第三十三話 親友
わたくしはキーボードに伏せた状態で目を覚ます。
「いけない……! また寝落ちしましたのね……」
でも平日は学校でつむぎさんと会えますし、土日はお父様やお母様との団欒が待っている……。
そう考えるだけでも、つむぎさんには感謝してもしきれませんわ!
「さて、久しぶりにつむぎさんに攻め込みますわよ!」
こうして、リムジンで早乙女邸へと向かう。
「ちょっとお待ちになってくださいまし」
運転手の執事に命令し、つむぎさんの家のインターホンを押すわたくし。
「あっ、雪菜ちゃん! なんか久しぶりだね」
「い、一緒に登校しませんこと? 久しぶりに……!」
「あー、うん。いいよ?」
やった! やりましたわ!
「では、いきましょう!」
「リムジンには乗らないよ?」
「はい。では、行ってください」
「はっ!」
ここまでは想定内。
問題は昨日のお昼にわたくしが寝ていたときに、春木晶とつむぎさんが仲良くなっていたことですわ。
春木晶はわたくしがいない間にわたくしの親友とイチャイチャと……
羨ましいじゃありませんか!
ここは心を鬼にして尋ねますわ。
「つむぎさん、ひょっとして春木晶となにかありましたの?」
「……えっ? なに? 急に……?」
「べつに? ただの世間話でしてよ?」
「えー? 聞いちゃうの? どうしようかなー?」
「……なんだか楽しそうですわね」
「うん! 実はね、両思いになったんだ!」
「…………それだけですの?」
「うん! ハルキちゃんって可愛いよね! カッコよさもあるんだけど、やっぱり可愛らしさを隠しきれていないというか……」
「お、落ち着いてくださいまし」
「あ、またハルキちゃんみたいになっちゃった」
「……ですわね」
自覚はあるんですのね……。
春木晶が変人ということと、自分もそうなり始めていることに。
「つむぎさーん!!」
「ハルキちゃん!? どうしたの?」
「つい待てなくて会いに来ました!」
「そっか。じゃあ、行こ?」
「はい!」
「ですわね」
しかしつむぎさんは、わたくしとではなく春木晶とばかり会話する。
「ハルキちゃん、今日はなにしてほしい?」
「では……つむぎさんのしたいことで」
「えー? なにそれ? なんか私がえっちな子みたいじゃん」
「そうですか?」
「そうだよー」
二人の会話についていけないわたくしは、思い切って話に割り込んでみる。
「あの……」
「なぁに? 雪菜ちゃん」
「なんだ才上?」
「その……ラブラブですのね」
「なんだ? 嫉妬か?」
「えーと……」
「じゃあさ、雪菜ちゃんにもおすそ分けしてあげるね!」
「「えっ?」」
わたくしが春木晶と口を揃え動揺すると、つむぎさんはわたくしの手を胸の谷間に当ててきました。
「つ、つむぎさん……!? なにを?」
「だって、甘えたいんでしょ?」
「久しぶりの甘やかしモードは嬉しいのですが、春木晶の目が……」
「じゃあハルキちゃんにもする?」
「いえ! ボクは遠慮します! イチャイチャは二人っきりがいいので!」
「じゃあハルキちゃん、屈んで?」
「はい……?」
春木晶が屈むと、つむぎさんは春木晶の頭を撫でる。
「よしよし、えらいね」
「は、はい!」
…………もう! 世話が焼けますわね。
「わたくしもいいですわ」
「えっ?」
「春木晶が邪魔でしてよ。放課後になったら、わたくしとイチャイチャしてくださいますか?」
「うん、わかった」
「では、わたくしは行きますわよ」
「うん! またね!」
「ええ」
「こんなことは言いたくないが……すまないな、才上!」
「ふん……」
まったく……
宿敵とはいえ、手のかかる後輩ですわね。
そのあとすぐ、わたくしは教室でブルーな気持ちになる。
「くっ……! わたくしのバカ……」
でも、つむぎさんが幸せならわたくしは……!
頭ではそう思っていても、感情はそう単純ではありませんわ。
「はぁ……」
だけどつむぎさんからしたら、「親友」と「恋人」どっちかを取るとしたら「恋人」ですわよね。
両思いになったならなおさらですわ。
それから授業が始まり、わたくしはつむぎさんの様子を真後ろの席から観察する。
しかし、いつもと違いボーッと窓を眺めたり、ペン回しをしたりして集中していないのが手に取るようにわかりました。
まるで普段のつむぎさんとは別人のようでしたわ。
昼休みも引き続きつむぎさんを観察し続けるわたくし。
しかし……
「つむぎさん!」
「ハルキちゃん!」
なんだか、ベストコンビ……
いえ、ベストカップルすぎて、もはや呆れてきましたわ。
そうして机に伏せていると、そのうちわたくしは眠ってしまいました。
起きたら教室が夕陽でオレンジ色に染まっていました。
「はっ!? ということは、もう放課後ですの……?」
「雪菜ちゃん……?」
「つむぎさん……? 春木晶は?」
「ふふっ……今日初めてハルキちゃんと帰るのを断ったよ」
「……どうしてですの? せっかく二人っきりにさせたり、頑張って見て見ぬふりしましたのに!」
「…………『親友』と『恋人』のどっちかが困ってたら、私は『困ってる方』を選ぶ」
「わたくしは困っていませんわ!」
「じゃあ、私がでしゃばっただけだね? ほら、一緒に帰ろ?」
「つむぎさん!」
わたくしは思いっきりつむぎさんを抱きしめる。
「わっ!? 雪菜ちゃんからは珍しいね」
「そういうところが、やっぱり好きですわ!」
「うん、ありがとね。帰ろう?」
「はい!」
それからは、いろんなことを話しました。
つむぎさんの春木晶の好きなところや、魅力。
あと、たまーに甘やかしモードになって、鼓動の音がどうのこうのと言われ、抱きしめられたり。
今思えば、あれは久しぶりに「母性」が爆発した感じなのでしょうけど。
でも、春木晶のいない帰り道は……
なんというか、わたくしたちしかいない世界になってしまったと思ってしまうほど、平和そのものでした。
ですが、そんな経験を経てもつむぎさんは満たされた顔をしていなかったので、わたくしも春木晶の存在を認めるしかありませんでしたの。
そんなふうに、たとえ「親友」でも、「恋人」には敵わないことを実感した日でしたわ。




