第5話_口論_
五階建てのビルには、一階のコンビニ以外にも二階のカラオケ店、四階の事務所、五階の管理人室兼住居などがあり、平日の朝とはいえ誰か残っている可能性があった。
店長は建物内を探索し、生存者の確認や防衛に使える物資の確保を提案する。
しかしスーツ姿のおっさんは反対した。
「食料も水もある。薬や日用品だって今すぐ必要じゃない。人を増やせば食い扶持が減るだけだ。余計な行動はせず救助を待つべきだろ」
それに対しバイトAは反論する。
「でもこの建物の人くらいは助けてもいいじゃないですか。防衛に使えるものが見つかるかもしれないし、一階のこの店はシャッターを破られたら逃げ道は上階に限られてきます。逃走経路確保という意味でも探索するべきです」
「そもそもあのゾンビにシャッターを破る力があるのか?」
「ゾンビ作品では進化することもあります。異常な怪力を持つ個体が出ないとは言い切れません」
すると今度は女性が口を開いた。
「そんなもしものことばかり言っていたら守れるものも守れないんじゃないの? 今はまだネットも使えるんだし、まずは情報収集をして、ゾンビの能力が分かった後に探索すればいいじゃない」
しかしバイトAは首を振る。
「そのころにはこの一帯はゾンビだらけです。相場ゾンビは音に敏感ですから。探索で不要な音を出してしまえば、この建物ごと囲まれるかもしれない。だから街が混乱している今のうちに準備するべきなんです」
「その相場って何なんだよ」
おっさんが呆れたように言う。
「だったら別にゾンビが音が聞こえないかもしれないだろう」
議論はそこで行き詰まった。
ゾンビは音に反応するのか。
力はどれほど強いのか。
進化するのか。
誰も知らない。
仮定に仮定を重ねるだけで結論は出ず、会話は次第に意味を失っていった。
この状況では無理もない。
俺が電車内で最初の惨状を目撃してから、すでに一時間半ほどが経過している。シャッターの外からは今も悲鳴や怒号が聞こえてくるが、どこか閉める前より静かになったような気もした。
視界が遮断された今、俺たちが得られる情報はスマホと音だけだ。ニュースもSNSもこの街の混乱を伝えるばかりで、避難指示や救助に関する新しい情報は出ていない。
情報収集はこの先生き残る上での再重要項目の一つだ。いくら食料があっても情報を入手できずゾンビに囲まれてしまえば元も子もない。
「俺、行きますよ。おっさんの言うことも分かります。でも防衛の観点から見れば、この店だけじゃ心もとない。シャッターを閉めてからは外の音でしか状況が分からないし、ネット記事だってずっと上空映像を流してるだけです。避難に関する情報も最初から何も変わってないし……」
そこで俺は、ふと違和感を覚えた。
最初俺のスマホに出た警告は確か…。




