第二十一話 突然の来訪者
その日はヘリコプターの轟音で目が覚めた。
「うーん……七時前なのに、近所迷惑なヘリだなぁ……」
そう思いつつ、スマホのアラームが鳴る寸前に来てくれたことをちょっぴりだけ感謝する。
それから歯を磨くために階段を下りると、雪菜ちゃんが玄関にいた。
「ごきげんよう、つむぎさん」
「ご、ごきげんよう……」
寝ぼけているせいか、雪菜ちゃんがいることをツッコむ気にもならない。
でも、ツッコミはしなくても、つい説教はしてしまう。
「雪菜ちゃん? 近所迷惑だから、ヘリコプターで来なくてもいいからね。せめて車とかで迎えに来て? あと、チャイムも鳴らさずに来るのはびっくりするから……」
「鳴らしましたわ! ヘリの音で聞こえなかったのでは?」
「じゃあ……ヘリコプターで来るのもびっくりするから、控えてね?」
「わ、わかりましたわ」
「ていうか雪菜ちゃん、なんで来たの?」
「我慢出来ずに、会いに来ちゃいましたわ」
「そっか。なら、ちょっと待ってて」
「わかりましたわ!」
こうして、洗面所で顔を洗い、歯を磨く。
そのあとうがいをして、すぐさま玄関に向かった。
だんだん目が冴えてきた私は、改めて雪菜ちゃんにこう尋ねる。
「あのー、今さらだけどさ……なんで雪菜ちゃんがいるのかな?」
「親友ですので!」
「そっか。朝ごはんは?」
「食べてませんわ!」
「そうなんだ。なら、ちょっと待ってて」
私は、私のために焼かれたトーストを半分こする。
「はい、あげる」
「これは……?」
「トーストだよ? 知らないの?」
「いえ、そうではなく……なぜつむぎさんは他人を助けるんですの?」
「困った人がいるなら、見過ごせないのが『私らしい生き方』だから。要は自分らしく生きたいから……ってのはダメ?」
「カッコいいですわね! でも、そのトーストは受け取れませんわ」
「いいから食べて!」
トーストをちぎって、雪菜ちゃんの口に含ませる。
「ん……!? 温かいんですのね」
「えっ? 冷めた料理しか食べたことないの?」
「ええ。ここ数年は。たまにぬるいのも食べられますが、作業が忙しくて、大抵は冷めてしまうんですの。家庭の事情ってやつですわね」
「ふーん……なら、私が温めてあげるね!」
「……なにをですの?」
「雪菜ちゃんの心!」
「はぁ……」
「だから今度の休日、雪菜ちゃんのうちに遊びに行ってもいいかな? どんな家庭なのかとか、色々知りたいし!」
「…………はい! ぜひ!」
「ハルキちゃんと一緒に!!」
「…………春木晶も来るんですの? 嫌ですわ」
露骨に嫌そうな顔をする雪菜ちゃん。
「それじゃあ、いつか私一人で行くから! だからお願い!」
「……ふぅ、まあいいでしょう」
「ありがとう! それじゃあ、着替えるから待ってて!」
「はい」
それにしても、ここまでハチャメチャな人は初めてだなぁ。
制服に着替えながらそう思う私。
「よし、行くか!」
玄関に向かうと、ハムスターのようにトーストを食べている雪菜ちゃんがいた。
「お待たせー」
「待ちましたわ」
「うん。じゃあ、いってきます!」
こうして、家を出る私と雪菜ちゃん。
すると、とっても長い車が家の前に停まっていた。
「確かリムジンって言うんだっけ?」
「ええ。では、乗ってください」
「いいや。私、歩いて行くから」
「疲れますわよ?」
「だって、もっと雪菜ちゃんと話したいし、車だったら一瞬でしょ? そんなの、私はイヤかな」
「そうですか。なら、わたくしも歩きますわね」
ここで雪菜ちゃんが車から降りる。
「……合わせてくれてありがとね!」
「では行ってください。無理を言ってしまい、申し訳ありませんでしたわ」
雪菜ちゃんがそう言うと、車は行ってしまった。
「雪菜ちゃんって大きいよね。なんセンチ?」
「最近は測ってませんが、大体百六十五センチ前後ですわね」
「へぇー! ハルキちゃんより大きいんだね!」
「そうなりますわね」
「私は百五十センチもいかないくらいだから、羨ましいなぁ」
「そうでしょうか? 可愛らしくていいと思いますけど……」
「身長も高いし、美人で優しくて……雪菜ちゃんって良い子だね!」
「いえ、それは過大評価ですわ。わたくしはそこまで優しくは……」
「謙遜しなくてもいいと思うけどなぁ」
「謙遜ではありませんが……」
「あ! ならこれからは、私の言った優しい良い子になればいいんじゃない?」
「……そう、ですわね」
そんな会話をしていると、目の前から人がやってくる。
そう、ハルキちゃんだ。
「おはようございます! つむぎさん!」
「うん、おはよう!」
「春木晶……」
「才上がいるのは気に入らないけど、まあいい」
「二人とも、私の前で険悪になるのはやめて?」
どうしていがみ合うんだろう?
好きなものは同じ二人なのに……
「はい! わかりました!」
「まあ、つむぎさんがそう言うのなら仕方ないですわね」
「よかった……」
「ではつむぎさん、ボクと手を繋ぎましょう!」
「うん、いいよ!」
「つむぎさん? わたくしもよろしくて?」
「うん、いいけど……」
「けど?」
「けど……なんですの?」
「私、捕まった宇宙人みたいになってない?」
「大丈夫ですわ。そこまで身長差はないので」
「なんですかそれ? ボクにも教えてください」
「昔エイプリルフールで外国の新聞に載った、嘘の写真だよ」
「へぇー」
ハルキちゃんが感心する中、雪菜ちゃんが笑った。
「ふふふふっ……! つむぎさんって、面白い方ですのね!」
「笑ってるの初めて見たかも。可愛いね!」
「……照れますのでやめてください」
「つむぎさん? ボクもいるんですけど?」
「うん、ハルキちゃんはいつでも可愛いよ!」
「ならいいですけど……」
「嫉妬は醜いですわよ?」
「ボクは恋人だからいいんだよ!」
「はいはい、喧嘩しない……」
そんなこんなで、私は雪菜ちゃんの来訪でいつもとは違う朝を迎えた。
毎日は勘弁してほしいけど、たまにはこんな日があってもいいかもしれない。
そう思いつつ、私は二人と一緒に登校するのだった。




