第十九話 転校生 その②
黒髪ロングヘアで背が高くて美形の女の子、才上雪菜さん。
そんな子が私の親友になったけれど、恋人のハルキちゃんはそれが気に入らないみたい。
だから私はたったいま、そのハルキちゃんの頭を撫でているところだ。
「よしよし」
「ありがとうございます、つむぎさん」
「うん。ハルキちゃんは可愛いね」
「はぁ……」
「でも、普段はカッコいいから安心してね。今日も放課後、一緒に帰ろう?」
「はい!」
よし、これでハルキちゃんの相手は終わりかな。
「雪菜ちゃん、待った?」
「はい。五億年ほど」
「どこに五億年ボタンがあったの!?」
「冗談でしてよ。それより、なでなでより膝枕とやらをしてほしいですわ」
「うーん……私はいいけど、雪菜ちゃんのスカートの中が見えちゃいそうだからなぁ」
「そうですか、残念ですわ」
「いつかやってあげるね」
「はい!」
そんな約束をすると、ハルキちゃんが張り合ってくる。
「おい才上! ボクの方がお前より何十倍も膝枕されてるからな!」
「ハルキちゃん? ちょっと静かにできるかな?」
「でも……!」
「私、他人を尊重しない人は嫌いだからね?」
声のトーンを下げ、ハルキちゃんをちょっぴり脅してみる。
「すみませんでした!」
「うん。それじゃあ雪菜ちゃん、いいかな?」
「はい、お願いしますわ」
雪菜ちゃんは床に正座して、私の膝に手を乗せている。
そんな雪菜ちゃんを撫でる私。
なんとも言えない光景だ。
「よしよし……」
「ふふっ……」
「そうだ。雪菜ちゃんさ……」
「なんですの?」
「意外と冗談とか言うよね。さっきの五億年ボタンとか。意外と博識なの?」
「はい。いろんな勉強を子どもの頃からしているので」
「へぇー! じゃあ、箱入り娘なの?」
「……はい」
「ふーん。なら、門限までに私と付き合ってくれない?」
「「はい?」」
ハルキちゃんと雪菜ちゃんが声を揃えた。
「付き合うって……付き合うってことですか!? ボクの存在は……!?」
「いや違うけど?」
「そんな……! まだお付き合いは早すぎますわ……!」
「だから、違うって言ってるよね!? 二人ともどんだけ恋愛好きなの!?」
「冗談ですよ! ははは」
「ハルキちゃんが冗談言うのは珍しいね」
「わたくしは本気でしたわ」
「はぁ……なんかいつもより疲れるなぁ。まあ、楽しいからいいけど」
「それで、さっきの話はどういう意味でして?」
「遊ぼうよ! みんなで好きなところを遊び歩いて、おうちにもお邪魔したりしちゃってさ!」
「いいですわね」
「才上が邪魔だな」
「春木晶が邪魔ですわね」
「はいはい、二人とも喧嘩しない」
喧嘩するほど仲がいいとはよく言うけど、この二人にはそんな言葉は当てはまらないだろうなぁ。
「あっ、そろそろ昼休みが終わるな」
「じゃあね、ハルキちゃん」
「はい、またあとで! あと、つむぎさん」
「ん?」
「愛してます」
「うん! 私も!」
「それじゃあ!」
「「「姐さん、さようなら!」」」
「うん! 不良さんたちもバイバイ!」
そうして、後輩たちは一年の教室へと戻っていった。
「つむぎさん、春木晶とはいつもあんな感じですの?」
「うん。私たち、交際してるからね!」
「つむぎさん。もしわたくしが『愛してる』と言ったら、どうしますの?」
「ん? なにが? 親友同士なら、『愛してる』じゃなくて『大好き』の間違いだよね? もう、おっちょこちょいだなぁ」
「……そうですわね」
なんだか雪菜ちゃんが寂しそうに笑った。
これは多分、人を傷つけちゃったときの表情だ。
「ごめんね? なんか私、悪いこと言っちゃった?」
「いえ、同情はやめてくださいまし。わたくしが悪いので」
「そっか。放課後になったら詳しく聞くから、我慢してね?」
「はい……」
それから、雪菜ちゃんは午後の授業からなぜか私のことを避けるようになった。
やっぱり私がなにかやらかしてしまったのだろうか。
そして、ようやく放課後がやってくる。
「よくわからないけど、ごめんね?」
「なにがですの?」
「雪菜ちゃんには嫌われたくないから、お願いだから教えて? 私はなにをどう傷つけたの?」
「つむぎさん、大好きですわ!」
「私も大好きだよ?」
「でも、その心は春木晶のものなのですわよね」
「うん! だって、ハルキちゃんは恋人だし」
「つまり、わたくしは失恋を……」
そう言いかけたとき、
「つむぎさん! 迎えに来ました!」
ハルキちゃんがやってくる。
「あっ、ハルキちゃん」
「残念だったな才上! つむぎさんはボクのものだ!」
「そうですわね……」
そう言うと、雪菜ちゃんは目元を袖でゴシゴシと拭った。
「なら! 『親友』として、もっと仲良くなってやりますわ!」
「めげないところは嫌いじゃないが、つむぎさんはすでにボクのものだからな!」
「つむぎさん。これからも、『親友』として仲良くしましょう?」
「うん。いいよ? さっきの失恋うんぬんは置いといて、私がなんでも言うこと聞いてあげるね! 雪菜ちゃんを傷つけちゃったのは事実だから」
「じゃあ、付き合ってくださいまし!」
「無理! ごめん! だって、私にはハルキちゃんがいるから!」
「ケチですわね……」
「『可能な限りの範囲で』ってのを付け加えていいかな?」
そう言うと、雪菜ちゃんは悩んでから言った。
「うーん……ではつむぎさん。ときどきわたくしと一緒に帰ってもらってもよろしくて?」
「いいよ!」
「ええっ!? ボクら、才上の前でイチャイチャしないとダメなのか!? たまにだけど!」
「わたくしは気にしませんわよ?」
「ボクは気にするんだよ! つむぎさん、どうなんですか!」
「でも、傷つけちゃったし……休日にデートするときとかはついてこないし、いいよね?」
「……まあ、それならいいですけど」
「ありがとね、ハルキちゃん!」
「はい……」
こうして、雪菜ちゃんがたまに一緒に帰ることになった。
でも、本当にこんなこと許可してよかったのかな?
内心そう悩みつつ、三人で帰るのだった。




