第九話 飛行魔法
コランを失ったシオン。その悲しみからひたすら馬を走らせ、ついにグラニテへと到着する。
入隊早々、連合から直接『準騎士』の印章を賜った俺の名は、瞬く間に基地内を駆け巡った。すれ違う兵士たちの視線には、驚きと羨望、そして隠しきれない疑念が混ざり合っている。
視線やひそひそ話はいやでも耳に届くが、今の俺にはそれに応じる余裕などない。慌ただしく過ぎ去る日々と慣れない軍の規律の中で、ただ眼前の任務をこなすだけで精一杯だった。
だが、ようやく与えられた自室で一人静かになり、張り詰めていた糸がふっと切れたとき、途切れていた思考が元の場所へと戻っていく。
ここへ足を踏み入れた瞬間から、シオンのことがずっと胸に引っかかっていたのだ。あいつは今、どうしているだろう。無事だといいのだが。
◇◇◇
同時刻——。
シオンは、冷たい風が吹き抜ける荒野で静かに空を見上げていた。
馬を走らせること、丸七日。
親友を失った深い悲しみを紛らわすように、ただひたすら馬を走らせ続けてきた。
あの謎の光が去ったあと、どれほど試みても、あの台座が再び起動することはなかったのだ。
……コラン、君は一体どこへ行ってしまったんだ……
明日には、あの男たちと約束した町へ到着する。
どんなに強がってみても、やっぱり一人でいるのは寂しい。あの時、僕のせいでコランを巻き込んでしまったという後悔が胸を刺す。
でも、立ち止まるわけにはいかない。
英雄のことだけじゃない。たとえ何年かかろうと、僕は必ずコランを探し出すんだ!絶対。
___翌昼。約束の町、グラニテへと到着した。
ここは近くのスルグ山にある炭鉱で財を成した町らしく、あたりは作業着に身を包んだ炭鉱夫たちで溢れかえっていた。
町の入口付近にある厩舎へ馬を預け、集合場所である広場へと向かう。しかし、どれほど見回してみても、例の男たちの姿は見当たらなかった。どうやら、少し早く到着しすぎてしまったらしい。
彼らを待つ間の時間を使い、思い切って『転送技術』について街で聞き込んでみることにした。
ここは炭鉱の掘削技術者が多く集まる町だ。しかも国境付近に位置しているため、最新の技術動向に詳しい者も少なくないはずだ。……多分。
技術者が集まるという酒場に到着し、店内へと足を踏み入れる。
中は酒とタバコの匂いが充満しており、技師や炭鉱夫たちが朝から晩までどんちゃん騒ぎを繰り広げているそうだ。
だが、その狂乱の中で妙に静かな人物は、逆に酷く目立っていた。端の席で、一人黙々とグラスを傾けている男がいる。
その席へ向かうと、男はこちらとすっと目を合わせてきた。ういーっすと適当に声をかけ、その卓へと混ぜてもらう
話を聞いてみると、予感通り隣国から技術指導に来た技師で、名前をヘンリクというらしい。あちらの鉱山ギルドで長年現場を仕切ってきた技師長とのことだ。
遠回りをする時間はない。僕は覚悟を決め、単刀直入に尋ねた。
「この世界に、物や人を一瞬で遠くへ『転送』するような技術は存在しますか?」
「いや……そんなもの、長年この仕事をやっているが見たことも聞いたこともないな。そちらこそ、何か心当たりでもあるのかね?」
ヘンリクは不思議そうに眉をひそめた。
やはり、あの台座は現代の人類の技術ではない。古代遺物の類いとみて間違いなさそうだ。
沈黙する僕に対し、ヘンリクはジョッキを傾けながら言葉を続けた。
「ただ……あくまで眉唾の噂だがね。どこぞの機関で『飛行魔法』の開発が進められている、なんて話なら耳にしたことがある」
「飛行魔法……」
魔法……アークを技術転用したもの、か。もしそれが本当なら、人間が空を自由に飛べる時代がもうすぐやってくるのかもしれない。
「にわかには信じがたい話ですね……」
「……フン、まあ噂に過ぎんよ」
「その……どこぞの機関、というのは?」
僕が身を乗り出して尋ねると、ヘンリクはニヤリと笑い、左手の親指と食指をくいっと擦り合わせて見せた。
結局金かい。
僕は小さく息を吐き出すと、大人しくポケットから銀貨を取り出し、彼の手に置いた。ヘンリクは「しめしめ」と言わんばかりの顔でそれを受け取ると、懐へ収めて再び語り始めた。
「ここから北西にある小国——ガルダニアの軍直属の研究機関らしい。あそこは他国の英雄の傘下に隠れてばかりだからな。新技術の開発に必死なんだろうさ」
……噂の割には、随分と詳しいじゃないか
というツッコミは、ぐっと胸の奥に押し込めておくことにした。せっかく銀貨を払ったのだ、余計な水を差す必要もないだろう。
その後は自分が開発したという掘削技術の話をひたすら語られたため、適当なところで区切りをつけ、そそくさと店を後にしたのだった。ありがとう、ヘンリクさん。
念のため広場へと戻ってみると——人混みの奥に見覚えのある人影が目に入った。
やっぱり、例の三人組だ。彼らも予定より早く到着していたらしい。
あちらも僕に気づくと、パッと表情を明るくして駆け寄ってきた。
「おお、無事に着いてたか! で、早速だが作戦はいつ決行だ?」
「話が早くて助かるよ。じゃあ…明日の朝で!」
「早いな。……そういえば、もう一人はどうした?」
サイドにいた男が、厄介な質問を投げかけてきた。
……さて、どう誤魔化したものか
コランがいなくなった本当の理由なんて、言えるはずもない。僕は引きつった笑みを浮かべながら、なんとか言葉を捻り出した。
「あ、あいつは前の町で何やら急な用事ができたみたいで……あはは」
「……ふん、まあいい。明日の午前四時、町の出口集合だ。遅れるなよ」
「はい、じゃあそういうことで」
そう言って彼らと別れた僕は、そのまま宿へと戻った。だが、明日への緊張と様々な思いが胸を駆け巡り、結局一眠りもできないまま夜を明かすこととなった。
面白いと思っていただけましたら、下の★★★★★評価やブックマークで応援していただけると励みになりますのでよろしくお願いします!、
頑張るので、第十話もよろしくお願いいたします!




