第三十八話 お宅訪問 その③
「実は今日、休日にも関わらず、お父様とお母様に用事が入ってしまい……」
「それで私が呼ばれたんだね……?」
「はい。ご迷惑じゃありませんでしたか?」
「うん。たまには親友同士、仲良く遊びたいなぁって」
「そうですの!?」
本当はハルキちゃんと遊べなくてちょっぴり残念だけど、お屋敷で一人なのは可哀想だからなぁ。
一応、使用人さんたちはいるんだけどね。
「それで、雪菜ちゃんはなにがしたい?」
「メイド服に着替えてください。この間言ってましたものね? この屋敷に来たらいつでも着ると」
「うん! 髪型は?」
「では、前に見られなかったツインテールでお願いしますわ」
「うん、わかった!」
こうして、前のときのように着替える私。
といっても、前はポニーテールだったけど。
「ど、どうかな?」
雪菜ちゃんの作業室ではなく、ちゃんとしたお部屋で見せてみる。
というか、ちゃんと部屋あったんだ。いや当たり前か。
「……まだまだですわね」
「な……なにが?」
「足りないものがありますわ」
「足りないもの……? あっ、そういうこと!」
「はい、そういうことでしてよ?」
「でもなぁ……」
あれはスイッチが入らないと恥ずかしいからなぁ……
「……もしかして」
「な、なに?」
「春木晶が恋しいのですのね? わたくしだって、その辺はわかってきましたわ! すぐに手配を……」
「違うよ!? ごめんね? 気を遣わせて」
「でも、寂しそうな顔をしていましたわよ?」
「えっ?」
「『親友』は『恋人』には勝てないということに、先日ようやく気がつきましたの。だから、遠慮しなくて結構ですわ」
「遠慮じゃなくて……その、恥ずかしかっただけだよ?」
私は雪菜ちゃんを見つめながらそう言う。
「くっ……! 上目遣いですの……!?」
「……ど、どうかした?」
「いえ、なんでもありませんわ。少しダメージを……」
「そっか。じゃあ、今日は『親友』を『恋人』より優先するから!」
「はい?」
きっと私のせいで心にダメージを受けたんだよね?
なら、私が助けてあげないと……!
「心にダメージを受けたんでしょ?」
「ええ、間違ってはいませんけど……」
「なら、私が助けてあげるね! 前みたいに攻め攻めでいくから!」
「でも、春木晶に悪いような……」
「じゃあ雪菜ちゃん、ベッドに座ってもらえる?」
「はい……?」
私は雪菜ちゃんの頬を両手で包み込み、私の鼻の先を雪菜ちゃんの鼻の先にくっつける。
「ほら、私は雪菜ちゃんの味方だから。だから、今日は『親友』として遊ぼう?」
「はい……って、そうじゃありませんわ! 『親友』だからこそ、本音を言いますわね」
「えっ? なになに? ていうか、心のダメージは?」
「あ、あれは上目遣いにドキッとしただけでしてよ!」
「あっ、そうなんだ……。よかった」
「つむぎさんはわたくしをどう思っていますか? 今日は本音で語り合いましょう」
「うん、わかった! 私は雪菜ちゃんのことは、そうだな……気まぐれな猫ちゃんってイメージかな?」
「……どうしてですの?」
「えっと、気まぐれで……可愛いけど尻尾を振る相手は選ぶ。でも、その相手にも素直じゃないから……そういうところが可愛いなって」
「なるほど……」
「雪菜ちゃんは、私をどう思ってるの?」
「そうですわね……」
これで私も雪菜ちゃんの本音が聞けるのかな?
そんなふうに思っていると、早速雪菜ちゃんは語り始める。
「もしわたくしに姉がいたらこんな感じかと」
「そんなふうに見てたの?」
「はい。自由に生きてて、正義感が強くて、わたくしのために行動してくれて、可愛らしいけどしたたかで、そして…………とっても身勝手な人ですわ」
「……確かにそうかも。雪菜ちゃん、言語化が上手いね!」
「礼には及びませんわ」
「それじゃあ、なにして遊ぶ?」
「それでは、わたくしの膝に乗ってくださいまし」
「うん。いいけど……今の私ってメイドさんなんだよね?」
「関係ありませんわ」
「……うーん、そっか! 確かにそうだね」
雪菜ちゃんを疑わずに雪菜ちゃんの膝の上に座ると、後ろから抱きしめられる。
「ゆ、雪菜ちゃん……?」
「本音で語り合いましょうと言いましたわね?」
「うん……」
「本来ならこんなこと言いませんし、言うべきではありませんわ。でも、言わせてくださいまし」
「えっ?」
「大好きですわ……!」
雪菜ちゃんがギュッと私を抱きしめると、雪菜ちゃんの目元の位置から温かいものが背中ににじむ。
それが涙だと気付くのに、一秒もかからなかった。
「そっか……」
私は複雑な気持ちに襲われる。
雪菜ちゃんに好かれていたのはわかってたけど、ここまでだったとは。
それから数十分くらい経った頃、ようやく雪菜ちゃんは私を離してくれた。
「…………申し訳ございませんでした」
「いいよ」
「えっ?」
「前にも言ったよね? 泣きたかったら泣いてもいいし、つらいときは半分こしよう?」
「好きになりますわよ?」
「それは困るけど……あっ、そうだ! いい考えがあるよ!」
「なんですの?」
「今日からは雪菜ちゃんは私の妹分ね?」
「はい?」
「妹みたいに扱うから、これからもよろしくね! でも、こき使うわけじゃないから、そこは安心してね?」
「はい! つむぎお姉様!」
やっぱりその呼び方になるのか……。
「その『お姉様』って呼び方はちょっと……」
「では、つむぎ姉さん……つむ姉とかどうですの?」
「じゃあ『つむ姉』で」
「わかりましたわ! それでつむ姉様、これからも親友でいてくださいますわよね?」
「うん。そこは安心して!」
「では二度目の失恋記念に、つむ姉様が思うわたくしの好きなところを教えてくださいますか?」
「うん、いいよ。最初の頃は……」
こうして、雪菜ちゃんが私の妹分になった。
でも、今までどおりの親友なのは変わらない。
それから、ちょっぴりだけ雪菜ちゃんのことを知れて、少し距離が縮んだと思う私だった。




