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第3話_逃避_

駅から少し離れた場所にあったコンビニへ飛び込んだ俺は、息を切らしながら電車内で起きた出来事をまくし立てた。


だが、レジに立っていたやる気のなさそうな店員は「はいはい」と適当に相槌を打つだけで、まともに取り合おうとはしない。


当然だ。俺だって逆の立場なら信じない。


それでも店の外を行き交う人々の様子がどこか異様だったのか、店員はしばらく考えた後、「とりあえず奥に来て」と俺をバックルームへ案内した。


そこで初めて、その男が店長だと知った。


店内には男子大学生らしいバイトが2人とスーツ姿のおっさんと女子高生が1人。


ひとまず店内の人間は全員バックルームに入ることにした。


狭い部屋には冷蔵庫の低い駆動音だけが響いていた。


俺はスマホを開き、ニュースサイトやSNSを何度も更新する。


だが表示されるのは芸能人の熱愛、政治家の失言、景気の話題――いつもと変わらない退屈なニュースばかりだった。


本当に俺が目の当たりにした電車内のあれが最初の事件だったとしたら、まだ報道されていないのかもしれない。


あるいは、俺が何かを見間違えたのか。


噛みつかれた男が立ち上がった光景を思い出す。


……いや。


そんなはずはない。


あれは確かに、人間じゃなかった。


そう考えた瞬間、背筋に冷たいものが走った。


映画の見過ぎだ。


そう自分に言い聞かせても、不安だけは消えてくれなかった。


店長は「ゾンビ映画だと初動が大事なんだよ」と半ば冗談のように言いながら、店のシャッターを下ろすため外へ出た。俺たちも恐る恐る入口から外を覗く。


そこで見たのは、街の人々に噛みついて回る“あいつら”だった。


観光客の多いこの街では、まだゾンビの数より逃げ惑う人の方が多い。スーツ姿の会社員、外国人観光客、泣き叫ぶ子ども――混乱の中を人々が四方八方へ走っている。


だが、その中に混じっていた。


血まみれの顔で人に飛びかかる者たちが。


俺は確信した。電車の中で見たあれは、見間違いなんかじゃなかった。


「助けてください!」


突然、三十代後半くらいの女性がこちらへ駆け込んできた。店長と俺は反射的にその人を店内へ引き込み、すぐにシャッターを下ろす。


ガラガラガラ――。


直後、外から激しくシャッターを叩く音が響いた。


「開けてくれ!」「助けてくれ!」


その声に胸が締め付けられる。だが、開ければ全員が終わるかもしれない。


俺は震える手でスマホを開いた。


今度は違った。


SNSはこの街の映像で埋め尽くされていた。誰かが撮った動画が瞬く間に拡散され、閲覧数もコメントも秒単位で増えていく。


こうなれば、自衛隊や政府も動かざるを得ないはずだ。


まずはここに立てこもる。


俺たちは、次の避難指示を待つことにした。

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