は順応する生き物だ。時を経て、また新たな出会いを繰り返すうちに、別の恋を見つけていくものだ。いくらでも結婚のチャンスはあっただろう、しかしそれらをすべて投げ打ってきたその強靭で純真な心はどうか。

「アンダーソンさん、あたし、その恋人を探すのを手伝う! へただけど、魔法の力が、なにかの役に立つかもしれないもの」

 モモエは覚えている限りの恋人の情報を言ってもらい、片っ端からメモしていった。

「ありがとう、モモエちゃん。気持ちだけで十分だよ」

 アンダーソンはそういったが、もうモモエの心は決まっていた。






 ◇ ◆ ◇ ◆






 切り株の上でコーヒーを飲みながらため息をついていたアズマは、突然ぽんと肩を叩かれて振り向いた。そこには、薄い色の瞳に決意を秘めたモモエが立っていた。

「アズマさん、あたし、舞台やります」

 続けてこう言った。

「そのかわり、人探しをする資金も会社から調達してください」


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