第二十五話 才上家 その③
「というわけで、遊ぼう?」
「わたくしに遊んでいる暇はありませんわ」
「ならせめて、場所を変えたり……」
「もう放っておいてくださいまし!」
「うん、わかった」
「……そうですか」
「じゃあ、私が勝手に遊ぶね!」
「はあ?」
「雪菜ちゃんは勝手に仕事しなよ? 私も勝手にするから」
「訳がわかりませんわ……」
「じゃあ、まずは猫ちゃんたちをここに連れてくるね!」
「ちょっ……!」
なにか言いたげな雪菜ちゃんをスルーして、私はさっきの猫ルームに向かう。
その道中で、ハルキちゃんと鉢合わせする。
「あっ、ハルキちゃん! なにしてるの?」
「バイキングルームで食事をしようかと。つむぎさんは?」
「雪菜ちゃんを振り回したくって、努力しようかなってね!」
「才上に嫌われますよ?」
「ふふん、そんなんじゃ私は止まらないもんね! もちろんハルキちゃんはわかってるよね?」
「はい。つむぎさんって、意地っ張りで強情で聞かん坊で頑固で一途で漢らしくてカッコよくて……」
「じゃあね、ハルキちゃん! 私急いでるから! そういうのはまた今度聞くね!」
「はい! 今日はつむぎさんらしく、ガンガン行っちゃってください!」
「オッケー!」
こうして、猫をかき集める。
「あ、でも毛が舞ったら迷惑だよね……。なら、一匹だけ可愛い猫ちゃんを連れて行こう!」
そう思って選ぼうとするも、どの子も可愛くて決められない私。
「そうだ! なら、執事さんにこう言ってみようかな!」
そうして、廊下に出て執事さんたちの方へ向かう。
それから数十分後……
私はとある格好をして雪菜ちゃんのところへと向かった。
「指紋認証よし! 虹彩認証よし! 雪菜ちゃーん!」
「なんですの?」
「せめてこっちを見てよ~?」
「だから、なんです……の?」
振り返った雪菜ちゃんは言葉を失う。
「どうかな?」
そう、私はメイド服に着替えてみた。
ちょっと無理を言ったけど、執事さんたちは快く受け入れてくれた。
執事さんたちが雪菜ちゃんに対してどういう想いだったのかは、よくわからなかったけど……
「いやー、ポニーテールかツインテールか迷ったんだけど、ツインテールは恥ずかしかったから……ポニーテールにしてみた! どうかな?」
「ふ、ふん! わたくしは忙しいんですわ。そんな格好、春木晶とわたくしの家の者以外には見せないことですわね」
「うん! それでね? ほら、猫耳カチューシャ! 雪菜ちゃんが休むなら、私がこのカチューシャを着けて膝枕を……」
「そんな手には引っかかりませんわ!」
「……だよね」
「でも、そろそろお昼ごはんが食べたくなったので、休憩でもしますわ! あくまでも、昼食のためですからね!」
「うん! じゃあ、あーんしてもいい?」
「ふ、ふん! 好きにすればいいですわ!」
「ありがとね、雪菜ちゃん」
「そ、それよりも、猫耳カチューシャと膝枕はいつしますの?」
「いつがいいですか? お嬢様?」
「からかわないでくださいまし!」
「えー? 可愛いじゃん。ていうか、受け身だと雪菜ちゃんって可愛いね!」
「それより、作業していたことは、お父様やお母様には内緒ですわよ?」
…………なんでなんだろう?
「どういうこと?」
「わたくしの行動に、両親は賛成してませんの」
「なんで?」
「今日は久しぶりにお父様が帰ってくるので、そのとき説明しますわ!」
「う、うん。わかった」
そして、猫ルームで雪菜ちゃんに膝枕をして休ませていると……
「あっ、才上!」
「ダメだよ、ハルキちゃん。今寝たばっかりなんだから」
「あっ、すみません」
「そうですわ。子猫が寝たばかりなので、静粛にしてくださいまし」
「……って、猫の話ですか!?」
「うん。雪菜ちゃんはまだやることがあるから起きてるんだって」
「ほー……それより、つむぎさんのその格好は?」
「どうかな? ハルキちゃんもする?」
「ボクは着ませんが、一つもらっておいてください」
「正体を現しましたね! ケダモノ春木晶! つむぎさんのこの格好は今日だけでしてよ!」
「ボクたちは交際してるんだ! 一つもらってあんなことやこんなことに使ってもいいだろう!?」
「二人とも静かにしてくれないかな? 猫ちゃんが起きちゃうからさ」
私はトーンを下げて忠告する。
「す、すみませんでした!」
「その格好でそのトーンで話すとカッコいいですわね! あとで写真を撮ってもいいでしょうか?」
「いいけど……こんなの、雪菜ちゃんちに来たらいつでも着てあげるよ?」
「そうですか。ならいいですわ」
「ボクは撮るからな。才上」
「ならこのメイド服、一着だけもらってもいいかな? 雪菜ちゃん?」
「うーん……複雑ですわ。でも、学校でそういう格好をさせるのもいいですわね」
「さすがに学校では制服だよ!?」
「ふっ、まだまだだな才上。二人きりの空間でメイド服にするからロマンがあるんだよ」
「まあ、そうですわね。それなら許可は出しませんわ」
「そっかぁ……」
「申し訳ございません。でも、春木晶にいい思いはさせたくありませんので」
「なら仕方ないね!」
「くっ……! つむぎさんが言うなら仕方ない……!」
ハルキちゃんが悔しがっているのを眺めていると、なんだかお腹が空いてくる。
「じゃあ二人とも、そろそろごはんにする?」
「もっとメイドっぽくお願いしますわ」
「えーと、そろそろごはんにいたしますか? お嬢様」
「うん、いいですわね! このままうちの使用人にしてあげたいですわ!」
「あのさ……この格好、結構恥ずかしいんだよ……?」
「……うーん、恥じらいがあっていいですわね」
「そこは同意するぞ才上」
「そんなこと同意しなくていいから!」
でも、雪菜ちゃんが学校でのノリに戻ってきてる気がする。
そんなとき、バタンという音が屋敷の入り口からしたことに、私たちは気付かなかった。
そう。このときの私は、雪菜ちゃんとそのご両親の親子喧嘩が始まることをまだ知らなかったんだ。
甘やかしモード全開ですね




