第二十話 転校生 その③
「つむぎさん、わたくしと手を繋いでくださいまし」
「うん! いいよ?」
こうして、雪菜ちゃんと手を繋ぐ。
「つむぎさん! ボクもいいですか?」
「いいよ!」
ハルキちゃんとは恋人繋ぎをする。
「春木晶とは恋人繋ぎですのね」
「うん。なんたって恋人同士だからね」
「どうだ才上? 羨ましいだろう?」
「ふっ……」
「なにがおかしいの? 雪菜ちゃん」
「いえ、その程度で喜ぶ低俗さに失笑してしまいまして」
「なんだと?」
「わたくしは黒髪のロングヘアでしてよ?」
「私と似てるね。私は茶髪でくせっ毛だけど」
「愛らしさや可愛さ、美人度に顔の整い具合……すべてつむぎさんの勝ちだな!」
「ふっ……そこではありませんわ」
「あっ、そっか。雪菜ちゃんは私と同じ髪型ができるってことかぁ」
「そう! そこですわ、つむぎさん!」
「ぐぬぅ……」
でも、いちいち勝ち誇る必要はあるのかな?
……なんて言ったら二人とも冷めそうだから、あえてツッコまないけど……
「あ! そういえば、ハルキちゃんって雪菜ちゃんのこと呼び捨てだよね」
「ボクの中で才上は才上ですから。先輩になったとしても、変える気はありません」
「わたくしも構いませんわ。ライバルなのに変わりありませんので」
「じゃあ私は?」
「親友ですわね。そうですわ! つむぎさん、おんぶしてもよろしくて?」
「いいけど、どうして?」
「親友だからですわ! 決してやましい心があるわけではなくってよ?」
「はいはい! ボクもやりたいです!」
「ハルキちゃんも? どうして?」
「つむぎさんの温もりを味わいたいので!」
「ふっ……」
またしてもハルキちゃんをあざ笑う雪菜ちゃん。
「そんな言い方では、つむぎさんが気持ち悪がるだけでしてよ?」
「そう思うだろうな。つむぎさんと今日会ったばかりの才上は!」
「……もう! 相変わらずえっちだなぁ、ハルキちゃんは」
「なっ……!?」
「そう、罵倒が聞けるんだ。これはつむぎさん初心者にとってはわからないトラップだ!」
「私の初心者ってなに……? ていうか、罵られて興奮しないでほしいなぁ。その、照れちゃうよ……」
「くっ……! 今回はわたくしの負けですわね」
「そうだろう? ではつむぎさん、おんぶするので乗ってください」
「やだ」
「つむぎさん……!?」
「どうしてですの? せっかく春木晶に譲って差し上げたのに……」
うーん、これを直接聞かせたら二人とも面倒くさい反応をしそうだなぁ……。
まあいいや。
「だって二人とも楽しそうなんだもん! 私のことを奪い合うのはいいけど、私は自分を蔑ろにされて怒ってるんだからね!」
「ああっ……!? つむぎさんが怒ってる! 可愛い!」
「キュートですわね。スマホの待ち受けにしますわ!」
「じゃあボクも……!」
パシャパシャとスマホで写真を撮る二人。
まったく反省してないなぁ。
仕方ない。ここは……
「私、先帰るね。今日は楽しそうでよかったよ。私はあまり楽しくなかったけど」
「……おい才上」
「くっ……! 春木晶と協力するのは癪ですが、仕方ありませんわね」
「つむぎさん、すみませんでした!」
「お詫びになにかしてあげますわ! なんでも言ってくださいまし!」
「なら……今日だけでも私をめぐって争わないこと! って、なんか少女漫画のヒロインみたいなセリフだな……」
「わかりましたわ」
「ボクもわかりました」
ふぅ、これで仲良くやってくれるかな?
「ではつむぎさん、なにをしてほしいですか?」
「お話して?」
「お話……ですの?」
「うん。二人が私のことを好きな理由とか」
「では、ボクから話しますね?」
「う、うん……」
なんだか嫌な予感がする……。
そして、私の予感は見事に的中することになる。
「つぶらで吸い込まれそうな瞳。整った顔立ち。茶髪でふわふわとしたくせっ毛の髪の毛。変幻自在とも言ってもいいほどヘアアレンジが可能なヘアスタイルのバリエーション。セクシーで小ぶりな胸。だけど、温かくて柔らかいところ。あとは、柔らかくてすぐに砕けてしまいそうな身体。小さくて可愛らしい体格と、可愛らしい声。あとは……」
「ハルキちゃんありがとう! もういいよ?」
「あと三十分は語れるのに、もう終わりですか?」
「うん。短くまとめて?」
「では……さっき挙げた要素をまとめても語り尽くせないほど、魅力的なところが好きです!」
「そっか」
「では、次はわたくしの番ですわね。つむぎさんの大好きなところを語りましょう」
「うん」
いつの間に好きにさせちゃったんだろう?
でも、雪菜ちゃんも今は親友だし、どうでもいいことか。
「まずは、その可愛らしい容姿ですわね。わたくしと似たヘアスタイルにできるところも高得点でしてよ」
「くっ……!」
「あの、そこよりも雪菜ちゃんが私を好きになったきっかけは?」
「逸らないでくださいまし。それが数日前の話ですわ」
「……ということは、前から見られてたってこと?」
「ですわね」
「才上、どこまで見てた?」
「だよね! どこまで見てたの!?」
「ご安心を。スキンシップなら、春木晶とつむぎさんがハグしてるところくらいですわ」
「なんだ、安心ですね。つむぎさん」
「うん……とはならないよ!? 恥ずかしいよ……」
「でも、もう慣れましたわ。なので、いつでもわたくしの前でハグでもなんでもやってくださいまし。わたくしは気にしないので」
「ボクたちが気にするんだけど?」
「そうですの。それは残念ですわね」
「なんか話が逸れたなぁ。好きになった理由は?」
この感じだとろくでもないのかもなぁ。
そう思っていたけれど、そんなことはなかった。
「そうでした。わたくしはここ数年、会社の仕事を寝る間もなく行うばかりでしたの」
「まあ、そうだろうな。才上は跡継ぎなんだし」
「そうなの? なんか可哀想だなぁ」
「でも、冷え切った心に、暖かい光……つむぎさんの優しさが心に沁みましたの」
「……私なんかしたっけ?」
「手を握ってくださいました。フレンドリーに話しかけてもくれましたわね」
「そういえばそうだね」
「春木晶のライバルなのにも関わらず、対等に扱ってくれたのも好印象でした」
「えっ? ライバル以前に友達……いや、親友だからね! あと私、争うの嫌いだし」
「さすがつむぎさん! カッコいいです!」
「頭を撫でてもくれましたわね。あれのおかげで、完全に確信しましたわ。この人は太陽のような存在だと!」
「……ちょっと大げさじゃない?」
「わかる、わかるぞ才上……!」
「だから、好きになりましたの。鈍感なところも可愛らしく、交際相手もいるので……わたくしは親友として仲良くすることにしました。これからは負けませんわよ、春木晶!」
「いやいや、親しさに勝ち負けとかないよね!?」
「えっ? そうですかね?」
「どういう意味ですの?」
なんでいつも張り合おうとするんだろう? この二人……
「だって、親しさっていうのはその人たち同士の話でしょ? 一組だけならわかるけど、二組の関係性を比べることはできなくない?」
「ふむ……」
「どうしてですの?」
「例えば、お母さんと子どもの親しさと、親友同士の親しさなら、どっちが勝つと思う?」
「親子の方ですかね?」
「ですわね。親子の方ではなくって?」
「ブブー! 正解は、『勝ち負けはない』でした! 親しさは関係性で変わるものだからね! 同じ条件じゃないと勝ち負けは測れないってのが、私の持論かな!」
「つまり『恋人』のボクと、つむぎさんから『親友扱い』の才上に勝ち負けはないと……」
「うん! そうだよ」
「でも、優劣はあるのではないでしょうか?」
「そういうのは個人の主義だからわからないけど、それでも優劣はないと思う!」
「さすがつむぎさん!」
「ですわね。間接的に喧嘩を止めましたのね」
「そんな大層なものじゃないよ!?」
「ではつむぎさん、また明日ですわ」
雪菜ちゃんはスマホをポチポチとイジる。
なにをしているんだろう?
そう思っていたら、急にヘリコプターが飛んできて、そこからハシゴが降りてきた。
「えっ!? あれって……」
「才上家のヘリですね」
「つむぎさん! 今日は楽しかったですわ!」
「ちゃんとスカートは押さえてね!?」
「はい! では、また明日!!」
こうして、ヘリコプターに乗って去っていく雪菜ちゃん。
スケールが違うという感想と同時に、家では不自由な暮らしをしている。
その話からして、普段学校にいるときが素の彼女なのだろう。
そう思うと、もっと甘やかしてあげたいなと思ってしまう私だった。




