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第三話 港町ヴァローニュ その3

港町ヴァローニュは人口7千人、市壁に囲まれ、港にはいくつもの商会の倉庫が軒を連ねており、フォッジアス王国の第二の海上交易の窓口であった。

警備隊は175人、責任者はアマート=バローネ=ダ=ベルトラーミ、男爵である。

イヴァン達は港町ヴァローニュに到着後、兵士に案内され用意されていた宿泊所、港にある商会の倉庫を借り上げただけ、にひとまず落ち着いた。

現在のところ60名でゆったりと使える空間であったが、これは一番最初に到着した特権と言うべきもので、司令部隊と騎士隊のみ、特別に借り上げた宿屋などを用意されていたが、各小隊は早い者勝ちでよい場所を取っていく。市壁の中という空間には余剰な場所などほとんど無く、イヴァン達の選んだ倉庫は商会が荷受けする際に使用していた施設でもあり、いくつかの部屋とさらに馬小屋まで備えた立派なものであったが、残り9個の小隊の最後の方に到着した隊は、市壁の外にテントを張って任務に就くことになる。

イヴァン達は一息ついた後、隊を三隊に分け、 それぞれベルティーナ、イヴァン、ミケーレが15人の兵を率いる事になり、オフェーリアとジウベルトは残った工兵科と医学科、薬学科と共に留守番と雑務に就くことになった。

ベネディクティス先生は分隊編成が終わるとヴァローニュ警備隊の城館へと打ち合わせに向かったので、

ベネ先生が戻ってくるまで、やる事の無い小隊は、しばらく休憩をとる事にした。

ただ、ミケーレは隊長任務未経験の為、その間にベルティーナの講義を受ける事になった。

はっきり言って、講義の後、ミケーレがベルティーナに泣かされ無い保証はない。

ベルティーナは、教える方にはまったく向いていないのだ。

特に、出来が悪いとイライラしてくるらしく、 嫌味が聞こえるくらいならまだいいが、彼女は手を上げるので、見ているほうはいたたまれない。 ミケーレは何かを訴える目で、イヴァンを見ていたが、イヴァンはその場から逃げるように、宿舎の外に出て港の方を見ていた。

大小の船20隻ほどが停泊しており、積荷の積み下ろしをしている人達や、積荷の値段の交渉をしている商人達、その他にも様々な人が行き交っている。

そして沖にはフォッジアスの軍旗を掲げた帆船3隻が停泊していた。

しかし、元々ヴァローニュには海軍は駐留していない。

海軍本部はフォッジアス王国最大の港を持つ商業都市ラスクイーニアにあり、ヴァローニュには一隻も常駐配備されていない。

もちろん海上警備や補給で海軍艦はヴァローニュに立ち寄ったり、付近海域にはいるので普段なら問題は無い。

だが、現在は海上停泊し、不審船を近づけないように監視していた。彼らもまた、賊を逃がさない為、特別に配備された軍艦であったのだ。

後ろに人の気配がしたので、ちらりと見てみるとクラリーチェがイヴァンのすぐ後ろに来ていた。

「なにしてるのイヴァン」とイヴァンの横にならんで微笑みかけてくる。

「港を見てたんだ」

と言ってまた視線を港の方に戻す。

「わたしね初めて海を見たんだけど、においって言うのかな?こんな匂いなんだね。海って」

とクラリーチェも海の方に視線を向ける。

「そういえば来たこと無かったな、そうそう、海には匂いがあるんだよ。潮の香りって言うんだ」

「へーえ、そうなんだ。うーんいい匂い!」 クラリーチェはそう言って隣で深呼吸をして、気分のよさそうな表情をしている。

「俺もはじめてきた時、海の大きさと潮の香りに圧倒されたよ」

「わたしも行きたかったなー」

「まあ、でもクラリーチェが来る前の話だからさ」

「あっ、そうだったんだ。てっきりイヴァンがいなかった時、来てたのかと思っちゃった」

そう言って、てへへと、苦笑しながらクラリーチェが言う。

「わたし、村から出た事なかったからね」

それを聞いたイヴァンは聞きにくそうにクラリーチェに尋ねる。

「その…、記憶…まだ戻らないのか? い、いや、俺も戻ってないんだけど、クラリーチェはどうかなと思ってさ」

尋ねられたクラリーチェは少し落ち込んだ様子で答える。

「うん…、全然」

「そうか、…それならそれでいいのかもな」

「え?」

「あ、いや、独り言だ。……あ、それより春休みの事なんだけど、俺は一応領主なんで村に帰らないといけないんだけど、クラリーチェはどうする?」

そうイヴァンに聞かれたクラリーチェは少し悩んで答えた。

「そっか、わたしどうしようかな…、うん、イヴァンが帰るならわたしも帰る。お父さんやお母さんにも会いたいし」

「じゃあ一緒に帰ろう」

「うん、一緒に帰る」

返事を返したクラリーチェはそう言うと、イヴァンの腕に自分から腕を組み、肩に頭を乗せてきた。

昔、二人で遊でた頃に、よくやっていた事だ。座ってその体勢で、二人とも寝込んでしまった事も一度や二度じゃない。

二人にとってはなんという事も無い行為なのだが、イヴァンも学校に入学し社会勉強を重ねた結果、これは誰かに見られたらいじられるネタになる事を知っていた。

クラリーチェは村から出て数ヶ月なのだが、まだよくわかってない部分があり、たまに昔のようにじゃれて来る時がある。

「ばかっ、人目があるところでくっついたら駄目って教えたろ!」

とイヴァンがたしなめるとクラリーチェが少し怒ったような目で訴えてくる。

「ええー、少しくらいいいじゃない。疲れてるんだから」

なんの言い訳にもなってない…とイヴァンは思いながらクラリーチェに取られている腕をするりと引き抜く。

クラリーチェは、「あ」と驚いた声をあげ、肩に乗せた頭を離しイヴァンをにらむ。

二人がそんなやり取りをしていると、横から声をかけられた。

「二人とも、中に入れ。休憩は終わりだ」

ちょうど戻ってきたベネ先生だった。

宿舎に入ると先生は皆を集め、話を始める。

「今警備隊長のベルトラーミ男爵と話をしてきた、とりあえず他の隊が戻ってくるまでの暫定処置だが、港の警備に付く。さっき分けた3分隊で指定場所を守ってもらう。主な任務は警備隊の補助、ようするに、騒ぎが起きたら駆けつけろ、という事だ。それと…、今人相書きを写しているが、まだそんなに枚数が無い。順次分隊に配布する事になるが、頭目と思しき者の一枚だけもらってきた。これにまず、目を通して頭に叩き込め」

ベネ先生は、机の上に人相書きを置いた。

人相書きには髭面で目つきの悪い男が描かれていた。

「ちょっと、これって」

それを見たベルティーナが驚いたように言った。

「あいつだ」

イヴァンもすぐにその人物を特定できた。

そう、ルパート村で出会ったあいつだ。それをベルティーナはすぐにベネ先生に報告する。

「ちっ……こいつが例のやつか、すぐに王都にも早馬で知らせないといけないな、よく知らせてくれた。」

ベネ先生は舌打ちをし、相当にやっかいな相手、とでもいいたげに眉をしかめてそう言った。

「とりあえず警備範囲を説明する」

ベネ先生は町の見取り図を取り出しペンで範囲に丸を付け、3分隊の隊長に渡していく。

「その丸を付けた範囲が担当区域だ早速配置に着いてくれ。工兵、医学、薬学科はここに待機。時間は日没まで。以上だ」

それを合図に各分隊とベネ先生は、それぞれ宿舎から出て行った。

ルパート村の住民を皆殺しにし、次は王都にある教会を襲撃して逃亡し、尚且つまだ生きている程の相手。

イヴァンは彼とその手下達とまみえたことはあるが、あの時はルイーザと名乗る少女が手助けしてくれた。

その時見たあの男の力、自分達単独で対処出来る相手とは思えない。

一人の時、出会ったならすっ飛んで逃げるほどの猛者であり、その手下でさえギリギリ倒せたほどなのだ。

イヴァンは、地図を見ながら指示された場所に向う途中、うんざりしたように空を眺め、一つため息をついた。

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