第7話_ガラス扉_
この建物の構造は把握している。
共用部にはエレベーターと内階段があり、建物の外側には非常階段も設置されている。コンビニのバックルームから共用部へ出られる扉もあるため、いざとなれば複数の逃走経路を確保できる。
俺とバイトAはバックルームを出て共用部へ向かい、そのまま階段で二階へ上がった。
二階はカラオケ店だ。
もし安全を確保できれば、個室を生活スペースとして利用できる可能性がある。
狭いバックルームに七人も押し込まれた状態では、どれだけ善良な人間同士でもいずれストレスが溜まる。睡眠も休息も満足に取れず、小さな不満が積み重なれば争いの火種になりかねない。
少しでも健康的な生活水準を維持するためにも、個室はぜひ確保したかった。
階段を上り切り、店の出入口前へ立つ。
まだ営業前の時間帯ということもあり、店内は暗い。派手な照明も流行りの楽曲も流れておらず、静寂だけが支配していた。
ガラス越しに見えるフロント付近にも人影はない。
「どうします?」
小声で尋ねるバイトAに、俺は持ってきたトンカチを見せた。
「鍵だけ開けたいとこだけど…」
出入口全体を破壊するつもりはない。鍵穴付近のガラスだけを割り、そこから手を入れて解錠するつもりだった。
できるだけ静かに。
そう考えて持ってきたトンカチを振り下ろす。
コツッ。
鈍い音が響く。
しかしガラスは思った以上に頑丈だった。細かなヒビが入っただけで割れる気配はない。
映画やドラマでは肘鉄一発で割れている印象があるが、現実はそう甘くないらしい。
俺は少し力を込めて再び振り下ろした。
次の瞬間。
バリーンッ!
ガシャーン!!
予想をはるかに超える轟音が廊下中に響き渡った。
出入口のガラス戸は大きく砕け散り、静まり返っていた建物に破壊音が反響する。
「やべぇ……」
思わず顔をしかめる。
想像以上に大きな音だった。
もしあの化け物たちがゾンビ作品の定番通り音に敏感なら、この音を聞きつけて集まってきてもおかしくない。
そんなことを考えながら耳を澄ませた、その時だった。
「……うぅ……」
かすかな声が聞こえた。
俺とバイトAは同時に動きを止める。
聞き間違いではない。
今のは確かに、人のうめき声だった。
音は一階方向。
階段の吹き抜けを通して、共用部のどこかから聞こえてくる。
静まり返った建物の中で、その不気味な声だけがゆっくりと近付いてくるように感じられた。




