第四話 約束
ヴァンダロアの市場で見つけた国境越えの手がかり。
異形「真紅」が潜む危険な旧道を抜けるため、シオンは怪しげな三人組とある約束を交わす。
真紅と出くわすくらいなら、はじめから主要な街道を通るべきだったといまさらながら後悔する。あちらなら十数キロごとに簡易的な宿が置かれているからだ。
そんな考えが頭をよぎる中、俺たちはシオンが指示されていたという指定の場所へと到着した。
やけに騒がしい表の街道から一本折れ、暗い路地を抜けてしばらく歩くと、周囲は一転して不気味なほど静かになる。その極端なギャップに、胸の奥がざわざわと波立った。
その時、トントン、と背中を叩かれた。
驚いて振り向くと、そこには兵士の身なりをした人物が立っていた。
相手は何も言わず、無言のまま二つの布袋をこちらに差し出してくる。受け取って中を確かめると、そこには質素な服と、顔を隠すためのフード、水などが入っていた。
兵士はさっき渡してきた服を指さし、また黙って歩き始めた。着替えてついて来い、ということだろう。俺たちは急いで旅商人の服を羽織り、フードをかぶって後を追った。
しばらく歩くと、兵士の足が止まった。
その視線の先を見ると、野菜や果物、肉などの荷物が積み込まれた一台の荷馬車が置かれていた。
案内という役目を終えた兵士は、特に何も言わず、そのまま巡回へと戻っていく。
ふと横のシオンを見ると、表情こそ崩していないものの、その瞳をキラキラと輝かせながら荷馬車を見つめていた。これから先、徒歩で移動しなくて済むことがよほど嬉しかったのだろう。
だが、荷馬車の調達はありがたいとして、まずは予定通り市場での情報収集から始めることにした。
一番知りたいのは「正面突破以外の方法で国境を抜ける手立て」だった。
兵士から受け取った布袋の中には偽造の身分証も入っていたが、正規の関所を通過するのはリスクが高すぎる。夜間の通行は原則禁止されている上、通過時には「軍人かどうか」の厳しい照合が行われるからだ。
もし軍人だと判定されれば、連合加入時に登録された似顔絵の記録と本人照合が行われてしまう。普段ならスムーズに移動できて便利なシステムだが、こうして身を隠す任務においては非常に厄介な壁だった。
聞き耳を立てながら市場を歩いていると、気になる会話が耳に入ってきた。どうやら国境付近の山間にある旧道を抜ける、密輸ルートが存在するらしい。それを話していた三人組の男たちへ、俺は静かに歩み寄った。
「旧道を抜ければ、国境を越えられるというのは本当か?」
『お、おう……なんだ兄ちゃん。まさか密輸でたんまり稼ぎたい口か?』
「まあ、そんなところだ。だからもしこれからそのルートへ行くなら、俺たちも同行させて案内してほしい」
『いやいや、無理無理! あの周辺には最近、真紅の群れがうろついてんだよ。軍の討伐隊に通報しようにも、俺たちが密輸ルートを知ってるのがバレたら一発でアウトだろ? だから弱り切ってんだよ』
「そこをなんとか——」
「なら、真紅は僕たちが全員討伐しましょう!」
不意に横から威勢のいい声が飛び込んできた。シオンだ。俺が制止する隙すら与えず、彼は自信満々に言葉を重ねる。
「僕たちを案内してくれるなら、破格の報酬を払いましょう」
『……ほう、額はいくらだ?』
「ソリス金貨、三枚」
思わず目を見開いた。ソリス金貨三枚といえば、この街で一ヶ月は豪遊できるほどの途方もない金額だ。おいおい、そんな大金どこにあるんだと問い詰める前に、シオンは不敵に笑って条件を付け足した。
「ただし——道中の真紅を僕たちが全て片付けたら、それがそのまま報酬代わりだ。金貨は支払わないということでどうでしょう?」
三人組のリーダーは一瞬固まったが、すぐにニヤリと下品な笑みを浮かべた。自分たちはリスクなしで安全に密輸ルートを通れる上に、失敗しても大金が転がり込んでくる。断る理由がなかった。
『乗った! その取引、受けようじゃねえか』
こうして交渉は成立した。
俺たちはそれぞれの準備を整えるため一度別れ、十二日後に国境に一番近い町「グラニテ」で落ち合うことを約束したのだった。
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約束は守られるのかー!、第五話もよろしくお願いいたします!




