第11話_実験_
さっきのガラス扉のことといい、どうもゾンビたちは音に対してそこまで敏感ではない気がする。
その一方で、最初の一体を倒した途端にわらわらと集まってきたのも事実だ。アリやハチのように、仲間が攻撃を受けた際に警報フェロモンを放出する生き物は存在する。もしこいつらも同じような性質を持っているのだとしたら、うかつに倒し切るのも危険かもしれない。
それに、最初の初老女性足怪我ゾンビがどうやって建物に侵入したのかも分かっていない。扉を開けるくらいの知能はあるのか、それとも別の侵入経路があるのか。情報が少なすぎる。
「ひとまず、色々実験してみるしかないな」
まずは音だ。
まだモニターは生きていたらしく、電源を入れるとカラオケの待機画面で流れる番組のような映像が映し出され、そこそこの音量で音声が流れ始めた。
「ちょっと、大きいですよ!」
バイトAが慌てて声を上げる。
「ごめん!!」
さすがに今のはまずいか・・・?
だが数十秒待ってみても、外の様子に変化はなかった。
この部屋はカラオケの個室だ。ある程度の防音性能はあるだろう。それでも完全に音を遮断できるわけではない。
にもかかわらず、ゾンビたちは反応を示さない。
「……やっぱり聴力はそこまで高くないのか?」
次に光だ。
部屋の照明を少しずつ明るくしていく。
しかしこちらも結果は同じだった。
外を歩く影に変化はなく、こちらへ向かってくる様子もない。
聴覚だけでなく視覚も人間以下なのだろうか。
だとしたら、今まで見てきたゾンビ作品の常識はあまり当てにならない。
「こいつら、一体どうやって獲物を探してるんだ……?」
「確かに。視覚と聴覚が弱いならこのゾンビなんて創作物以下で大したことないですよきっと。にしてもこの部屋暑いですね。冷房もついてないし、こういう密閉空間だと余計暑く感じますよ」
「まぁ、それもそうだな。俺も汗ばんできたし――」
そこまで言いかけて、違和感を覚えた。
外の影が増えている。
まだ扉を叩かれるほどではない。だが、明らかにこの部屋の前をうろつく個体が増えていた。
音でもない。
光でもない。
俺は額を伝う汗を拭った。
もしそうだとしたら――。
「……匂い、か?」
こいつらは、嗅覚で獲物を探しているのかもしれない。




