第五話 純心
「それで、今日はハルキちゃんのおうちにお呼ばれされるわけだけど」
「マジか。やるじゃねーかドチビ」
「頑張れよチビ」
「漢見せろよ」
「やかましい! 静かにしてろ、不良三兄弟!」
後輩の不良さんたちに注意するハルキちゃんに、私も注意する。
「ハルキちゃんも静かにね?」
「あっ、はい! すみません!」
「……それで、おうちでなにするの?」
「つむぎさんに両親の紹介を! どうしても会いたいみたいで……」
ハルキちゃんがそう言うと、今度は同級生の子たちが私を茶化す。
「つむぎちゃん、ラブラブだね!」
「イケメンは行動力から違うってことか」
「頑張れよ、早乙女さん」
「うーん……まあいいや。楽しみにしてるから! ね?」
「は、はい!」
やっぱりみんなと一緒だと、カッコいいことばかりするなぁ。
私は可愛らしいハルキちゃんが好きなんだけどな。
でも、私以外知らないってのも、案外いいかも。
そう思ってしまう私がいる。
「それじゃあ、放課後にまたね」
「はい!」
「頑張れー!」
「頑張ってね、つむぎちゃん!」
「え? なにが? 私たち、付き合ってないけど?」
「え」
私の発言に、ハルキちゃん以外の全員が絶句する。
「実はそうなんですよねー……」
「マジかよ」
「でも脈アリだし、押せばいけるよ! 頑張れ、二人とも!」
「姐さんは誰が好きなんスか?」
「あ、そうだな。姐さんはチビのこと、どう思ってるんス?」
「おれも気になる! どうなんスか?」
「えーっと……」
なんなんだろう、この辱めは?
言葉を濁そうとすると、ハルキちゃんがとどめを刺した。
「あの、どうなんですか? つむぎさん」
まあ、ハルキちゃんに嘘はつけないか。
「えっと、恥ずかしいな……。ハルキちゃんは好きだけど、私は二人のときに見せる顔の方が好きだから、今のハルキちゃんは普通かな」
「おいチビ! 脈アリじゃねーか!」
「姐さんを任せたぜ!」
「泣かせたら承知しねーぞ!」
「……ああ」
「二人っきりのときのハルキくんってどんな感じなの? つむぎちゃん」
「えーと……秘密! 私が独り占めしたいから!」
「つーかよ、はっきり言うけど、ラブラブじゃん」
「だよな。まだ付き合ってねーの?」
「つむぎちゃんは罪深い女だね……」
「えっ? なんで?」
クラスメイトのみんなが冗談を言っていると、ハルキちゃんが口を開く。
「それじゃあつむぎさん、またあとで!」
「うん。じゃあね!」
「では姐さん」
「おれたちも」
「失礼しまっス!」
そうして、後輩のみんなが去っていく。
「にぎやかなヤツらだったな」
「告白されるのも視野に入れた方がいいよ! つむぎちゃん!」
「いや、告白はされたことあるんだよね……。というか、私から先に告白して、断られたんだけど……」
「あ、それで脈がないと思っていたら、いじめられてたのを助けて脈アリになったのか」
「漫画みてぇだな!」
「なんにせよ、ガンバ!」
「うん……」
それから、あっという間に放課後が訪れる。
「それじゃあね、つむぎちゃん」
「春木は攻めてたけど、早乙女さんもたまには攻めてみたらいいんじゃね?」
「とりあえず仲良くな! じゃあな、早乙女さん」
「うん。みんなありがとう」
こうして、みんなから激励の言葉を受け取る。
「……たまには攻めろ、か」
一人ぼっちの教室でそうつぶやいていると、
「つむぎさん、お迎えに来ました!」
ハルキちゃんが二年生教室にやってきた。
「では、行きましょう!」
「あっ、うん」
ハルキちゃん、緊張してるのかな?
口数少ないし、ここは世間話でもしようかな。
「不良さんたちは?」
「あぁ、あの三兄弟は……『これ以上は聞いたら野暮ってもんだぜ。漢を見せろよ』とのことです」
「そっか、仲良くなれてよかったね!」
「良くはないですが、全部つむぎさんのおかげです」
「そうかな?」
「絶対にそうです!」
「そっか。私ってすごいのかな?」
「はい!」
なんか、冗談で言ったのに肯定された……。
「こういうところが可愛いんだよなぁ」
「またそれですか?」
「うん。ハルキちゃんは可愛いよ? 二人っきりじゃないと見せてくれないけど」
「なら、つむぎさんだけが独占することになりますね」
「そうだね」
そんな会話をしながら、上履きから外靴へと履き替える。
すると、昇降口で不良さんたちがたむろっていた。
「お疲れ様です!」
「「お疲れ様です!!」」
「うん。また明日」
「「「はい!」」」
「つむぎさん、あんなヤツら気にしなくていいですから」
「そう?」
「はい。では、行きましょう」
「うん」
それから、完全に二人っきりで下校する。
「ハルキちゃんのおうちは和風? 洋風?」
「どちらかと言えば和風ですね。屋敷なので」
「へぇー! なんか楽しみ!」
「そうですか、よかったです」
「なにが?」
「つむぎさんに喜んでもらえて。好きなので」
むっ。
こういうところはカッコいいんだよなぁ。
「あ、ありがとう……」
「はい! つむぎさんも可愛いですよ!」
「そっか……」
「やっと言えました! つむぎさんはカッコいいので!」
「そうかな? あ、そうだ。よければ、私を好きになった理由を教えて?」
「前に言いませんでしたか?」
「改めて聞きたいんだよね。メッセージだと好きなところってだけで、好きな理由ではなかったから」
「……そうか。そうですよね、わかりました! 漢気があって、傷ついてもいとわない。型にハマらない人格者だからです」
「…………それ、誰の話?」
「つむぎさんですけど?」
「そっか」
そんなにカッコいいもんじゃないんだけどなぁ……
私はただ自分を貫いてるだけだし。
「私はただ、自分に嘘をついてないだけだよ?」
「それが難しいんじゃないですか? 少なくとも、女子で不良三人からいじめられっ子を庇おうとするのは、つむぎさんだけかと」
「そんなことはないと思うけど、言われてみればそうだね。でもさ、自分が傷つくよりも、自分に嘘をついた方が傷つくと思わない?」
「どうしてですか?」
「身体はどうとでもなるよ? でも、心はそうじゃない。助けられなかった後悔の方が大きいと思うから、無茶するのかも……」
「そういうところ、やっぱりカッコいいです!」
「そうかな……?」
というか、いつの間にか立派なおうちの塀が見えるけど……
「ここ?」
「はい、ここです!」
「なるほど、そうきたか……」
どうやらハルキちゃんのおうちは大層ご立派なお屋敷のようだ。
内心不安になりつつも、私は覚悟を決めるのだった。




