第十一話 異変
例の三人組と分かれたシオン。あさ、フルードの町が何やら騒がしいが…。
男たちとそこで別れ、僕は一刻も早く体を休めるべく、路地裏に静かな宿を見つけ出した。
彼らは国へ戻って足を洗い、グラニテで炭鉱夫になるらしい。実際になれるかどうかは置いといて、だが。
宿代を払い終えると、僕は一瞬で泥のような眠りに落ちた。久しぶりに、好きなだけ眠ることができた。
やがて、広場の方から聞こえる何やら騒がしい声で目が覚める。
すぐに着替えて街へ繰り出してみると、この国の兵士たちが隊列を組んで行進していた。
「この人たちは、どこへ向かっているんですか?」
隣の男性に尋ねてみると、この町の常駐兵が『真紅』の討伐に向かうところらしい。またしても大群が発生したそうだ。
数十名の常駐兵では手が回らず、街の自警団や志願した傭兵まで駆り出して立ち向かうらしい。
我が国に続き、この国でも大群か。やはりこの周辺に『増殖主』が存在するのか……いや、複数の群れが合流しただけと見る方が自然か。
どちらにせよ、まともな訓練も受けていない民間人を戦場へ連れ出すのは自殺行為に等しいのではなかろうか。そこまで逼迫しているということか。
ここで本格的な情報収集をする予定だったが、予定変更だ。
僕も行く。何のための力か——任務よりも先に、目の前の命を救うのが先決だ。
厩舎の馬を拾うより先に、僕は隊列の先頭に立つ隊長らしき人物へ駆け寄った。
「あの……っ! 僕も『真紅』の討伐に同行させてください!」
「なんだ貴様は。あいにく志願者の受付は締め切った後だ」
突っぱねようとする隊長に対し、僕は間髪入れずに言葉を重ねる。
「僕は旅商人です。兵士たちの食料を無償で提供しようかと。それに……アークも多少は扱えますし、武器の心得もあります。自分の身を守るだけの力はありますので、どうか許可を」
「……馬車はあるのか?」
「もちろんです。今すぐ厩舎から引き戻してきます!」
「……フン、いいだろう。後方から我が隊についてこい」
「あ、ありがとうございます!」
ということで討伐隊に同行させてもらえることのなった。
よくよく考えれば、兵が呼ばれるのはここだけじゃないはず。各地から集まった人々に『英雄』についての情報を聞いて回る絶好の機会かもしれない。
だが、それはそれだ。戦場に向かう以上、命の危険があることに変わりはない。
僕は絶対に、ここで死ぬわけにはいかないのだ。
死線を超えて、コランとネロを必ず探し出さなければならないのだから。
僕が商人として持ってきた商品は、せいぜい三百キロ程度。その中で食糧というのならもっと少ない。到底、部隊全員の腹を数日満たせる量ではない。
隊長も旅商人が一人で運べる物量など高が知れていると理解した上で、同行を許可してくれたのだろう。本当にありがたい話だ。
フルードの町を背に、僕たちは西へ向けて出発した。
目的地までは、およそ六十キロメートル。舗装の甘い街道を、荷馬車の車輪がギシギシと音を立てて転がっていく。
三百キロの食料を積んだ馬車を追いながら、周囲の様子を観察する。隊列の前方を進む常駐兵たちは引き締まった表情を見せているものの、後方に配置された自警団や志願傭兵たちの表情には硬さが目立った。急造部隊特有の浮足立った空気が、伝染するように広がっている。
移動の合間を縫って何人かの傭兵に『英雄』についての心当たりがないか尋ねようかと思ったがやめておいた。今何かの拍子で怪しまれたらかなわないし、誰もがこれから向かう戦場への不安で余裕がない様子だからだ。僕も正直不安でいっぱいだ。
西へ進むにつれ、街道の緑は濃くなり、漂う空気までもが少しずつ重苦しさを増していく。
距離を詰めるごとに、これから相まみえる敵の影が思い浮かんでいった。
ひたすら、ひたすら街道を進む。しばらく行くと、途中で別の町から派遣された討伐隊と合流した。フルードの部隊よりは少し規模が小さく見えたが、戦力が増えたのは素直に心強い。
やがて夜を迎え、一行は街道沿いの開けた場所で野営を張ることになった。
僕は約束通り、持参した食糧から酒やぱんなど、五十キログラムほどを部隊へ提供した。部外者という立ち位置でもあるため余計な干渉は控え、馬の世話を念入りに済ませた後は、自分の荷馬車の荷台へと上がり、横になった。
朝、僕たちは二日目の行進を開始した。
討伐隊のペースは早く、ほぼ強行軍だ。約三百人の隊列のうち、自警団の若者や急集めされた傭兵たちは、昼過ぎには足の痛みに顔を歪めてヘトヘトになっていた。
目的地に着く前にバテてどうするんだと思ったが、
………馬車の御者台からその惨状を冷静に見つめる。
目的地である60キロ地点の手前、戦場直前にあるはずの村で野営を張る予定だった。しかし到着してみると、そこは『真紅』の襲撃によって壊滅した痛々しい廃村となっていた。
人影もなく静まり返る集落に嫌な緊張感が走るが、すっかり日が暮れた以上、僕たちは仕方なくその不気味な廃村の中にテントを張ることにした。
もうここらなら、群れがいつ現れてもおかしくない。
交代で見張りがあたりを見回している。
明日——目と鼻の先の現場で、『真紅』との戦いが始まるのだ。
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