第七話 匂い
「じゃあ、ガールズトークでもする?」
ハルキちゃんのお母さんがそう言うと、ハルキちゃんのお父さんがふすまを開けた。
「どうだ? ハルキの成長アルバムだ!」
「あらあら……」
「もう! 二人ともはしゃぎ過ぎだから!」
「だが、ほぼ恋人同士なんだしいいだろう? それに昨日のメッセージアプリによると、ハグもされたんだろう? でも、お前を尊重してくれる人なのはわかっていた。だからさっき質問したんだ」
「あら、そうだったの」
「父さん、あれ読んだの!?」
「そりゃあ没収したなら読むだろう」
「読まれたのかぁ……」
ハルキちゃんが少しヘコみながら残念がる。
「大丈夫だよ! 私が責任取るから!」
「「「なんの?」」」
「うっ……!?」
期待したように言われると、プレッシャーが半端ない……!
しかも、親子揃って言われるとなると……
でも、ここで期待を裏切るのはちょっとなぁ……。
よし、宣言しよう。私がハルキちゃんと向き合うためにも。
「ハルキちゃんを……一生大切にします!」
「ほう」
「へぇ」
「ほらね! ボクはつむぎさんの、小さいのに漢気があるところが好きなんだ!」
「……では、話が変わるが、このアルバムを見てくれ」
「わぁー! 可愛いですね」
「…………つむぎさんはいつになったらボクをカッコいいって言ってくれるんだろう……?」
「晶、どんまい」
「あのさ、勘違いしてるみたいだけど、ハルキちゃんはカッコいいよ? 私は時折見せる可愛らしさが好きなだけで……ハルキちゃんだって、私のことをいつもカッコいいと思ってないでしょ? つまりは、そういうことだから」
「そ、そうですか……」
「確かに、度胸があるというかなんというか……」
「可愛いけど、強さを持ってるわね。晶の言う通りだわ」
「あの、ありがとうございます! カッコいいって言ってくれて!」
「晶が惚れ込むのも理解できるな」
「わたしとしては、早くお嫁さんに来てほしいけどなぁ」
「はぁ……」
なんの話をしているのだろう?
ハルキちゃんのご両親はよくわからないかも。
自由というか、ハルキちゃんとは性格が違うからなぁ……。
「あ、だから真面目になったのかな?」
「なんの話だ? つむぎさん」
「わたしも気になるかな」
「……もう! つむぎさんに質問責めはやめてよ!!」
「あっ、ありがとうハルキちゃん」
「そうだ、部屋に行こう! 行くよ、つむぎさん!」
「あっ、うん!」
差し出したハルキちゃんの手を握る私。
そして、私はハルキちゃんのご両親に申し訳なさそうに言った。
「では、またあとで!」
「ああ……」
「うん……」
それにしても、ハルキちゃんが大声を出したのは初めて聞いたかも。
「ハルキちゃん」
「はい?」
「カッコよかったよ?」
「……はい!」
そう言ってあげると、ハルキちゃんは繋いだ手を前後させる。
……やっぱり可愛いかも。
そして、二階にあるハルキちゃんの部屋に着く。
けど、少し広いこと以外は普通だな。
学ランがかけられてたり、少年漫画もあるし。
一応ラブコメなのは女性要素なのかな?
よくわからないけど……。
「ここは洋室なんだね」
「はい。無理を言って洋風にしてもらいました」
「そっか。でも、広いね! ベッドに転がってもいい?」
「えぇっ!? ベッドですか!?」
「うん。だって、広いし……ダメならいいんだけど」
「悩みますね……」
「なにが?」
「ボクは一応男として育てられたせいか、気持ち悪いところがあるんです」
「……例えば?」
「好きな人のスカートの中が気になったり……」
「えー? ふふっ……」
「なんですか?」
「いや、言おうと思ったけど、恥ずかしいからやめようかなって」
「なにをですか? 教えてください」
「……罵倒、かな。でも、ハルキちゃんは変態じゃないだろうし、大丈夫だよね!」
「聞きたいです!」
「……えっち」
「ぐっ!」
「あの、これだけなんだけど……引っ張った割に普通でごめんね。で、どうだった?」
「な、なるほど……。これは核爆弾並みに危険ですね……」
「そんなに!?」
「はい」
真面目な顔で言うハルキちゃんに、ベッドの件を問いかける。
「なら、ベッドに転がったらダメな理由は?」
「眠れなくなるので。つむぎさんの匂いに包まれるってことは、つむぎさんに抱きしめられてるようなものなのでは!? という感じに脳が誤作動を起こすというか……」
「そっか。なら、膝立ちして?」
「は、はい……」
そう言って、ハルキちゃんは言う通りに膝立ちする。
その状態のハルキちゃんを、私は抱きしめた。
「……あの?」
「匂い、嗅いで?」
「は、はい」
そう言って、思いっきり深呼吸するハルキちゃん。
「あのー、普通に嗅ぐだけでよかったんだけど……」
「あ、すみません」
「もー、えっちだなぁ。ハルキちゃんは」
「す、すみません……」
「匂いがあっても、温もりがなかったら気にならないようにするから!」
「あ、だからハグなんですか?」
「うん。私の匂い、覚えて?」
「あのー、ところどころ言い方がエロいのはなんでですか?」
「そうかなぁ? 私は無意識なんだけどなぁ」
「そうですよね……」
「いやいや、冗談だよ! そういう雰囲気にした方が、ハルキちゃんは喜ぶかなって。嫌ならやめるよ?」
「ぜひ、お願いします!」
「えー? もう、しょうがないなぁ」
こんなふうにイチャイチャしながら、ずっとハグをする。
「あ、ハルキちゃん。膝痛くない?」
「痛く……痛くないです」
「ふーん……この間も言ったけど、強がってもバレバレだから! ベッドに二人で寝よう? その方が、ハグしやすいし」
「でも……」
「寝不足になったら、私が膝枕してあげる!」
「よし! 今日は絶対に起きてます! 徹夜しますね!」
「……いや、言ってくれればいつでもしてあげるから、ちゃんと寝よ?」
「はい!」
そう言って、寝転がってハルキちゃんに抱きつく私。
「それにしても、今日は色々ありましたね」
「そうだね。不良さんたちが舎弟になったり、ハルキちゃんのおうちに来たり……」
「ボク、つむぎさんを幸せにしたいです!」
「うん、私も」
「考えることは一緒ですね」
「そうだね。ふわぁぁ……ごめんハルキちゃん、ちょっと寝てもいいかな?」
「はい。ボクが見守ってますね」
「うん。匂い、覚えてね?」
「は、はい……!」
こうして眠る私。
自分のおうち以外で寝たのは初めてかもしれない。
でも、この日は疲れていたから、仕方なかったかもしれない。
そんなこんなでハルキちゃんに見守られながら、私はぐっすりと眠りについた。




