第三十五話 遠ざかる距離
「おはよう、ハルキちゃん!」
「はい。おはようございます!」
「今日も晴れてるね!」
「はい。ただ、少し風が強いですね」
「うん。おんぶしてもいいかな?」
「えっ!? 普通逆では?」
「そっか、そうだよね……」
「ボクとしても、つむぎさんを押し潰すのは嫌ですので」
「そっか。そうだね……」
残念がる私をよそに、ハルキちゃんは進んでいく。
すると、ハルキちゃんがあるものを発見する。
「つむぎさん、仔犬が捨てられていますよ」
「へぇー! ハルキちゃんみたいで可愛いね!」
「そうですかね?」
「うん! 放課後になってもいたら、飼ってあげよう!」
「そのときの名前は?」
「えーと……『ハル』とか?」
「明らかにボクをイメージしてますね……」
「悪い?」
「はい。どうせなら、仔犬のためにもしっかりとした名前を……」
「そうだね……それに、まだ飼うって決めたわけじゃないし」
「ですね。では行きましょう!」
こうして、私たちは学校へと向かう。
「あの仔犬、大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ。毛深かったので」
「そういう問題かな?」
「とりあえず、学業に集中しましょう」
「うん……!」
そして、いつものように昼休みがやってくる。
「あの仔犬大丈夫かな?」
「……なんの話ですの?」
「じつは……」
雪菜ちゃんに話そうとすると、ハルキちゃんと不良さんたちがやってくる。
「失礼します!」
「「「失礼しまっス!」」」
もう慣れてきているので、ハルキちゃんを無視して話を続けた。
それがハルキちゃんからしたら気に入らなかったみたい。
「つむぎさーん!」
「私としては、あの仔犬を見にいきたいんだ……」
「そうですの……。わたくしが手伝いましょうか?」
「いいよ、放課後また会いに行く」
「つむぎさん?」
「……なに?」
「…………いえ、なんでもないです」
「なら、ちょっと黙っててくれる?」
「はい……ごめんなさい」
しまった……!
言い過ぎてしまったのを自覚して、すぐ謝る私。
「あっ、ごめん! 今のは……」
「わかってます。仔犬のことがボクよりも大事なんですよね?」
「うん。でも、ハルキちゃんをないがしろにしたわけじゃ……」
「……すみません、今は放っておいてください」
「うん……放課後、迎えに行くね?」
「いえ、今日は用事ができたので来なくて結構です」
「……そっか」
それ以上はなにも言えなかった。
これ以上ハルキちゃんを傷つけたくなかったから。
それから放課後……
「ハルキちゃんは大丈夫かな? 見に行こう」
そう思って見に行くと、ハルキちゃんの姿はなかった。
下駄箱に上靴が置いてあったし、先に帰っちゃったのかな?
そういえば、用事があるって言ってたっけ……。
結局その日は、それ以降ハルキちゃんに会うことはなかった。
そして、あの仔犬の姿もなかった。
それから翌日。
ハルキちゃんにちゃんと謝ろう。
そう決意していると、ハルキちゃんは来なかった。
「いつもは真っ先に迎えてくれるのに……」
どうかしたのかな?
時期的に風邪? それとも事故かな? なんにせよ不安だ。
でも、このときは昼休みに会えると思ってた。
だから、心配してなかったんだ。
昼休み、ハルキちゃんがやってくる。
「ハルキちゃ……」
「あの、話しかけないでください」
「……え?」
「あっ、すみません。今日だけは絶対に近寄らないでください。お願いします」
「うん……」
そこから先は覚えていない。
ただ、ハルキちゃんに拒絶されてわかったことがある。
ハルキちゃんも、昨日はこんな気持ちだったのかな……ということだ。
そこから先は覚えていない。
「あれ? 放課後?」
気がつくと、いつの間にか放課後になっていた。
寝てしまったのか、呆けていて時間が過ぎていったのかはわからない。
でもハルキちゃんが来ないってことは、ハルキちゃんに……
ハルキちゃんに嫌われた……いや、見限られたということかもしれない。
「うぅっ……」
泣いたって解決はしないけど、私は誰にも聞かれないよう、静かに泣いた。
それからしばらくすると、だんだんと落ち着いてくる私。
「…………あれ?」
落ち着いて考えみたら、おかしなことばかりだ。
わたしがああ言ってから用事ができるなんて、普通だとありえない。
ハルキちゃんが拒絶する理由が知りたい。
そう思いハルキちゃんの家に行くと、なんだかいつもより騒がしかった。
「こわ……」
組員さんたちが喧嘩してるのかな……?
そう思ったから、この日は結局ハルキちゃんのインターホンを押すことはなかった。
だけどその夜、ハルキちゃんからメッセージが届く。
仔犬の写真とともに。
『うちで飼うことにしました!』
その一文で、安心すると同時に疑問が湧く。
『どうして近づいてほしくなかったの?』
『こいつの匂いがこびりついていたので』
『そうなんだ! それで、名前は?』
『「ムギちゃん」ですね。母さんはそう呼んでます』
『本当の名前は……?』
『「つむぎ」です。ただ、ボクは反対しました! だからみんな「ムギちゃん」と呼ぶようになりました!』
『そっか。でも、いいよ?』
『……なにがですか?』
『ハルキちゃんなら、呼び捨てにしていいよ?』
『本当ですか!?』
『うん! 「ムギちゃん」のこと、呼び捨てにしていいからね!』
『あ、そっちですか』
『他にどっちがあるの?』
『なんでもないです……。おやすみなさい!』
『うん!』
こうして、「ムギちゃん」として飼われたワンちゃん。
なんとなくホッとしつつ、なにかチャンスを逃したような気がしなくもない私だった。




