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第6話_疑惑_

緊急メールの内容が頭から離れなかった。


『市内複数箇所にて原因不明の暴力事件が発生しています。不要不急の外出を控えてください。』


あの通知が送られてきた時の街の様子を思い出す。もちろん不安そうな顔をしている人はいた。しかし、大半は困惑しながらもあまり慌てず行動していた。


考えてみれば、それも当然なのかもしれない。もし自分があの惨状を目の当たりにしていなければ、同じように「何が起きているんだ?」と首を傾げるだけだっただろう。


だが、どうしても腑に落ちない点があった。


国や自治体はどこまで把握していたのだろうか。


暴力事件が複数箇所で発生していることを認識し、緊急メールを送るほどの情報を持っていた。それなのに、避難指示や安全な避難場所の案内など、次に取るべき具体的な行動は示されていなかった。


もし事件が発覚した直後なら理解できる。情報が不足していて判断できなかったのだろう。しかしメールの文面からは、すでに市内各地で異常事態が確認されていたようにも読み取れる。それほど状況が進行していたなら、もっと具体的な指示が出されてもよかったのではないか。


もしかすると上の人間たちは、事態の深刻さをある程度理解していたのかもしれない。そしてあえて市民に判断を委ねた。


いやしかしそれに何の意味がある。少しでも統制がとれて被害を最小限に食い止めるにはやはり具体的な指示を出すのが妥当だろう。


――被害は度外視にして、ひとまず様子を見ていた?あるいは上の人間たちも混乱下にあって指示を出せるまとまりがすでにない?


いや、さすがに考えすぎか。


情報が不足している今、答えの出ないことを考えていても仕方がない。


何より優先すべきは、自分たちが生き残ることだ。


「どうした? 急に考え込んで」


声を掛けられ、俺は意識を現実へ引き戻した。


「すみません。なんでもありません」


軽く頭を振り、目の前の状況を整理する。


この建物の中に生存者がいるかもしれない。だが、それを確かめることだけに集中するのは危険だ。


「この建物に生きている人がいるかどうかは一旦置いておいて、使えそうな物資の確保と、非常時の逃走経路の確認はしておいた方がいいと思います」


全員の視線がこちらへ向く。


「もしここが安全じゃなくなった時、逃げ道が分からなければ詰みます。それに食料や道具も確保できるうちに集めておくべきです」


少しの沈黙の後、俺は続けた。


「とりあえず、俺とバイトAで探索してきます。皆さんはここで待機してください」


おっさんと女性は不服そうだったが、物資や避難経路の確保が優先条件となるならば、と最終的に反対する声は上がらなかった。


俺はバイトAに視線を送り、小さく頷く。


答えの出ない疑問を追うのは後だ。


今は、生き残るために動かなければならない。


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