第一話 捜索
異形の生物「真紅」との過酷な討伐作戦を終えて首都に帰還した主人公は、その夜、王城の受勲式の裏で大佐から呼び出しを受ける。そこで世界に八人しかいない「英雄」の失踪を知らされ、拒否権のない過酷な捜索任務を言い渡される。
ゴトゴトと規則正しく鳴り響く木のきしむ音と、体を容赦なく痛みつける硬い振動でついに意識が浮上した。
あまり開けたくなかった瞼を開くと、そこにあったのは木造の荷台にゆっくりと流れていく空の風景だった。
「…ここは、どこだ?」
かすれた声でつぶやいた問いは、すぐに乾いた風にかき消された。しかし、隣に座っていた薄水色の髪の青年がこちらに気づき少しの汗と血の混じった顔を和らげて優しく微笑んだ。
「目覚めたか、無事に息があって安心したよ」
そこでようやく俺は途切れていた思考の糸が完全につながった。
人類の歴史に突如として現れた異形の生物、その名を真紅……。
我々は真紅の群勢の討伐に駆り出されたのだ。
俺が荷台の外へと視線を向けると同時に例の青年が口を開く。
「僕たちの勝ちだ。長い作戦もようやく終わったのさ。いま、僕たちは僕たちの故郷に帰っている最中だよ」
みれば、自分たちの前後には長い蛇のように続く荷馬車と行進する兵士たちの列が見えた。皆、ボロボロになった武具を身にまとい、顔には深い疲労が刻み込まれながらも、その瞳には確かに誇らしい光が宿っていた。
勝ち取ったしばらくの平和と、ほぼ一年ぶりのおれたちの街への路。馬車の揺れは相変わらず不躾だったが、胸を占める確信が、不思議と体を軽くさせていった。
その後、約1か月ほど行軍し我が国、グローリアの首都、スペスに到着した。
道中、街の門をくぐるたびに、熱狂と喜び沸き立ち、まるで大きな祭りの最中のよう……というのを想像していたが実際は大歓声が街を揺らすわけでも、華やかな花びらが舞うわけでもない。聞こえてくるのは、静かで、しかしどこまでも深い感謝と安堵の声だった。
ほんの五十年ほど前まで、あの規模の『真紅』の群勢を相手にして、人類が生還できる確率など奇跡に等しかったのだ。人々は歓声をあげる気力すらなかったのかもしれない。ただ生きていること、それだけで精一杯だったのだと思う。
「……生きて、帰ってきたんだな」
という兵士の帰還を喜ぶ声が聞こえた。当然のことだが、それぞれの兵士にそれぞれの故郷がある。
俺に家族はいないが、そんな声が、自分事のように嬉しかった。
「ありがとう……本当に、よくぞ……」
街のあちこちから漏れる声は暖かく一行を包み込んでくれた。胸に手を当てて深く頭を下げる者、そっと手を合わせる老人、そして兵士の姿を見つめながら安堵の声を漏らす人々。「英雄様が勝たせてくれたんだ!」なんていうかわいらしい子供の声も聞こえた。
首都に兵士が集められた理由は追悼式と受勲式をおこなうためだそうだ。
今回の作戦で戦死した人たちも少なくない。街でも安堵の声の一方で戦死の知らせを受けた遺族が大勢いた。俺も3人の友人を失った。
戦場の近郊で遺体はすでに合同で埋葬されたそうだ。そのため追悼式は教会で簡素に行われた。
その日の晩に受勲式が首都の王城で始まった。大した活躍のできなかった俺にとっては勲章など無縁の話だ。
式が終わりに近づいている頃、同期の兵士づてに大佐から部屋に来るよう言われた。
全身に緊張が走るのが分かった。きっと知らず知らずのうちに何かやらかしたのだろう
王城…セレスト城は要塞化されており城の中枢に作戦会議室、そのすぐ隣に大佐執務室がある。全身に汗をふきだしながら、入らない力で精いっぱいノックを三回。返ってきたのは低く短い「入れ」の一言だけだった。
扉を押すと冷ややかな空気が肌を刺した。室内の空気は凛と張りつめており、静寂のなか数歩進んで直立不動のまま敬礼した。
「失礼いたします!」
自分を鼓舞するようにできる限りの声で。
それと同時に大佐の顔を見る。遠目で見たことはあるがこんなにも近くで見るのは初めてだった。
年齢は50代後半の良い老け方をした男性といったところか。ひげをたくわえており
顔のしわすら格好良い。
大佐の口から、重々しい一言が漏れた。
「一か月前、我が国の英雄アルト・ライオネルが行方不明となった。」
ただでさえ冷え切っていた部屋はズンと重くなった。俺は息を吞み、静かに目を見開いた。英雄……世界でその称号を持つものは八人しかいない。
そのうちの一人が国に存在しているだけで、他国への絶対的な抑止力となる。
もっと言えば、その抑止力の恩恵を受けるために我が国と同盟を結ぶ国があるくらいだ。
そんな存在がもし本当に行方不明なら国家の非常事態である。
大佐は続ける。
「君には英雄アルト捜索の任についてほしい。」
開いた口が塞がらない。わからない……なぜ数ある人の中で「俺」なのか
「お…おれにそんな重大な任務を任せるなんて正気ですか?!」
そんな俺を大佐は冷静に「まあ落ち着きなさい」と言った。思っていたより大佐は優しいようだ。
「それにこの任務を頼んだのは君だけじゃない。詳しい名前は言えないが、何人かはすでにこの任務にあたってくれている。そしてこれからきみは二人一組で行動してもらう。」
まるでもうすでに俺が承諾したような感じで話が進んでいってしまったため。流れのままこの任務を行うことにした。話がトントン拍子で進んでいったが、俺の中からこの緊張が取れることはしばらくなかった。後から聞いた話、この任務の拒否権はなかったそうだ。全然優しくなかったのである。
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これから頑張るので、第二話もよろしくお願いいたします!




