↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
10/14

第十話 国境越え

厩舎で馬を連れ出し、そのまま町の出口へ向かう。そこには荷馬車を引かせ、いかにも準備完了といった様子の三人組が待っていた。


「……行くぞ…。」


リーダーの言葉を受け、二人は御者席へ座って馬車を動かし始めた。

僕も手綱をぐっと握りしめ、彼らの後を追って進み出す。


流石に早朝の町外れには、人通りなどほとんどない。

目指す旧道は、ここから西へ約二十数キロほど進んだ場所にあるという。そこへ至る道は当然舗装などされておらず、なかなかの悪路だった。だが、文句を言ったところで道が良くなるわけでもない。


僕は黙々と馬を走らせた。

ふと好奇心が湧き、並走する男たちの荷台へと視線をやる。そこには頑丈な布が被せられていたが、その下には何かが大量に積み込まれているようだった。

一体、何を運んでいるんだろう……

だが、いくら考えたところで答えが出るはずもない。僕は小さく首を振り、前方に集中した。


道中、幸いにも真紅や賊に襲われるようなトラブルは起きず、僕たちは旧道を飲み込むように広がる深い森へと到着した。


この道が使われなくなったのは二十年も前のことだ。利便性を高めるため、勾配の激しい森を避けて、平原が続く現在の街道へ整備し直されたというのが主な理由らしい。

まさに忘れ去られた道。


木々の隙間を縫うようにして、なんとか進んでいく。これが思っていた以上に骨の折れる作業だった。

少しずつ、慎重に前へ足を進め——ついに、目的の旧道が視界に躍り出た。


もともと街道だったとはいえ、一面に背の高い雑草が生い茂っており、馬には随分と苦労をかけることになってしまった。

それからさらにしばらく進むと、あたりはあっという間に日に暮れていった。

その日は近くにある、事前に仮拠点としてある程度手が加えられた洞窟で一夜を明かすことになった。男たちによれば、『真紅』の群れに遭遇したのはここからさらに三キロほど進んだ、国境の壁の目と鼻の先らしい。


__洞窟の奥、外へ光が漏れない場所を選んで焚き火を興し、みんなで食事を取ることにした。


あと、ずっと聞きそびれていたけれど、そういえば僕はまだあいつらの名前すら聞いていなかった。

ずっと無口な男に、仕切り役のリーダー気質な男。そして、何かと突っかかってくるもう一人。


焚き火の爆ぜる音が、静まり返った洞窟内に小さく響く。

馬の世話を終えて戻ってきた僕は、スープの入った木コップを片手に、向かいに座る男たちへ視線を向けた。


「……ねえ。今更だけど、お互い名前くらい知っておかない?」


僕が切り出すと、リーダー格の男がスープを啜りながらそっけなく返した。


「……どうせ明日には国境を越えてお別れだ。今知ったところで何も変わらにゃしないよ」


「……そうか」


結局、名前は聞けずじまいのまま食事は終わった。

天井の小さな亀裂へ煙が吸い込まれていくのを眺めているうちに焚き火の火は落ち、洞窟の中は完全な闇へと包まれた。


暗闇に少しずつ目が慣れてくる。周りを見渡すと、男たちはすでに横になっていびきをかき始めていた。

奴らが密輸を企てているのは間違いない。今回はあくまで互いの利害が一致しているから見逃すが、次に立ち位置を変えて会うことがあれば……どうなるか分からない。それに、今夜だって寝首を掻かれる可能性はゼロではないのだ。


結局、その夜は深い眠りにつくことなどできなかった。

洞窟の入口から差し込むわずかな朝光を感じ取り、僕は静かに目を覚ました。

二日間あまり眠れていないこともあって慢性的な寝不足になっていた。

はやく隣国の町で休みたい。


僕は三人起こし、早々に出発することにした。

___馬車を走らせて一時間ほど経っただろうか。僕たちはついに、国境の壁へとたどり着いた。

壁に沿って進むと、目的である穴の開いた壁が見えてくる。ようやくレグラリアへ足を踏み入れることができる……だがその前に、こいつらに協力して真紅の討伐依頼をこなさなければならない。


三人の様子を窺うと、露骨に怯えているのが分かった。以前ここで遭遇した際、相当なひどい目に遭ったのだろう。

……もっとも、真紅と対峙してひどい目に遭わずに済むことなんて、あり得ないのだが。


二時間ほどあたりを見回している

だが——一向に姿を現さない。

しびれを切らしかけたその時、森の深淵から肌を刺すような気配が漂い始めた。

薄暗い木々の奥を凝視する。……いる。間違いない、見えた!


『真紅』だ。


次の瞬間、奴らのギラついたいくつかの視線が真っ直ぐこちらを捉えた。

捕食種以外の真紅が襲いかかってくる時、そこにあるのはただの『殺戮』だ。食うためでも、縄張りを守るためでもなく、ただ人間を殺すためだけに命を奪いに来る。

一体、何の意味があるというのだろう。


胸の奥から湧き上がる怒り。この理不尽さに、どれだけの人間が憎しみの涙を流してきたことか。

その怒りを、自らの血肉へと叩きつける。


「アーク、凍てつけ——『氷刃』!!!」


生み出された鋭利な氷の刃が、奴らの心臓を容赦なく貫通する。

衝撃と共に凄まじい凍気が溢れ出し、三日月状の軌跡を描いて周囲一帯を凍りつかせた。


一帯に倒れていたのは全部で三体。群生種と見て間違いなさそうだ。


「これでいいか?」


男たちに視線を向けると、今度は『真紅』にではなく、僕に対して怯えた表情を浮かべていた。

この様子なら、ついでに密輸も諦めさせられそうだ。


「お前らが持ち込もうとしていた品は、すべて森に捨てろ。……わかったな?」


威圧するように言い放ちながら、心の中でそっと呟く。

……ごめんよ。と、寝不足のストレスを、つい彼らにぶつけてしまった


その後は、怯えきった男たちを背に、ひたすら足早に馬車を進めた。貫通した国境の壁を通り抜け、レグラリア側の旧道をしばらく行くと、遠くに人々の営みを感じさせる煙と、頑丈な石造りの町並みが見えてきた。


レグラリアでの最初の目的地、フルードの町についに到着したのだ。


門をくぐり、活気ある街並みを目にした瞬間、緊張の糸がふっと切れるのを感じた。過酷な悪路の移動と、二日間に及ぶ極度の寝不足。体に溜まりきっていた重い疲労が一気に押し寄せてくる。

とにもかくにも、まずはふかふかのベッドがある宿屋を探さなければ。これからの動きを考えるのは、とにかく眠って体力を取り戻してからだ。





面白いと思っていただけましたら、下の★★★★★評価やブックマークで応援していただけると励みになります!


十一話も頑張るのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。