第二話 神器
王城での夜を越え、郊外の酒場で相方のシオンと再会したコランは、任務に隠された疑問をぶつける。そこで語られたシオンの鋭い推理から、国家を揺るがす別の思惑と、二人の凸凹としたバディの掛け合いが動き出す。
夜は王城の一室に泊まることを許された。ベッドに横になり、改めて任務のことを考える。だが、どうにも疑問点が多すぎた。なぜ末端の兵士にまでこんな大掛かりな捜索をさせるのか。いったいどれほどの規模でこの極秘事項が共有されているというのか。考え出したらキリがない。この胸の内の疑問を相方にぶつけることを心に静かに誓い、俺はその日は深い眠りに落ちた。
迎えた朝、大佐に指定された郊外の裏路地へと足を向ける。
街の中心部から離れるにつれて人通りは極端に減っていき、目的地に近づくほどに周囲は静まり返っていた。
目的の酒場に到着し、その勢いのまま扉を開ける。薄暗い店内に、荷馬車で隣り合わせだったあの薄水色の髪の青年が、一人ぽつんと座っていた。視線がぶつかった瞬間、青年はパッと顔を輝かせ、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「君か…っ!」
そう言うやいなや、任務の機密もへったくれもなくペラペラと喋り出しそうになったため、慌てて彼の口を塞いで席へと押し込んだ。
「君、やっぱり同い年くらいだよね!? 名前は? 年齢は?」
勢いに押されながらも、ふたたびまくし立ててくる青年に、俺は小さく息を吐いて答えた。
「俺はコランです。年齢は十八で、もうすぐ十九になります」
「ほらー! やっぱり同い年だー!」
上機嫌に返す彼は、初めて会ったときの凛とした大人びた雰囲気はどこへやら、見事に崩壊していた。なんなんだこいつは。一応あの後も多少話すことはあったが、こんな感じではなかったような。
気を取り直して、こちらからもいくつか質問を投げかける。彼の名はシオン・リッカ。階級を聞いて、俺は我が耳を疑った。彼は俺よりもはるかに上の「騎士級」だという。
正直、同い年とは思えないほどに桁違いの強さだったのだと、思えば鋭く光る眼光。うん、すごく悔しい。
いまや世界中の軍隊は《世界真紅討伐連合》への帰属が義務づけられている。
連合内は十の階級に分けられており、上から英雄、大騎士、聖騎士、栄誉騎士、騎士、準騎士、精鋭兵、上等兵、二等兵、初等兵――。
その中で上等兵である俺が騎士である彼に守られるのは、軍の構造上、当然といえば当然なのだが。それでも、同じ年のくせにこれほど力の差を見せつけられると、精神的にかなりキツいものがある。
けど、そんな優秀な彼なら、俺も知らない情報が上層部から伝わっているかもしれない。
「あのさ」
机に視線を向けながら、ポロっとひとことこぼす。シオンも何かを察したのか、先ほどのおしゃべりな雰囲気はスッと消え失せた。
俺は声を潜め、誰もいない酒場の入り口へと軽く視線を走らせてから、彼に向き直った。
「なんで俺たちみたいな末端の兵士まで動員して、こんな極秘裏の捜索をさせているんだ。どれほどの規模でこの情報が共有されているのかも分からない。……他国に気付かれれば、それこそ大問題になるはずだろ」
彼は少し間を置いてから、静かに口を開いた。
「コラン、神器は知ってる?」
関係ない話……とも思ったが、「神器」という言葉に思考が引っかかる。神器――現時点で存在が確認されているのはわずか三つ。炎神の勾玉、雷神の御剣、水神の明鏡。どれも世界を揺るがすほどの圧倒的な力を持つ遺物だ。
「あぁ……もちろん」
「僕が睨んでいるのは――上層部は、失踪した『英雄』の影に隠して、別で『神器』を探しているのさ。他国に知られたら最後、世界大戦に直結するような禁忌の遺物をね」
「もしそうだとして、英雄の失踪が他国に知られるリスクを冒してまで、あるかどうかも分からないものに人員を割くなんて無謀だ」
「ならもし、神器のありかがほぼ突き止められているとしたら……?」
「いや……時系列が合わない。失踪が発覚してからありかを見つけるまでが早すぎる」
「わかってないなぁ……。神器の捜索はずっと前から極秘裏に行われていたんだよ。嘘かもしれずとも、そんな絶対的な力、探さないわけがない。きっと今も、世界中が血眼になって探してる」
「きっと上は相当焦ってる。神器がもう少しで手に入りそうなのに、あの化けモンが失踪しちゃったんだからさ」
「とにかく今僕たちにできることは、一刻も早く英雄を見つけて、報酬をたんまりもらうこと! 身を隠した理由なんて本人に聞けばいい。な、コラン」
「そんな重大な陰謀を疑っているくせに、なんでお前はそんなに楽観的でいられるんだよ」
俺が呆れを通り越して突っ込むと、シオンはケラケラと楽しそうに笑ってみせた。
「えー? だって難しく考えたって僕たちの給料が上がるわけじゃないし、世界がどうなろうとお腹は減るし。それにさ、こんな危ない任務だからこそ、可愛い相棒とこうしてサボる口実にもなるでしょ?」
全く緊張感のないその返答に、俺は思わず頭を抱えた。だけど、そんな調子のいい彼が、どこか頼もしく見えてしまうのも事実だった
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