第三十一話 忠犬
「おはようございます、つむぎさん!」
「うん。おはよう、ハルキちゃん」
今日もこうして我が女神であり、なおかつ美人だけど可愛らしさもある……
とりあえず、名状しがたいボクの恋人こと、早乙女つむぎさんに挨拶する。
それにしても、可愛らしいなぁ。
「つむぎさん、今日も一段と可愛いですね!」
「ハルキちゃんも、可愛いよ?」
「はい……? ありがとうございます……」
つむぎさんに一つ問いたい。
ボクのどこに可愛い要素があるんですか?
……と。
だが、つむぎさんの言うことに口出しするのは申し訳ないし、とりあえず感謝の言葉を口にしておこう。
それから、学校に着くと校門前に不良三兄弟が並んでいた。
「「「おはようございます!」」」
「うん。おはよう、不良さんたち」
「よう、不良三兄弟」
まったく……なんでこんなヤツらがつむぎさんの舎弟なんだ?
舎弟なんて必要ないだろうに。
なんたって、恋人のボクがいるんだからな。
「じゃあハルキちゃん、またあとでね!」
「はい! 行くぞ、不良三兄弟」
「「「だから、てめーが仕切るな!」」」
こうして、一年の教室へと向かう。
すると、いつものようにボクの机の中に大量に手紙が入っていた。
「はぁ……またか。流行ってるよなぁ、こういう嫌がらせ」
ボクは机を傾け、手紙を机の中の端に集める。
それから、リュックから袋を出して、すべての手紙を袋の中へ入れた。
「よし」
これでいつでも捨てられる。
けど、周りからの印象を悪くしないようにするのも大変だな。
肝心のボクは、つむぎさん以外眼中にないというのに。
「あのー、春木くん?」
「…………これはしまっておくか」
「春木くん、放課後に……」
「なんですか? ていうか、誰ですか?」
「放課後に告白したいから、教室で待っててください!」
「…………ボクには心に決めた人がいるので、ごめんなさい」
「早乙女先輩だっけ? あんな人のどこが……」
「…………それ以上話したら、ボクも容赦しない。そもそも、ラブレターだのなんだのってのも好きじゃないんだ。というか、最初から恋人がいる人には手を出すなよな」
「ごめんなさい……」
あー、面倒くさい。
早く昼休みにならないかな。
そんなことを考えていると、不良三兄弟が話しかけてくる。
「春木って、姐さん以外にはつめてーよな」
「ま、あの人は漢らしいからなぁ。女だけど」
「なんにしろ、姐さんに知られたら叱られるぞ? まあ、その程度で済ませるのがあの人のすげーところだけどな」
「あのさあ、つむぎさんの話をボクの前でするなよな」
「「「へいへい」」」
……この世は色がない。
あの人にしか、色鮮やかな世界にすることができない。
だから好きなんだ。それは、不良三兄弟から守ってくれたときから変わらない。
あの人は……つむぎさんは、ボクの世界を色づけてくれた。
あの人以外に、ボクは懐かない。
そんなことを考えながら窓を見ていると、いつの間にか昼休みになっていた。
「よし! 行くぞ不良三兄弟!」
「てめーが仕切るのは腹立つけど……」
「「「おう!」」」
こうして、二年生の教室へと向かうボクと不良三兄弟。
ようやくつむぎさんに会える! あー、なんだか緊張してきた!!
そう思いつつ、ガラガラっと教室のドアを開ける。
「こんにちは、つむぎさん!」
挨拶しながら教室に入るボク。
すると、目に入ったのは……
「あっ、ハルキちゃん!」
「ぐっ!?」
ポニーテールのつむぎさんだと……!?
なんて可愛らしいんだ……!
でも、ここは平常心だ。
「どうかした? ハルキちゃん」
「いえ、とても似合っていたので!」
「ハルキちゃんもやってもらう?」
そう言って、ボクの髪に触れるつむぎさん。
「いえ、結構です」
「えぇ~? 私は一つ結びのハルキちゃん、見てみたいなぁ……」
「でも、ボクは一応男なので」
表向きはな。
ボクは男として振る舞わないといけない。
それをつむぎさんはわかっていないのか……?
まあ、わかってないなら可愛いし、わかってるならボクを想ってつい出てしまった言葉なのだろう。
「まあなんにせよ、ハルキちゃんは可愛いからね」
「あの、つむぎさん。前から思ってましたが、ボクのどこが可愛いんですか?」
「えーっとね、大型犬みたいなところ!」
「……それ、可愛いですか?」
「えー? 可愛いよ? 私はハルキちゃんのおかげで犬派になったもん!」
「それとこれとは関係ないような……?」
「そうかな?」
つむぎさんは不思議な人だ。
仮に変人だとしても、ボクの好きな人に変わりはないけど。
「そうだ。ハルキちゃん、抱きしめてもいいよ?」
「どうかしたんですか?」
「いや……この間、私暴走しちゃったでしょ?」
「アレですか! すっごく可愛かったですよ?」
「暴走したの!」
「は、はぁ……」
なんだその可愛らしい言い方は……!?
「だからね、普段のハルキちゃんの気持ちがわかったの」
「なるほど」
「だから……我慢しなくていいからね?」
「はぁ……」
嬉しい。嬉しいけど、どうしようかな?
つむぎさんがムラムラしてても、可愛いだけだったし……
逆につむぎさん側から攻めてほしい!
……なんて言ったらどう思われるだろうか。
試してみよう。
「でも、ボクからするとアレですし、つむぎさんから来てください! つむぎさんに攻められると、『愛されてる』って感じるので!」
「……あのさ、ハルキちゃん」
「はい、なんでしょう?」
「私はハルキちゃんのこと好きだよ? 一生……」
「……ボクもです!」
「だから、またそういう気持ちになったら止まらなくなるかもよ?」
「…………そうですか。でもそういうのも、『愛されている』って実感が湧きませんか?」
「あー、わかるかも。ハルキちゃんってば、私のこと好きだなーって思うときがあるし」
「ボクは先日のアレまで実感が湧きませんでしたけどね!」
「もう、ハルキちゃんのいじわる……」
「な、なにがですか?」
「とにかく、私も好きだから! 今はそうとしか言えないよ?」
「……ですね」
なんだこの可愛い生き物は?
抱きしめてあげたい……! でも、ここは学校だ。
我慢しなくては……
「それじゃあ、そろそろバイバイ」
「えっ!? もう昼休みが終わるんですか?」
「うん。じゃあ、またあとでね」
「はい!」
こうして、チャイムが鳴る前に一年生の教室へと戻る。
「あーあ、もっとイチャイチャしたかったな」
「十分してたろ」
「てか、人前なのによくあんな会話できるな」
「ホント、姐さんには弱いなお前」
「……ボクの前であの人の話をするな」
「「「へいへい」」」
でも可愛かったなぁ。ポニーテールのつむぎさん。
そのあと、ボクは昼寝する。
授業は退屈だからな。
「…………ちゃん? ハルキちゃん!」
「なんですか……?」
「ハルキちゃん、迎えに来たよ!」
「どうしてですか? あれ? クラスの連中は?」
つむぎさん以外誰もいない……。
いつの間にか放課後になっていたのか。
「みんな出ていったよ? もしかしてハルキちゃんって、私がいないときは狂犬なの?」
「……どうでしょうね?」
「でも、狂犬のハルキちゃんも見たいなぁ。可愛いかも」
「…………それはまた今度でもいいですか?」
「そっか、残念だなぁ……それじゃあ帰ろう?」
「はい!」
そうして、いつもどおり帰るボクとつむぎさん。
もしボクがつむぎさんにしか懐かないことを告げたら、どういう反応をするんだろう。
つむぎさんって優しいし、可愛らしく注意するだけだろうか。
それとも、漢らしいカッコいい感じで叱ってくれるのだろうか。
なんにせよ、想像しただけでつむぎさんがもっと好きになりそうだ。
「つむぎさん!」
「……なぁに?」
「大好きです!」
「……そっか。私もだよ」
そう言って、自分の方から手を繋いでくれるつむぎさん。
ボクはこの人には一生敵わなさそうだ。だって、ボクのしてほしいことを真っ先にしてくれるから。
そんなふうに、仲良く手を繋ぎながら帰るボクたちだった。
本来のハルキはこういうキャラクターです。
つむぎに対しては特別ということですね。




