第三話 アーク
首都スペスを後にしたコランとシオン。商業の町「ヴァンダロア」へ向かう道中、二人は異形の脅威と遭遇する。
酒場を後にして、徒歩で一番近い町「ヴァンダロア」へと向かう。ここも首都スペスへ向かう途中で通った場所だ。
首都に近いこともあり、大勢の商人や旅人で行き交う、非常に活気のある町だったことを覚えている。
「シオン、ヴァンダロアに着いたらどうするつもりだ?」
「ヴァンダロアで旅商人に変装して、そのまま北上するよ。目指すは隣国であり、我が国の同盟国でもある『レグラリア』だ。もちろん、国を出るまでの間も情報収集は欠かさないよ」
街道を外れ、人通りのない道をひたすら歩く。その日の晩は、森を少し抜けたところにある小川のそばで野宿をすることになった。
火は焚かず、硬いパンと干し肉だけで空腹を満たす。明日の昼——遅くとも晩にはヴァンダロアに着いていることを願いながら暗闇に身を潜めていた、その時だった。
ズシン、ズシン、と地面を揺らす不穏な足音が響く。
明らかに普通の生物のものではない。重い巨体を地面に刻み込むような、底知れぬ足音……「真紅」だ。
奴らは光に敏感で、昼間は太陽を避ける個体が多い。だが夜は逆だ。火の光は、そのまま「獲物がここにいる」という絶好の合図になってしまう。だからこそ、真紅の生息域で少人数の時は決して火を焚いてはならない。息を殺し、陰に身を潜めるのが鉄則だ。
隣を見ると、シオンも察したようで、すでに気配を消して素早く剣に手をかけていた。
視界の端に映った影を見る。幸い、群れから離れた「はぐれ個体」のようだ。
——狩る。
人類が真紅に対抗できる理由。それは、体内に巡る自然の血……第二の血液とも呼ばれる『アーク』の存在だ。人はアークを介することで、自然界の力を肉体に宿し、操ることができる。
属性の適性は人によって異なり、俺の場合は「炎」、シオンの場合は「氷」だ。
体内のアークを消費し、熱を生み出し、形を変える。この血が続く限り、炎は俺の思い通りに刃となる。
「——アーク、穿て」
暗闇の中、俺は静かに集中を高め、立ち上がると同時に一気に解き放った。
「『炎爪』!」
三つの炎の光が「真紅」を捉え、その頭、胴体、足をまとめて切断する。
だが、まだだ……! 奴らの急所は体の中心にある核(心臓)だ。そこを破壊しない限り、切断面は即座に再生を始め、再びこちらへ襲いかかってくる。
切られた足が蠢き、すでに肉芽を再生させようとしていた。深紅色の瞳がこちらを射抜く。それは明らかに、明確な殺意を孕んだ猛獣の眼だった。
その瞬間、シオンが跳んだ。
風を切り、一飛びで真紅の懐へと潜り込むと、右手に握った刃で正確にその心臓を撃ち抜く。
核を討たれた体は再生を止め、崩壊を始めた。こうなれば、数時間後には骨すら残さず消滅する。真紅は未だに分からないことだらけの存在だ。
緊迫した戦闘が終わり、極度の疲労が一気に押し寄せてくる。俺は周囲を警戒する余裕すらなく、その場にへたり込んだまま倒れるように眠りについてしまった——。
顔に降り注ぐ強烈な眩しさに耐えかねて、顔をしかめながら目を覚ました。岩の隙間から差し込む一筋の太陽光が、ちょうど顔を直撃している。
体を起こして周囲を見渡すと、すぐ近くでシオンが剣を抱え込むようにして座ったまま眠っていた。俺が泥のように眠っている間も、ずっと一人で周囲を警戒してくれていたのだろう。見ると、俺の身体には一枚の毛布が優しくかけられていた。
「お前……優しいんだな」
ポツリと呟いた俺の声に反応して、シオンがハッと目を覚ました。
照れくささを隠すようにそそくさと毛布を回収し身支度を整えると、「……行こうか」と少し眠そうな声でつぶやく。
俺たちはそのまま歩き出し、昼が過ぎるころ、活気あふれる商業の町、「ヴァンダロア」へとついに到着したのだった。
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