第二十六話 才上家 その④
「ただいまああああああ!!」
部屋の外からそんな声がすると、執事や使用人の皆さんがドタバタとかけて行く。
「な、なんだろう?」
「……お父様の帰宅ですわね」
「へぇ……どんな感じなの?」
「オールバックの渋い人ですわ……見た目は」
「『見た目は』ってなんだよ? 才上」
「会えばわかりますわ」
「それじゃあ会いに行こうか!」
「そうですわね、わたくしも紹介したいですし」
こうして、雪菜ちゃんのお父さんに会うために部屋から廊下に出る。
「さぁ、昼食の用意をしてくれ! ん? 新入りのメイドか?」
「わたくしの学友ですわ! つむぎさんと言って……」
「話は食事中に聞こう。さあ、昼食にするぞ!!」
「はっ! 旦那さま!」
使用人の人たちがみんな声を揃えて言う。
もしかしたら、意外といい人なのかもしれない。
そして、長いテーブルにたくさんの椅子が並んでいる部屋に連れられる。
「さて、いただきます!!」
「いただきます!」
使用人さんたちみんなが口を揃えて言う「いただきます」は、ものすごい熱気を感じた。
「いただきます……」
「いただきますわ……」
「いただきます」
そう言ったのはいいものの、私たちの皿に食べ物は乗っていなかった。
さっき使用人の人たちがいなかったのは、雪菜ちゃんのお父さんの分を盛り付けに行ってからだったのかな?
「どうぞ? バイキング形式だ。食べたければ取りに行きなさい」
「お、お父様! そうやっていつも聞かないですわよね!? いい加減わたくしのことを認めてください!」
「いいや、ダメだ。若いうちは仕事よりも、もっと大切なことがあるはずだ」
「でも、わたくしはもう家業を引き継げる腕はありますわ!」
「ダメだと言ったらダメだ。早死にさせたくない、わかってくれ」
「お母様はまだ生きているでしょう!」
「彼女は秘書だ。睡眠時間を削って仕事をするワタシのような生活はさせたくない」
なるほど、話が見えてきた……。
雪菜ちゃんのお父さんは、雪菜ちゃんに家を継がせたくないんだ……!
「あの、雪菜ちゃんのお父さん!」
「キミは?」
「早乙女つむぎさんですわ!」
「ほう。確かそこにいるライバル社、『春木家』の子の恋人……と聞いているが?」
「わたくしとも仲良くなりましたの!」
「それはいいことだ。ぜひ、これからも仲良くしてやってください」
「は、はい……。で、雪菜ちゃんのことですが……」
「…………キミには無関係だ、とだけ言っておこう」
すごいプレッシャーだ……!
ならここは……
「そうですね! 無関係ですね!」
「ああ、そうやって喧嘩をしないで穏便に……」
「でも、私も雪菜ちゃんとは間接的に関係があるので、無関係ではないです!」
「……キミ、いい度胸だ」
「雪菜ちゃんと話してあげてください」
「話しているさ」
「話を聞かないのは話しているとは言いませんけどね」
「喧嘩を売ってるのかい?」
「はい! 先に雪菜ちゃんに売られた喧嘩を、私が代わりに買っています!」
「売った覚えはないのだが」
「そりゃあ、互いに自覚がないからです」
「生意気な子どもだなぁ」
「分からず屋の大人よりはマシかと」
「キミ、気に入った! 雪菜と友達でいなさい! 雪菜をよろしく頼んだ」
「話はまだ終わってないです」
「いいや? キミとの話は終わりだ」
「そうですか……」
確かに、私にはもう話すことはないかな。
「じゃあ、雪菜ちゃんにバトンタッチしますね」
「いいとも」
「雪菜ちゃん。お父さんとの久しぶりの会話だよ? 頑張って」
「はい。ありがとうございますわ」
「雪菜、ワタシは自由に生きてほしいんだ」
「では、家業を継ぐのも自由では?」
「早死にさせたくないんだ」
「わたくしは構いませんわ」
「こっちが構うんだよ。当主は跡継ぎを決めるまで、死んではならないんだ」
「では、わたくしは頑張って生きますわ」
「つむぎさんとやら。キミはどう思う? 彼女に早死にしてほしくはないだろう?」
……ここはなんて答えるべきなんだろう。
なら、私らしく言ってみよう。
「はい! 私は雪菜ちゃんには早死にしてほしくありません!」
「そうか。つまり、ワタシの味方なわけだね?」
「…………いえ、どうしてもと言うのならさせるべきです。私はあくまでも、雪菜ちゃんの味方なので!」
「そうかい。キミは雪菜が早死にしてもいいと」
「今の時代、人力のみの企業は少ないと思いますが?」
「それもそうだがね、いざってときは、やはり人間がものを言う」
「お父様! わたくしは大丈夫ですわ!」
「なら本音を語ろう。会社などどうでもいい。長生きしてほしいんだ。親として!」
「春木晶はどう思いますの?」
「ボク!? ボクからしたら、才上家なんてどうでもいいよ! つむぎさんに聞け!」
「では、つむぎさんとやらは?」
「うーん、私も正直どっちでもいいかな。お父さんの言うとおりだけど、雪菜ちゃんの味方もしたいし……」
「そうですか……」
「でもね、いい方法があるよ!」
「なにかね?」
「なんですの?」
口を揃える才上親子。
「それはね、雪菜ちゃんのお父さんが休む時間を作ればいいんだよ!」
「ほう?」
「なぜですの?」
「雪菜ちゃんのテストとして、毎週末に会社の資料を解かせる! 実力があるなら会社のためになる! それで、雪菜ちゃんはお父さんとも遊べるよね?」
「ほぅ……確かに、親子の時間は大切だ」
「解けなかった場合はどうなるんですの?」
「その場合、雪菜ちゃんは会社を継ぐに値しない。でもそこそこの腕ってことで、社員にはなれるんじゃないんですか? 雪菜ちゃん自身も、睡眠時間を削って毎日頑張ってるんだったよね?」
「なるほど……どちらにしろ、雪菜の要望を叶えつつ、ワタシは自由な時間が増えるというわけか」
「いい考えですわね!」
「………………うむ、いいだろう。採用だ!」
「あのお父様が受け入れるだなんて……!」
「ありがとうございます!」
「さすがはつむぎさん! 惚れ直しましたよ!」
「ふふん。私も久しぶりに男の人と張り合って、緊張したなぁ」
ちょっと怖かったけど、雪菜ちゃんのためだったからね!
「ああ、いい胆力だった。これからも雪菜とよろしく頼むよ」
「はい! 雪菜ちゃんの実力を見つつ、睡眠時間を増やしてください。雪菜ちゃんだけではなく、雪菜ちゃんのお父さん自身も!」
「了解だ。キミが女性でなければ、婿になってほしいくらいだよ」
「いえ! どちらにせよ、私にはハルキちゃんがいるので!」
「……そうか」
「それより、お父様たちと遊べる時間が増えるのは嬉しいですわ!」
「ああ。母さんにも伝えておこう」
「はい! ぜひ頼みますわ!」
こうして、雪菜ちゃんの親子喧嘩に巻き込まれた私。
私も雪菜ちゃんのお父さんには結構酷いこと言っちゃったけど……。
なんにせよ、雪菜ちゃんの悩みの種を解消できてよかったと実感するのだった。
久しぶりの漢らしいつむぎですね。




