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第十三録 共犯

最近、よくあの人の話を思い出す。

もういなくなってしまった鳥の話。あの人が幼い頃に飼っていた鳥。


何度も何度もその話を語るあの人に、どうしても思うことがあった。言いたいことがあった。


ねぇ、●●●。……もし、――――。


あの人は僕のことを見ていない。自分の罪しか見ていない。可哀想な人だから。結局、言えなかったな。


ねぇ、先生。僕はどうしたら良かったんですか。どうしたら僕は正しく人でいられたんでしょう。


先生は僕のことを見ていた。話を聞かせてくれた。外のこと、幽霊のこと、燐のこと。

『迎えに来る』って約束したのに。貴方は来なかった。


嘘つき。でも、ごめんなさい。先生。

僕が貴方の教え子をひとごろしにしてしまった。

ごめんなさい。先生。


もし、また会えるなら。どうか僕を許さないで。罪人のままでいさせてくださいね。

……トキ先生。



「……とっとと目ぇ覚ませ!!ボンクラ野郎が!!」


耳に声が響く。五月蝿い。


「……五月蝿いですよ。金扇さん。」


「……起きてんなら返事しろ。いつまでも医務室(ここ)使わせる訳にはいかねぇんだ。」


金扇紗子。燐内のカウンセラー兼特別監視官。そして、ここは医務室。……書庫にいた筈なのに。


「わざわざ運んだんですか。」


「倒れてる奴を床にそんままにするほど、人が腐ってねぇもんでな。お分かり?」


そう言って金扇さんは煙草に火をつける。十八歳の人間がいる場所で煙草を吸うくらいには腐ってますが。せめて、窓を開けてくれたのが幸いか。


「まぁ、久しぶりだな。惟芽胤サン。二年で人間ってのは結構変わるモンだな。」


「……貴方はお変わりないようで。」


「すまんな、あまりにも美女過ぎて。……んなこたぁどーでもいーんだわ。」


元々目つきの悪い目が緩く細められる。何かを糾弾する時の目だ。


「……惟芽、お前。禁術に手ぇ出しただろ。『記録から記憶を見せる術』。誰のを何年分見たか言え。」


流石は古参。バレているか。でも、ただでは挫けない。


「二人です。澄の記憶を二年。緒梨さんの記憶を……おそらく十年。」


「相当見たな……。お前、もうそれ使うんじゃねぇぞ。」


金扇さんは毅然とした態度で警告をした。

倒れてしまったのだからそう言われるのも当たり前か。でも、


「嫌です。」


「……はぁ?」


嫌なものは嫌なので。


「断ります。」


「……いやいやいやいや!?……はぁ?お前馬鹿じゃねぇの?」


金扇さんは「信じられない」という目で僕を見る。


「……貴方に言われたくないですね。」


「誰が馬鹿だ!!!稀代の天才だが?」


天災の間違いじゃないだろうか……。


「……普通教育受けてないのに?自分の名前漢字で書けますか?」


「はあー?書けるが???」


そう言って近くにあった紙とペンをとり、金扇さんは書いていく。……ペンの持ち方独特だな。


「……書いた。ほれ。」


「……字きたなっ……!?」


「おん?なんだ?やるかオイ」


性根がチンピラ過ぎる……。


「貴方の将来が心配になってきたな……。」


「今までもどうにかなってんだ。ならこれで良いだろ。今、困ってねぇならそれで良いじゃねぇか。」


ああ、そう言えばこの人も最初から燐にいた人だったな。


「……(ここ)以外の生き方を知らないか。」


「生憎、(ここ)以外で生きるつもりもねぇよ。ずっと前から。」


ずっと思っていたことがある。金扇紗子は、鳥籠の鳥ではない。


「人は常に進化していく。みんな進化が大好きだ。でもな、アタシは進化が嫌いだ。」


この人は馬鹿だ。でも、頭が悪いわけじゃない。


「停滞しても良いじゃねぇか。今まで通り何不自由無かったんだ。これからも無い。過去に縋ったって良い。先なんて見たら目が腐っちまう。死なない程度に、辛くない程度に逃げて仕舞えば良い。」


金扇さんは開け放たれた窓辺に寄りかかる。外はもう朝日が昇っていた。


「な?……悪くねぇ考えだろ?」


ずっと疑問だった。


「貴方がそう考えるようになったのは、誰の影響ですか?」


何が金扇さんをそうさせたのか。


「殺されてしまった榊悠正?目も前で死んだ金扇龍介?それとも……貴方を置いて行った契約霊?」


「……もうそこまで知ってんのか。」


金扇さんは逃げるように目線を逸らして笑う。


「……当ててみろよ。惟芽胤。」


外から肌寒い風が吹いた。金扇さんの笑い方はゲームを持ちかけるような稚拙で幼稚な悪戯を思いついたような笑いで。


「当てたら、全部教えてやる。」


まるで人として生きているようだった。


「なら、貴方も手伝ってください。」


金扇さんは一際驚いた顔をして僕を見た。


「稀代の天才なんでしょう?……金扇紗子、僕を導いてみて下さい。僕に禁術を使わせたくないんでしょう?」


また、金扇さんは笑う。今度は困ったように。


「あらまぁ、随分と食えん奴。」


貴方はこの燐の中で一番多くの人と関わってきたから。いろんなことを見てきたんでしょう。

だから、金扇さん。貴方自身が記憶の証人として僕の共犯になって下さい。

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