第三十九話 喧嘩と停学
ボクはつむぎさんと別れることになるかもしれない。
原因はわかっている。ボクが同級生と喧嘩したからだ。
「ハルキちゃん、ちょっと頭を冷やしてね? そのための停学だから」
そう言われて以降、つむぎさんには会っていない。
◆◇◆◇◆
それは数日前の話だ。
「おい春木! お前って、よくあんな先輩を好きになったな」
「だよねー。小さいし短足だし、顔はそこそこだけど、雰囲気的にはマスコットだし」
「あんなのに欲情するとか、お前ロリコンかよ」
その数分後だろうか。
そう言った三人を、ボクはボコボコにした。
後の話だと、一人は顎の骨が砕け、もう二人は片腕が折れていたらしい。
というか、いつの間にか手を出していた。
言い訳になるけど、正気を失っていたんだ。
ボクの自我は何者かに奪われていたかのように、はっきりとしていなかった。
そのとき、男子だけならまだしも、女子にまで手を出してしまったのが問題視された。
周りからは「狂犬」を見るような目で見られた。
それはいつもどおりだったからまだいい。
問題は、あの人にすらその目で見てきたことだ。
「ハルキちゃん……?」
そう驚いていた。
いや、ボクを見限ることにしたのだろうか。
真っ赤に染まった手を伸ばすも、つむぎさんは受け入れてくれなかった。
「ハルキちゃん、ちょっと頭を冷やしてね? そのための停学だから」
そう言われてやっと気がついた。
大切な人をバカにしたヤツをボコボコにするよりやってはいけないことを、ボクはしてしまったんだと。
それ以来、つむぎさんには会えていない。
部屋で反省していると、スマホにメッセージが届く。
「なんだ……?」
スマホにはこう映っていた。
『話さない? ハルキちゃんの言葉で真実を知りたいの』
メッセージを送ってきたのはもちろんつむぎさんだ。
『ごめんなさい!!』
『傷つけたのは許されない。でも、ハルキちゃんの心の傷の方が深そうだったから』
『はい!』
嬉しいな。
つむぎさんと少しでも話せるだなんて。
といっても、メッセージアプリの文章だけど。
『実は、つむぎさんの悪口を言われたんです』
『なら傷つけていいの?』
『つむぎさんならどうします? ボクの悪口を聞いたら』
『自慢する! 私の恋人はここが可愛いんだよって!』
『はは、つむぎさんらしいです』
やっぱり、つむぎさんはすごい人だ。
『でもハルキちゃんは手を出しちゃったもんね』
『はい』
『それは許されないし、私からしても、ハルキちゃんは許せない』
『すみません』
『そういうのは、傷つけた子とその親御さんたちに言って?』
『はい……』
『じゃあ、ここまでは私としての意見』
『はい?』
どういう意味だろう?
『ここからは、私たちの今後の話』
『はい』
『ハルキちゃんはもう不良だから、反対されるだろうね。実際、あれからもう関わるなって言われたし』
『すみません』
『まあでも、私は自分勝手だから無視したけど』
『つむぎさんらしいです』
『問題はハルキちゃん』
『ボクの煽り耐性……ですね?』
『そう。ハルキちゃんが耐えられるのか、テストする』
『はい!』
『じゃあ、音声通話するね?』
『はい!』
久しぶりにつむぎさんの声を聞ける!
よっしゃー!!
こうして、音声通話をするボクとつむぎさん。
「あーあー、聞こえる?」
「はい!」
「ハルキちゃんのおバカ!」
「すみませんでした!」
「おかげで毎日ハルキちゃんの悪い噂ばかりだよ!?」
「ごめんなさい」
「だから毎日ノロケるなって言われてるんだから!!」
「あっ……本当に実践してるんですね」
「うん。自慢してる。不良さんたちも毎日頑張ってくれてる」
「不良三兄弟が?」
「うん。ハルキちゃんを擁護してるよ? まずは三人の不良さんたちが、私とハルキちゃんは付き合ってるって説明して、次に私がハルキちゃんの話をするの」
「なるほど、確かにノロケですね」
「うん。それでね? 下級生以外はもうハルキちゃんを悪者だとは思ってないの」
「すごいですね!」
「うん。でも、下級生が問題で……」
「そうですか」
やっぱり、ボクがつむぎさんに迷惑を……
「どうやってハルキちゃんを落としたのか聞いてくるの」
「えっ?」
「それでね? 弟子入りしたい人とか、ノロケを聞きたい人が毎日二年生の教室に来るから……」
「はぁ……」
「だから、いつ戻ってきてもいいからね?」
「はい。わかりました」
「あと、音の出るところに耳を近づけて」
「はい……?」
言うとおりにするボク。
「愛してる……!」
「……ボクもです!」
「うん、じゃあね」
「はい! 停学明けにまた会いましょう!」
「うん。周りからは会うなって言われてるから、しばらくはハルキちゃん禁止期間だね」
「ボクもつむぎさん禁止期間ですので、苦しいのは同じです!」
「それと、あんなこと言ってごめんね? あのときは私も悪者になるところだったから」
「いえ! そんなこと、全然気にしてませんから!」
「じゃあ、来週になったら会おうね!」
「はい!」
こうして、音声通話が切れた。
「そうか、やっぱりつむぎさんはすごい人だ」
さすがはボクが愛してる人かつ、カリスマ性を持つ善人……!
「やっぱり好きだな……」
こうして、喧嘩をしたボクを受け入れる状況を作ってくれたつむぎさん。
それでも、傷つけたヤツらはつむぎさんやボクを恐れるだろう。
ただ、そこ以外は問題じゃない。
その状況を作り出したつむぎさんは、やっぱりすごいな……!
ボクはついそう思ってしまうのだった。
次回で最終回です。




