第三話 港町ヴァローニュ その1
イヴァン達、混成第4小隊が港町ヴァローニュを目指し、出発して2日目。
まだ2月であるという事もあり、まだかなりの寒さである。この辺は雪があまり降らないので,行軍演習で赴いていた北部より,かなり負担の少ない行軍路であったため、小隊員達も普段と変わりない様子で行軍していた。
小隊は先ほど昼食をとったばかりで、雲ひとつ無く日光に当たれば心地い。
イヴァンも馬にばかり乗っていると非常に寒く、体が冷えきってしまうので馬から下りて馬を引き、小隊の最後尾を徒歩で進んでいた。
それはすぐ前を歩く薬学科のクラリーチェ含む3人組も同様で、歩いたり、荷馬車に乗ったり自由に出来る。
大方、体が冷えたときは歩くと思ってもらって間違いは無い。
後方隊に配属された4人の馬車の御者を務める歩兵科も工兵科の連中と御者を交代してもらったりしている。
冬場に馬車に乗ったり馬に乗るのは非常に寒く、無理をすれば体調を崩す元になる。
ただし、医学科のヴェネリオだけは歩くと疲れると言ってどんなに寒かろうが自分に雪が積もろうが荷馬車から降りる事は無かった…。医者の不養生ということわざが南方の国から伝わってきていたが、ヴェネリオはまさに医者の不養生の鏡のような男であった。
イヴァンはすぐ前で工兵科達とわきあいあいと会話をする薬学科達を眺めやっていた。
もちろん戦闘前や待機中になれば注意しなければいけないのだが、行軍中であれば、ハメをはずしすぎなければ 注意する事はまず無い。
その時、薬学科の女生徒がくるりと振り向いてイヴァンと目が合う。
「イヴァンクンも会話に加わればいいのに」と声をかけて来た。
彼女はヴァレーリア=アルジェント、薬学科2年。金髪ショートがトレードマークである。結構男らしいところがあって 薬学科では慕われ、女生徒から絶大な人気を誇る。
それを聞いたほかの工兵や薬学科(クラリーチェ含む)もこちらを注目する。
「あー、…ヴァレーリアさんも知っての通りオレの性格上、会話に加わりたいのは山々なんだけどさ、作戦中騎士科は作戦以外のことでは私語禁止なんだよ…。」
イヴァンはそう言ってしょぼんとした。
「それってさ、建前でしょ?他の騎士科の子達だって、皆そんなの守ってないよ?」
「まあ、そうなんだけどさ…。」
「にひひ、クラリーチェと話したいけどおじゃまキャラがいるから声掛けれない~って顔してるよ、へへへ」
とニヤニヤへらへらしながらヴァレーリアが言うと、イヴァンは真っ赤になって言い返す。
「ば、な、なに言ってるんだ?俺は…、…まあ友達だから話はしたいけど。そんなっ、し、私語禁止だし!」
「クラリーチェと話したいって事まったく否定してないね?イヒヒ」
だんだんヴァレーリアの笑い声が嫌らしくなってきた。
イヴァンは真っ赤な顔を横に向け、言った。
「だってそりゃあそうだろ?仲のいい幼馴染だったらさ」
「まあまあ、それを自分で言っちゃうか、よかったねクラリーチェ、愛されてて」
とにこやかに告げると工兵科達も「おおー」と声を上げる。
愛しているとはイヴァンは一言も言っていないが…ヴァレーリア翻訳に掛けるとそうなるらしい。
そういわれて真っ赤になったクラリーチェは両手で顔を隠して、
「もうっ!ヴァレーリア先輩やめてください。イヴァン先輩も困ってるでしょ!」
困ったように声を上げたが、ヴァレーリアは受けあわない。 だが、様子は見ていたヴァレーリアは、さらにニヤニヤしてもうたまらないという感じで言った。
「あらもう本当に可愛いわねこの子は。男子とはイヴァンクン以外とはまったく話さないしさ、ほんとに大事にしてあげてね」
ヴァレーリアの言葉の最後の方は、イヴァンの方を向いてほんとにお願いね、という感じで言った。
ひゅーひゅーと工兵科の連中から口笛が聞こえ、イヴァンも真っ赤になり、もはやなにも言い返せなくなっていた。
「ほんとにお似合いね…、将来が本当に楽しみ。イヴァンクンはどっちをとるのかなー?」
ヴァレーリアに意味深な事を言われ、イヴァンはちらりとヴァレーリアをみると、こちらにはもう興味は無いとばかりに前を向き、クラリーチェが照れている様子を眺め、ひじでつついたりしていた。
「ていうかー、なんで年下の女の子とそんな仲良くなるんです?普通、男は男、女は女とあそびません?」
と容赦のない言葉を掛けて来たのは薬学科一年、カルロッタ=バルディ。ツインテールで性格は結構いい加減、であった。
ようやくいつもの調子を取り戻しつつあったイヴァンはコホンと一つせきばらいをして答えた。
「ああ、故郷の村には同い年くらいの子供がオレとクラリーチェしかいなかったんだ。だから、毎日一緒に遊んでたよ」
「へえ」
とカルロッタは相槌を打つとクラリーチェとイヴァンをちらちらと交互に眺めやる。
「結構田舎なんですね?」
田舎なんですね?の部分に少しカチン、ときたが「まあそんなもんだ」とイヴァンはさらりと受け流す。
「なるほどー、幼いころから仲良しなのはそういう事だったんですかー」
と一人で納得したように腕を組みうんうんと頷くカルロッタであったが、イヴァンは彼女の最後の言葉に否定も肯定もしなかった。
本当に幼い頃はイヴァンは一人で遊んでいた。たまに他の騎士家に行った時に同い年くらいの子供がいれば遊ぶ事はあったが… クラリーチェはイヴァンが10才のときに、イヴァンが つ れ て き た のだ。
どうしたのだ?なにがあったのだ?どうやってつれてきたのか?と大人達にさんざん聞かれたが、イヴァンが遊びに行って、彼女を連れて帰ってくるまでの間の記憶は無かった。気が付いたら村の外にいた。そしてクラリーチェに至っては以前の全ての記憶が無く、名前すら判らなかったのだ。
この事は学校の誰にも話してはいないし、話す必要も無い。 これはクラリーチェと話して決めた事だ。
ちょうどその時、隊の前方からミケーレが馬に乗ってやってきた。
「イヴァン少し交代だ。今後の予定を話したいってベルティーナが呼んでるぜ」
「わかった」
イヴァンは返事を返すと馬にまたがり、隊の先頭に向かう。
クラリーチェ達の横を通り過ぎるとき、ちらりとクラリーチェの方に目をやると、イヴァンと目が合ったクラリーチェは、にっこりと微笑んだ。




