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#15

前回までのあらすじ☆魔法協会の下っ端マックに囚われたルイーゼとツキコを救ったのは、ノワール学園から飛んできたロッテ(&妖精BOYミント)だった……

 じゃ、次の仕事があるから、と言って、早々にミントは姿を消した。

 崩壊する建物の中からたちあらわれてくる三人の影を見つけて、シーナは目を細めていぶかった。

「ルイーゼ……?」

「シーナ~!!」

 ルイーゼは煙の中から兄弟子に大きく手を振った。ルイーゼの他に、ツキコと、そして紫のローブ姿の見知らぬ少女がいた。その少女から、破壊力を誇る攻撃魔法がたった今ほとばしったばかりだというのは、この空間全土に広がる魔法の気配の残り香だけで容易に知ることが出来た。

 心なしか三人ともほんのり焦げ色がついているようだったが、無事なことには変わりないようだ。

「あんた、今まで何してたのよっ!」

「それはこっちのセリフだ。そっちの人はともかくとして、この人は誰だ? 今、魔法を放った人だな? 凄い魔力だ。君こそクライ様の弟子にふさわしい」

 その一言に、ルイーゼはドキッと心臓を突かれる思いがした。誰もが明白にそのことを考えるだろう。

「ありがとう。それほどでもないわ、といいたいところだけど、その通りよ。ところで、あなたは多分、クライ様のお弟子様とお見受けできるけれど、どうかしら? それともルイーゼの彼氏とかそういう落ち? 顔が美少年系だしねぇ……」

「後者に一票投じるわ!」

 ロッテの言葉に不用意にツキコが乗り始めたので、ルイーゼとシーナの張本人ふたりはいっせいに叫んだ。

「後者は絶対に違うわっ! だいたいシーナのどこが美少年なのよ。もう16なのよ。オッサンよ。好みの範囲外よ!」

「美少年だなんていってないわよ。人の話はよくお聞き。かつて美少年だった気がするってことよ」ロッテの発言に、ルイーゼは声を上げて否定した。

「ええー、嘘ー! そんなことないわよ。あたしの脳内美少年レーダーが見逃すはずないわっ!」

「俺が美少年だったかなんてことは、どうでもいいんだよっ! お察しの通り、俺はクライ様の一番弟子だ。ルイーゼは俺の妹分……つまり出来の悪い後輩だよ。君のことは興味があるけど、でも今は、それどころじゃない。クライ様のもとへ急ごう、ルイーゼ」

「え、どうして――?」

 ルイーゼは肩をボールで弾かれたように顔を上げた。クライという名が出てきたことによって、ツキコとロッテの目つきも変わった。

「そうだ、クライ様がこの近くにいるのね? フームの山の近く……邪悪な気配がする。魔物が復活しようとしているんだわ」

 身を震わせ、ロッテが囁いた。

「え、本当に? あたしはなにも感じないけど」

「そりゃー、あんたは素人も同然の小娘だもんね。そうでしょうよ」

 刺々しいロッテを無視し、ルイーゼはシーナに飛びつくように尋ねた。なんだかんだいっても、ロッテは格段に自分よりも能力が上なのだ。勘は当たる。

「じゃあ、じゃあ先生が危ないの?」

「クライ様に限って、そんなことはない。けど、俺はクライ様のマエストロとしての仕事をこの目で一度見てみたいと思ってやまなかった。まだ目にしたことがないんだ。今回、初めて師匠は、俺をこの地へ連れてきてくれた。これはチャンスだったんだ。それなのに、お前が行方不明になるから……!」

「あたしだって好きでいなくなったわけじゃないわよ、これには色々と」

「そんなことはどうでもいい。とにかく急ぐぞ、山へいこう」

 強引で一方的な物言いに、ルイーゼはむかっときた。

「待ちなさいよシーナ。先生のことだから、あたしたちには留守を命じたんでしょう? 行っていいわけ?」

「俺は一人でも行く」

「そんなことして、破門されちゃうわよ、あんた」

 不吉な強い風が吹いていた。天候が悪い。行くだけで足手まといになることは確実と言えた。ルイーゼは懸命に止めたが、シーナはいうことを聞かなかった。

「たぶん、クライ様は重要な隠し事をしている。ルイーゼを弟子にとったことは、本意じゃないはずなんだ」

「それは――」

 ルイーゼは絶句した。予想は付いていたことだった。クライはなにか別の目的があって自分を弟子にした。決して、後継者として育てるわけではない。でも、ルイーゼは認めたくなかった。クライの弟子になったとき、最初は戸惑ったけれど、次第に嬉しくなってきたのだ。

「そうかもしれないけど、気にしてることを、そんな、大声で言わなくってもいいでしょ」

 ルイーゼは声をすぼめていった。そんなルイーゼに、シーナはクライが記した宿のメモを渡してから、叫んだ。

「いまさらそんなしおらしいことを言っても、無駄だ。俺はお前をクライ様の弟子だなんて認めていない!」

 シーナは走り出し、あっという間に霧の中に消えた。

 入れ違いに、人影がやってきた。その強大な気配に、シーナは足を止めた。クライが佇んでいた。汗がほんのすこし額ににじみ、目の下の隈に疲れが出ていた。ルイーゼは、こんな疲弊した師匠を見るのは初めてだった。軽口も叩けないといった印象だ。

「先生……だいじょうぶですか」

「心配は要りません。それより、君こそ無茶をしたようですね。ルイーゼ」

「私のことなんかいいんです」

「よくはないですよ。早く宿に行って休みましょう。そちらのお嬢さんは?」

 クライはロッテをちらりと見た。ツキコはいなくなっていた。彼女はストーカーに徹するようだったから、まあ、クライ本人の前には姿を現さないつもりなのだろう(とはいえ、本人にはバレバレだろうが)。

「ええと、この子は、あたしの友達で、ロッテっていう……ほら、オーディションのときに虹作った子よ」

 友達じゃないでしょという目でロッテから睨まれたが、ルイーゼは黙殺した。

「――ああ、あのときの。かわいいお嬢さんなので、今日はご一緒しましょうか」

 にっこりとクライはほほ笑んだ。いつものクライである。

「は、はいっ!! この上ない光栄です、クライ様っ!」ロッテの目が一瞬でハートになった。ルイーゼはため息を付く。あー、しかし、なぜみんなクライにそんなに夢中になるんだろ? 先生って正格は悪いけど、そんなに偉大って感じない。ふつうの人だと思うんだけどな。

 でも、と思い至った。シーナの指摘どおり、クライの弟子にふさわしいのは、私よりもロッテのほうだ。彼女の実力を知ったら、先生はどうするんだろう……。

 ロッテは道すがら、ずっとクライに話しかけ、アプローチし続けた。ルイーゼはシーナのことを思い出し、クライに尋ねた。

「あの、先生。シーナが……」

「山へいったんでしょう? 放っておきましょう。一人で上れるところじゃない。すぐに帰ってきますよ」

 クライが戻ってきてからは、山に漂っていた不穏な空気は息を潜め、穏やかな夜に戻っていった。





 *





 次の日起きると、朝っぱらの宿の食堂で、なぜだかロッテがクライに力説していた。うんうん、とクライはうなずいている。頷いているだけで、話を聞いているそぶりはないのが、クライらしいのだが。

「……というわけで、魔の手からルイーゼを救い出したんですよ」

「それはお見事ですね、ロッテ。うちのルイーゼの六倍くらいは実力があります。でも、なにも建物壊すことはないような気はしますけれど」

「日頃のストレス解消を兼ねました」

「それは合理的ですね」

「あたしは合理主義者ですから!」

「君は元気がよくていいですね。ぼくは、元気のいい女の子が好きです」

「えへへへへ」

 なんだ、その会話は……、口説いているのか先生? 呆れながらルイーゼが後ろから聞いていると、突然、ロッテはクライの両手をぐっと掴んでこう言った。

「クライ様、ぜひあたしを弟子にしてください! あたし、クライ様に教えていただきたいことがたくさんあるんです」

「君には師匠がいるのでは?」

「え、ええ……でもまだ正式に返事をしたわけではないんです。あたしは、クライ様しかいないって思ってます」

「君ほどの実力があるなら、ぼくを師匠に持つことは不幸ですよ。もっときちんとした師匠につきなさい」

「え? それって、どういうことですか……」

 クライは、ふふ、と小さく笑うだけで答えなかった。

 シーナはまだ帰ってきていない。ルイーゼには、朝食をじっくり食べる余裕もなかった。そそくさと立ち上がる。 

「先生。あたしやっぱり、シーナを探しに行きます」

「放っておきなさいと言ったでしょう」

 クライは穏やかなままだったが、シーナに対する態度が、ルイーゼに対するよりもずっと厳しいことは明白だった。

 その時、食堂の扉がかたんと開き、顔面が蒼白になった少年が入ってきた。

「シーナ!!」

 駆け寄ったルイーゼを跳ね除けるように無視し、シーナはつかつかとクライに近づいていった。クライは涼しい顔で、告げた。

「どうせ魔物のもとへは着けなかったのでしょう? 君にはまだ早すぎましたね」

「クライ様、俺はもう我慢できません」

「なにがですか」

「教えてください。なぜルイーゼを選んだんですか。実力で言えば明らかにこの、ロッテの方が勝っている。あなたの目は節穴ですか」

 しんと、静まり返った。

「シーナ」

 クライはほほ笑んで、告げた。

「ぼくは正直いって、ルイーゼなど、まったく魔法の実力を認めていませんよ。いずれ話すつもりでしたけど、ぼくは単にルイーゼを手元においておきたいだけです」

 はっ?

 突然飛ぶ話に、ルイーゼは硬直した。せ、せせせんせい、それって………。

「ぼくはルイーゼが好きなんです」

 ルイーゼは、耳を硬直させた。その耳が、どんどん赤くなっていくのがわかった。

 す、すきだって? 

 先生が? 

 私を?!

 笑い話にもならない。きっと、なにかの間違いだ。でも、先生は真面目な顔で、シーナに、告げている。

「それが理由です」

「ふざけないでください。女を弟子にすることがどんなに危険なことか、わからないんですか。そんな人だとは思わなかった」

「ふざけてなんていませんよ。好きな子をそばにおいておくために、ぼくは手段を選びません」

「そのために、魔法協会に狙われたり、師匠のアグリー様に破門を受けてもですか」

「ええ。そうです」

「わかりました。もうあなたとは、やっていけません。一緒にいても、腹が立つだけだ」

「そうですか、それは残念です。ぼくは君のことは、弟子だと思っていたんですが」

「なにを言われてももう信じない。もう俺はあなたの弟子ではない。俺は俺のやりかたで、マエストロになってみせますよ!」

 そう告げると、シーナは顔色のさえないままで、宿を飛び出していった。


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