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男装女子と善人女子  作者: 私信
日常編
8/38

第八話 ハルキの奮闘

ハルキ視点です

 すぅすぅと眠っているつむぎさん。

 「匂いを覚えて」と言われたが、もしかして嗅いでもいいのだろうか。

 いやいや、待てあきら! 

 つむぎさんはそういうことを催促したわけじゃない。

 ここは深呼吸を……って、それじゃあ合法的に嗅ぐ理由を作ったみたいじゃないか。


「はぁ……どうしたらいいんだろう」


 というか、無防備過ぎやしないか?

 ボクが女だからって、そういう目で見ているんだぞ?


 そうだなぁ、ここは戒めとして、なんかやろう。

 べつになんらかのスキンシップをしたいわけではなくて、これは戒めだ!

 ボクはそう言い訳しつつ行動に移した。


「……失礼します、つむぎさん」


 そう言って、つむぎさんのほっぺにボクのほっぺたを当ててみた。

 

 …………やわらかい。

 マシュマロのようなやわらかさで、思わず何度もすりすりしたくなるほどだ。

 でも我慢だ。つむぎさんの貞操は、ボクが守る!!

 そう思いつつ、


「次はなにをしようか……」


 そう考えてしまう自分がいる。

 くっ、ボクはなんて欲深いんだ……!


「そうだ、ハグをしよう! それなら約束もしてるし、ノーカウントだろう」

「すぅ……すぅ……」


 よし、やるぞ!


「…………やるぞ!」


 しかし、やろうとすると身体が硬直してしまう。

 嫌われないだろうか? 傷つけてしまわないだろうか? 

 というか、逆に毎日するようにならないだろうか?

 

 “この行為“がやみつきになったのなら、いくらボクでも抑えが効かなくなるだろう。


「くっ……! まあ、起きているときにしよう」


 そうだ。お互いに合意があるならば問題ない。

 やみつきにもならないだろうし、なによりボクの理性も抑制できる。


「よし。それじゃあ、とりあえずベッドから離れよう。つむぎさんには悪いけど、刺激が強すぎる」


 そう言って立ちあがろうとすると、ワイシャツの裾を引っ張られる。


「……ん?」

「あの、ハグしないの?」

「お、起きてたんですか……?」

「……うん。ほっぺになんかしたよね?」

「ごめんなさい! 不快でしたよね! もうしません!」

「いや、そんなにへりくだらないでいいから……。はい、ギューってしていいよ」


 つむぎさんが両腕を広げる。

 まるでボクからの抱擁を求めているかのようだ。


「失礼します!」

「うん」


 ボクはつむぎさんにハグをする。


 わわわわ、なんてやわらかい身体なんだろう。

 抱きしめられたときと、全然違う!

 ギュッとしたい! けど、骨を折ってしまわないだろうか?

 そのくらい脆弱なものだと思ってしまう。


 そして温かい……!

 というか、ボクの心臓の音がうるさい。

 このまま鼓動のしすぎで死んでしまうのでは?

 そう感じてしまうほど、ボクは緊張している……!


「あれ? ハルキちゃん、ドキドキしてる?」

「は、はい!」

「そっかぁ……」


 なんだろう? 寝ぼけてるのかな?

 なんだか妖艶というか、色っぽい話し方で、普段より緊張する。


「うーん、眠いなぁ……」

「では、続きはあとでしましょう」

「そうだね。じゃあ、私も抱きしめるね?」

「えっ?」


 ボクが困惑していると、つむぎさんは抱きしめているボクごと横に寝そべった。


「わ……」

「はい、私の鼓動も聞いて?」

「は、はい……」


 つむぎさんの胸に顔を寄せられるボク。

 というか、つむぎさんの胸が当たっている……!

 でも、ボク自身緊張していてなにも聞こえない!

 

「どう?」

「聞こえません……」

「なら、押しつけるね?」


 ま、まずい……! 

 さすがに胸をこれ以上押しつけられたら、理性がもたない……


「あの、つむぎさん……!」

「すぅ……」

「……寝てる? はぁ、残念だけどよかった……」


 これ以上は、襲いかかりそうだった。

 ……とは言わないけど、とにかく危なかった。


「ん……? あっ、ハルキちゃん!」

「おっ、起きましたか?」

「うん。夢でなんか恥ずかしいことしたような……」

「あの、それ現実です。多分……」

「えっ? 胸を押し当てたり、パワハラしたりしたのが……?」

「パワハラかどうかはわかりませんが……はい」

「そっか。なら、責任取るね! 寝ぼけていたとはいえ、ごめんね?」

「いえ! むしろ嬉しかったです!」

「うーん、とりあえず迷惑じゃなかったらいいや」

「はい!」


 つむぎさんは、こういうところは鈍いから、逆に不安になる。


「じゃあ帰るね」

「はい! あ、そうだ。ハグさせてもらっていいですか?」

「うん。約束してたもんね」


 ごめんなさい、実は二回目なんです。

 というのは、言わないでおこう。


「じゃあ、はい!」


 再び両腕を広げるつむぎさん。

 ボクは応えるように抱きしめる。


「ふふっ、心臓の音がすごいね」

「ごめんなさい……」

「謝らなくてもいいよ? ほら、私の心臓の音も、少しズレてるけど感じるよね?」

「あっ……! ホントだ」


 そっか。音ばかりに着目してたけど、鼓動のリズムでわかるんだ!

 ボクは相変わらず緊張してるし、頭の中は真っ白だけど。


「なんか、えっちだね」

「な、なにがですか……?」

「あ……ごめん。触れ合ってる部分が違うのに、リンクしてる感が……ごめんなさい。忘れて?」

「……つむぎさんも可愛いですね」

「…………その、忘れてね?」

「はい! でも……」


 この赤面したつむぎさんは、一生忘れることはないだろう。


「でも?」

「いえ! なんでもありません」

「そっか! じゃあね」

「送っていきます!」

「大丈夫だよ。女の子が夜道を歩くと危険でしょ?」

「はぁ……」

「じゃあね」

「はい!」


 こうして、つむぎさんが下りる足音を聞くと同時に、


「はぁぁ~~〜!!」


 というため息が出た。


「めっっっちゃ可愛かった!! なんだあの生き物は!?」


 めっちゃいい匂いした! というか、その匂いが充満した部屋で、ボクは本当に眠れるのか!?

 ものすごくやわらかかった! 鼓動音も感じた! ボクを意識してくれてるんだ!

 嬉しい!! 控えめに言って交際したい!!


「もっと手を繋いでみたい! なんなら逆に会話をして仲を深めたい!」


 恋をするとバラ色の人生になるってマジだったのか。

 早く会いたいなぁ。

 あの可愛らしい存在を永遠にボクだけのものにしたい!

 でも、つむぎさんが幸せなら、ボク以外のものになっても構わない!!


 そうはしゃいでいると、ドアを三回ノックされる。


「……どうぞ?」


 そう言うと、つむぎさんがやってきた。


「あの、スマホ忘れちゃって……」

「そ、そうでしたか!」


 やばいやばいやばい……!

 絶対聞かれた。

 いや、聞かれたのは問題じゃない。

 問題はドタバタしてたことだ。にぎやかなヤツだって思われてないよな?


「あの、明日も手を繋いだり、お話しようね?」

「は、はい!」


 よかった、どうやら好意的に見られたようだ。

 そう思っていると、つむぎさんが部屋に居続ける。


「……あのー、スマホ以外にも忘れ物が?」

「うん。やっぱりやっておこうかなって」

「はい?」


 ボクがベッドに座ってのほほんとしていると、顔を両手で固定される。


「あの、なんですか? 照れるんですが……」

「ごめんね、ハルキちゃん!」


 その言葉の直後、ボクはおでこにキスされる。


「そ、それじゃあね!」

「は、はい……」


 その後、再びボクがはしゃぐことはなかった。

 おでこにキスされたことを思い出すたび、照れてしまうからだ。


 そうして、明日もつむぎさんに会える喜びを噛み締めながら、一日が過ぎていく。

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