↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/7

第二話 檻の中の少女ヴェロニカ

行軍演習を終え、学校の校庭に到着したベルティーナ達を校内から見つめている一人の老貴族がいた。

くたくたに疲れた生徒達を眺めている表情には笑顔がこぼれている。

 デルネーリ先生が生徒達に何か激を飛ばしているようで疲れきった生徒達はうんざりした顔で話を聞いていた。

10分ほどその状態がつづきデルネーリが解散を命じると生徒達はふらふらとおぼつかない足取りで寮に戻っていったが、 そのなかに地面にへたり込んで動かない少年が一人、薬学科や医学科らしい生徒達が近くにいた歩兵科数人の手を借りて医務室に運んで行くのが見える。

それを眺めていると、部屋の扉をノックする音がきこえる。

「デルネーリです」

老貴族は扉の方に向き直ると入りたまえ、とドアを開ける許可を与える。

デルネーリが扉を開けて老貴族の机の前まで歩み寄って行くと姿勢をただし、敬礼をする。

「ただいま任務から戻りました!」

「ごくろうだったな、デルネーリ先生」

老貴族はねぎらうように言った。

「報告してくれるかね?」

「は!混成第4小隊は戦闘を行うも被害は0。ただ・・・」

「ん?」

「彼らはリーパと出会い交戦した模様です」

それを聞いた老貴族は驚いた顔をする。

「ほほう、リーパと交戦して被害ゼロとは奇跡のような話だな。神に感謝せねばなるまいて」

「そして、おそらく戦女神の助力があったと思われます」

それを聞いた老貴族はさきほどよりもさらに驚いた顔をした。

「おお、それは幸運であったな。そうだな、そうでもなければ彼らは生きて戻ってきてはおるまいな・・・」

と腕を組み何度もうなずく。

「で?」

「は?」

「だれか見初められたかね?」

「あ、いえ、すぐにどこかに消えたそうで・・・おそらく彼女の眼鏡にかなうものがいなかったのでしょう」

それを聞いた老貴族はすこし残念そうな表情をする。

「それは残念だな、確認するが彼女は一人だったのかね?」

「はい、報告ではそう聞いてます」

「なら、なおさら残念だ。大陸東部にはほとんど現れないと言うのに…」

「ただ、本人はルイーザと名乗り、オルシュティン教会神学校女子部に所属していると話していたそうです」

「・・・!?ハハハ、そうかそうか、それが本当ならこの星の処世術すらまだ身についていない若く純粋な戦女神だろうな。何とか見つけ出してわしが立候補しに行きたいくらいだよ」 と校長はわははと笑い、鼻の下をのばしていた。

それを見たデルネーリはあきれながらぼそっとつぶやくようにささやく。

「はあもう、歳を考えろよな…」心の声がつい口に出てしまったようだ。

「ん?何か言ったかね?デルネーリ君?」

「あ、え?いえなんでもありません」 と手を振りながらデルネーリはとりつくろったが校長はなにか疑うような様子で目をすぼめデルネーリをじろじろとながめていたが それに耐えられなくなったデルネーリはすばやく話題を戻した。

「あ!、それと校長、警備隊や騎士隊にもこの情報は伝わっていますのでご注意ください」

校長とよばれた老貴族は不敵な笑みを口元に浮かべる。

「早急に騎士隊と交渉しこちらに任せてもらおう。それと平行して調査を開始する。本当に存在していればわれわれの側に引き込む手を考えよう。彼女達の言葉で言えば、誰かと結婚していただく、ということになるのかな」

「しかし、過度な干渉を行えば彼女達は姿を消してしまうのではありませんか?」

「そこはきみ、…うまくやりたまえ」

「は?」

「調査はわたしがやるがその後の作戦指揮は君に任す。責任重大だぞデルネーリ君!」

「は、はあ」

デルネーリは力なく返事を返すと校長はうなずいた。

「では下がってよろしい。情報が入り次第連絡する」

「は!」

敬礼をしてデルネーリは部屋を出て行った。

それを見送った後、校長はいすの背もたれにもたれながら目をつむりひとりごちる。

「ふう、女神か・・・実になつかしい。見初められた者はたまったもんじゃないがな。いや、結局の所は本人しだいというところか。さてさて、あと4年もない、出来るだけの手を打たんといかんから大胆かつ盛大にやってみようかね」


第二話 檻の中の少女ヴェロニカ


オルシュティン教会神学校の中庭に一人、くすんだ色のローブを着た車椅子の少女が太陽の光が顔にあたるのを気持ちよさそうにしながら佇んでいた。

季節は冬だったがここのところ雪は無く、まだまだ空気は冷たいものの呼吸するたびに心地よい空気が肺を満たす。

まだあどけない表情をした車椅子の少女は盲目だった。 真っ暗闇の世界で皮膚に伝わる太陽の熱と大気の冷たさと肺に染み渡る空気とその香り、そして音。

それが彼女の世界のすべてであった。

小一時間ほどもそこにいただろうか、体も冷え切り彼女をここに連れてきたシスターも用事があると言うとどこかに行ってしまったため最初は心地よかった環境も今や彼女に苦痛を与えつつある。

いつものことだ。

と彼女は口には出さずだまって耐えていた。

語りかける対象がいるのかいないのかもわからない。

もしかしたらあたたかい室内からわたしを見ながら笑っていたらどうしよう。

と、おそろしい思いがあたまをよぎるが大きく首を横にふり、頭に浮かんだ光景を振り払う。

人に頼る事しか出来ない、迷惑をかけることしか出来ない、母とも父とも離れもう二度と会うことも無い。

彼女はいつも悲しかった。

でも、彼女は信じていた。

いつかきっとオルシュティン教王が伝える主神が彼女にきっと手を差し伸べてくれることを。

たとえその時が自身の死の間際だったとしてもきっと救ってくれると彼女は信じた。

その気持ちがなければ彼女はきっとかなしみに耐えられなかっただろう。

そして何年かの年月が、いつも悲しい彼女をだれよりもやさしい人間に育てていた。

だが同時に簡単に手折られる野の花のように、はかないほどの強さしか彼女は持ち合わせていない。

とそこへだれかが自分に近づいてくる足音がきこえた。

ここにつれてきてくれたシスターかな?

「ただいま、ヴェロニカさん」

車椅子の少女は自分の名を呼ぶ懐かしい声のした方向に振り向き笑顔を浮かべる。

「ルイーザちゃんおかえりなさい!心配したよ!怪我とかしてない?旅はどうだったの?」

「わたしは大丈夫ですよ。心配してくれてありがとう」

ルイーザはルームメイトのヴェロニカのそばまでくるとそっとヴェロニカの肩に手を置き、続いて手を握る。

「・・・・・・ヴェロニカさん、お部屋にもどって旅のお話でも聞いていただけませんか?」

「あ、う、うん。ちょうどお部屋にもどりたいなーって思ってたの」

「じゃあちょうどいいタイミングでわたしが来たみたいですね」とやさしい声でルイーザは言った。

「うんうん。いいタイミングだったよ!ルイーザちゃんの旅のおはなしもきいてみたいし」

「ではもどりましょう」

「はーい」

ルイーザはそこまで話すとヴェロニカの車椅子の後ろに回り神学校の宿舎まで車椅子を押していく。

お世話していたシスターは誰ですか?とルイーザは聞きたい気持ちを押し殺していた。

聞かなくても返事はわかっている。今用事ではなれたばかり、とかわすれちゃったと言うに決まっているのだ。

ルイーザはヴェロニカを二人の部屋まで連れて行くと車椅子の後ろからやさしく抱きしめた。

「どうしたのルイーザちゃん?」

そういわれても何も言わずに抱きしめたままヴェロニカの冷え切った体の体温を確かめる。

「なんだか急になつかしくなってしまって・・・ごめんなさいねヴェロニカさん」

「ええー、いいよいいよあやまらなくても!あたしもいやじゃないし」

「よかった。それじゃあもう少しこのままで…」

「うん」

しばらく二人はそのまま佇んでいたがヴェロニカが胸に回されたルイーザの腕に手をふれると、ルイーザはゆっくりと抱きしめていた手を離した。

「じゃあベットに移しましょうね」

「あ、うん」

ルイーザは今度はヴェロニカの前に回りこみヴェロニカをかかえてベットにすわらせると隣の自分のベットに腰を下ろした。

「ありがとうルイーザちゃん」

「お礼は言わないと約束したでしょう。わたしとヴェロニカさんはおともだちなんですからね」

「てへへ、そうだったね、わすれてたよ」

「そうですよ!」とわざとおこったふりをしてルイーザは言った。

「でもね、こころのそこからありがとうって思うとね、うっかりありがとうって言っちゃうんだよ!」

「そうでしたか、それではうっかりしたときだけはお礼を言ってくださいね」

「うん!ありがとうルイーザちゃん」

「あっ、またうっかりしちゃいましたね」

とルイーザが言うと二人は同時に笑い出す。ヴェロニカはルイーザと一緒にいるときだけは素直な自分を出すことができた。

「あはは、じゃあさっそくきかせて!」

「はい」

ルイーザはフォッジアス王立兵学校の小隊と行動を共にしたこと。

そして悪い人と戦ったことを順序良く丁寧に話していく。

村人や騎士団たちが皆殺しにされていたことを除いては、だったが。

「ルイーザちゃんはすごいね!わたしもこんな体じゃなければお手伝いしたかったなー」

それを聞いたルイーザは少しためらう様子で口を開いた。

「…あなたさえよければ一緒に戦えますよ…」

「え、でも…私は目も見えなくて、足もその…」

「…目も見えるようになって足も治ります。…でも…」

「でも?」

「私と永遠を生きて戦ってもらわないといけません。いえ永遠ではないです。正確には私たちの世界で消滅するまでは」

「え?ルイーザちゃんの世界?えーとルイーザちゃんは教会に正式に認められた聖女なんだよね?悪魔と戦う。この世にいる悪魔と戦うって事なの?」

「この世でも天国でもずっと。私の命が尽きるまで、ずっと。共に」

「ずーっと一緒なの?」

「片時も離れません」

ヴェロニカは一瞬考えこむような仕草をしたがすぐに上を向き力強く言った。

「わたしルイーザちゃんとずっと一緒にいる。ううん居たい」

「…いいのですか?契約を交わすともう戻れませんよ。契約を破ると死よりも悪い結末を迎えることになりますよ?それでもいいのですか?」

とルイーザは優しく尋ねるとヴェロニカが少し俯き加減でこたえる。 「うん!…でも、あの、ルイーザちゃんが嫌じゃなければ…だけど…」

そう言われたルイーザはまぶたを閉じ、何も言えなくなる。

「…わたしもずっとヴェロニカさんと居たい、楽しくお話をしたい…と…思います。…ずっと。この世界にあなたほど優しい方は…いないでしょう。…でもわたしと共に来るということはきれいごとだけじゃすまないんです…」

「…………」

よほど言いたくないのか所々途切れがちにしゃべるルイーザとヴェロニカも返答に困ったのか沈黙で答える。

「敵は悪魔だけではなく、時には人を切り殺してその命を絶つことが必要になるかもしれない、それがどれだけ心の負担になるか考えたことはありますか?」

「…………」

「わたしはあなたをすべてから救う事は出来ません。今の現状からは救えますがまた別の、今度は永遠に近い苦しみをあなたに与える事になると思います。なので、わたしは嫌です。」

と、こんどはヴェロニカの目をしっかりと見、断固とした決意でルイーザは言い放った。

それを聞いたヴェロニカは少しの間を置いてルイーザに尋ねる。

「じゃあ、ルイーザちゃんはなんでわたしにこの事話してくれたの?」

そう聞かれるとルイーザはまた言いにくそうに言葉が途切れがちにだが答える。

「わたしはあなたを、救いたい…、心の底から…、優しいあなたをとても放っては置けないんです。でも、世界には本当に優しい場所なんか無くて…わたしの言う天国は、あなたにはきっと地獄で…」

そこまで聞くとヴェロニカは満面の笑顔を浮かべた。

「やっとわかったよ。ルイーザちゃんは選んで欲しいんだよね?その為に話してくれたんだよね?じゃあ答えは決まってるよ!わたしはルイーザちゃんと一緒に行くよ!」

とヴェロニカは本当に力強く言うとルイーザは決心した様子で頷いた。

「わかりました。それでは契約内容を話します」


それは、永遠に戦女神の胸に抱かれ、共にあり、共に戦い、共に消滅するまで続く約束。

彼女達はただ、愛しき魂のみを選び、天界へ運ぶ。

1000年前から幾度も繰り返されてきた営み。であった。

この契約の事を戦女神達は結婚と呼ぶ。


「これが私の手、足…」

ベッドに腰掛けた少女は自分の手と足をまじまじと見つめ、そして向かいのベッドに腰掛ける長い金髪の美しい女性に目を向ける。

「ルイーザ…ちゃん?」

わなわなとヴェロニカが声をかけると金髪の女性は無表情でコクリとうなずいた。

それをみたヴェロニカは今度は足に力をこめると難なく立ち上がることが出来たので窓に向いて歩き出す。

歩きなれてないからかよろよろとしながらも窓までたどり着くと窓を開け、空を見た。

冷たい風が部屋の中を駆け巡り体も冷えていくのを感じるが、ヴェロニカは雲を見て、それから太陽をみた。

「ルイーザちゃん、…あれが雲かな…?もわもわしたの。…太陽って…まぶしいってこういう事なんだ…。空って…すごい、この世界ってすごい!わたし、こんなにすごいところにいたんだ!!」

そう声を掛けられてもなおルイーザは何も返事をせず無表情にただただヴェロニカの背を見つめていた。

「やっぱり窓開けるとさむいね?」

といいながら窓を閉めると今度はよろよろとルイーザの元に歩み寄り、両手を胸の中央に持っていく。

「ありがとう。ルイーザちゃん。私はあなたに救われた。本当にありがとう。それと、お願いだから後悔なんてしないでねルイーザちゃん」

それを聞いたルイーザは急に今にも泣きそうな顔になりながらすくっと立ち上がりその胸にヴェロニカを抱いた。

「ごめんね、ごめんね…ひっく、ふえ、ふえぇぇぇん、ひっく、わあぁぁーーん、」

ルイーザはヴェロニカをぎゅっと抱きしめ泣き声をあげ、涙をぽたぽたと流しながらごめんねを繰り返す。

その泣き声を聞きながらヴェロニカはそっとやさしくこう言った。

「主神に感謝を。ルイーザちゃんに永遠に感謝を…。そんなに泣かないで、わたしはうれしいんだよ?」

ルイーザはそれを聞くとさらに悲しそうな表情をし、しばらく泣き止むことはなかった。





そのころイヴァンたちはてっきり学校に戻れば休暇だとばかり思っていたが全校内の清掃を命じられ腐っていた。

 小隊員はそれぞれ二人づつくじ引きで決まったメンバーと共に、くじ引きで決まった担当範囲を掃除していた。 「まさかこんな仕打ちを受けるとは…。てっきり休みだと思っていたのに…」

とイヴァンは机を動かしながら相方に聞こえるようにつぶやく。

「いいじゃない?行軍演習より安全だし」

クラリーチェがそっけなく返すとイヴァンはさらに語を重ねる。 「まあそうなんだけどなあ、今回の演習であんなことがあったんだから少しくらいなんかあってもいいんじゃないのかなーと、それにあしたからまた普通に訓練だぜ?勘弁してくれって思うよ」

イヴァンは思いっきりしょぼんとへこたれるとクラリーチェは手を止め、腰に手をあてて怒った様子で口を開く。

「イヴァンは騎士なんだからそんな事いわない!誰よりも強くなって皆を守るんでしょ!」

クラリーチェにそういわれるとイヴァンは手を止め少し俯いた後、クラリーチェを見つめ、言った。

「そうだったなクラリーチェ。約束したもんな」

それを聞いたクラリーチェはニコリと表情をやわらげる。

「そうそう、村の皆も期待して待ってるんだから頑張って」

 「ああ、頑張るよ。クラリーチェも助けてくれるしな」

「うんうん。私に出来ることなら何でも手伝うよ」

「ありがとうクラリーチェ」

鼻を掻きながら恥ずかしそうにイヴァンは答えた。

そして二人はほぼ同時に掃除を再開しようかと手を動かそうとした時、ガチャリと教室のドアが開き一人の女生徒がつかつかと入ってきた。

「ベルじゃないか、どうした?何か用事か?」

 部屋に入ってきたのは戦略科2年、ベルティーナ=ヴィスコンテッサ=ダ=フォルテ。

校内でもベスト3に入る成績と剣の腕、そして王国中に鳴り響く美貌と美声を持ち、社会的には子爵位を持つ伯爵家公女で、まさに無双の名声を備えた才女であった。が、イヴァン達のところまで歩み寄ると冷たい双眸でイヴァンを一瞥した後、クラリーチェに向かって言った。

「クラリーチェさん…でしたわね?」

クラリーチェは姿勢を正し、右手を左胸に当て一礼をする。

「はい」

ベルティーナはクラリーチェに返礼すると口を開いた。

「あなたは今から私の代わりに錬金室のほうに行ってくださるかしら?イヴァンは今からわたくしと職員室に行きますので」

「わかりました。じゃあイヴァンまたあとでね」

そういうとクラリーチェはイヴァンに手を振って教室を後にすると、

そのあとにはなぜか冷たい瞳でイヴァンを見つめるベルティーナとイヴァンが残った。

イヴァンは無言で見つめるベルティーナになんと声をかけていいかわからずとりあえず笑顔を向けてみた。

「…」だが効果はなかったようだ。数瞬の間そのままだったがベルティーナはあきれたようにふぅと深くため息をつくと、いつもの雰囲気に戻っていた。

「さ、いきますわよ」

「ああ!」

イヴァンはベルティーナについて教室を後にしたが、やはり先ほどのことがきになったのでやめておけばいいのに尋ねてみた。

「ベル、さっきはどうしたんだ?」

ベルティーナはそれを聞くと立ち止まりこぶしを握り締め目をとじた。がすぐに気を取り直して歩き出す。

「なんでも、ありませんわ…」

「そっか、それならいいんだが、いろいろ大変だったしきつかったら言ってくれ。力になるから」

「そ、そうなんですの?じゃ、じゃあそのうち何かお願いしますわ」

 歩みを止めずベルティーナの背後にいるイヴァンには表情は見えなかったがベルティーナは急におどおどとした口調で答えた。

 「ああ、その時はなんでも言ってくれ」

そのあとしばし無言の時が流れたが職員室までたどり着くにはもう少し時間がかかる。

なんだかいつもと様子の違うベルティーナにいぶかしみながらもまあいいかと黙ってイヴァンはベルティーナの後を付いて行った。

あと少しで職員室というところで急にベルティーナは立ち止まり、くるりとイヴァンに振り返ると胸のところに片手を置き、

うっかり忘れてたとばかりにしゃべりだした。

「そういえばイヴァン、今朝ね、王都にある屋敷から馬が届きましたの。厩舎につないでおいたのであとで見てくださる?」

「え?まさか馬くれるってほんとだったの?」

おどろいたイヴァンはまさかという風で言った。

「あたりまえですわ。わたくしはお約束をやぶったことはありませんの」なぜかぷいっと横を向きながらベルティーナは答えた。

「ありがとう!ありがとうベルティーナ。いやーうち貧乏だからどうしようかとほんとこまっちゃってたんだ。 」

イヴァンはベルティーナの両肩をつかみながらうれしそうに感謝の意を伝えるとそのままの体勢でそのまましゃべり続ける。

「じゃあさ、学校おわったら少し二人で馬を走らせにいかないか?」

ベルティーナは頬をあからめ仕方なさそうな表情をしながら言った。

「し、仕方ありませんわね、ふ、二人でですわよね?」

「ああ!、いやまてよ、ミケーレも誘おうか?競争とかもしたいし」

それを聞いた瞬間ベルティーナはイヴァンの両手をうざったそうに、ぶん!!と払いのけ、くるりときびすを返しすたすたと職員室に入っていく。

「お、おい」

イヴァンは急に機嫌を悪くしたベルティーナに驚き唖然としたが、まあ、いつものことだと頭を切り替えて職員室に入っていった。



オルシュティン教会神学校


フォッジアス兵学校は王都から数キロ離れた丘の上に建てられた使われなくなった石造りの城で、生徒の寮や教室もすべて城内にある。の門を開け、3騎の騎兵が王都に向かって走り出す。

一人はデルネーリ先生で黄地に黒で猫の顔のシルエットというかわいいマントをゆらゆら揺らす偉丈夫で、その後ろにベルティーナとイヴァンが続いていた。

「ためし乗りする手間が省けましたわね」

「すごいなこの馬…」

思わずイヴァンが嘆息とともにつぶやくとベルティーナはふふんと満足げに説明する。

「あたりまえですわよ、その馬はレギオン帝国全体を見ても名馬の範囲に入りますわ。スピードはわたくしの愛馬とそう変わらないけれどパワーとスタミナは比べ物になりませんわ」

イヴァンのもらった馬は黒毛でフォッジアス産の馬と大きさはあまり変わらないが手足が圧倒的に太かった。

過去に見たことのあるレギオン産の馬は一回り小さく力強くはあったがスピードはフォッジアス産に劣っていたようにも思えたが、 この馬は早く力強い。たとえばベルティーナの馬と比べても遜色の無い反応速度と操縦性、まだ試していないが拍車をかけたときどのくらいのスピードが出るのか想像も出来ない。

「元々お父様がレギオン帝国に出向いたときに皇帝から直々に下賜された馬なんだからちょっとすごいですわよ?」

「ぶはっ」 それを聞いたイヴァンは思わず噴出した。

「な、な、ま、マジで?」

「こんなことでうそついてどうしますの?」

とそっけなく答えるベルティーナ。

「う、う~ん。フォルテ伯はご存知なんだよね?」

「知りませんわよ。だって、お父上は領地にいるんですもの」

「ちょっと!こ、これ返して来い!」

イヴァンは急いで対処しなければお家の危機とばかりに馬の背を軽くたたきながら懇願すると、ベルティーナはあきれたような表情で答えた。

「王都のお屋敷はわたくしが管理していますので問題ありませんわ。第一、その馬誰も乗れませんでしたもの」

「え…」

「わが伯爵家でもっとも乗馬が得意なものを集めて試したのですが誰一人その背に跨るのさえ不可能で、父上も処分するわけにもいかず困っておりましたの。だからイヴァンで試してみようかな~と思ったら普通に乗れたのでわたくし、今びっくりしておりましたの」

イヴァンは話の後半から唖然とした表情で聞いていたがふとあることに気づいて眉をしかめた。

「おまえ…そんな危険な馬を俺に乗せたっていうの?」

わなわなと肩をふるわせながらベルティーナに馬を寄せる。

「いいじゃありませんの。乗れたんだし。イヴァン卿はさすがですわね」

ニコッとフォッジアス最高の笑顔を向けられイヴァンは流石に顔を赤らめたがベルティーナはすぐ普段の表情に戻り、

ひとつ忠告しておきますと前置きした上で言った。

「ただ、拍車を掛けるとどうなるかはわかりませんわよ?もともとすんごい暴れ馬ですので」

それだけ言うと本当に楽しそうにベルティーナはアハハと笑う。

本当にベルティーナは俺をいじるのが楽しいんだなーとイヴァンは少ししょんぼりし、暗い表情で馬のたてがみをなでる。

「あ、そういえば名前、この馬の名前はなんて言うんだ?」

「フリューゲルですわ」

「フリューゲル…そっかフリューゲル…」

そういって馬のたてがみをやさしくなでるイヴァンに今度はやわらかい表情と顔でベルティーナは尋ねた。

「イヴァン、彼は愛馬を無くした悲しみを癒してくれそうかしら?」

そう言われるとイヴァンは少し考え込むしぐさをしたがすぐに明るい顔をしてベルティーナに告げる。

「ああ!きっと」

それを聞いたベルティーナはニコリとうなづくとその時を見計らったようにデルネーリは後ろを振り返る。

「お前ら任務中だということを忘れるなよ?教師の前でいちゃつくんじゃない!」

と今にも拳骨が飛んできそうな顔で叱り飛ばすとイヴァン達は思いっきり否定した。

「な、なにを言ってますの?わ、わたくしはイヴァンをからかっていただけですわ!いちゃつくなんて、か、勘違いも甚だしいですわ先生!」

「先生、俺とベルがいちゃつくとか絶対ありえませんから。これはもう断言できる」

そういった瞬間ベルティーナが怒ったときにする恐ろしい顔でイヴァンをにらみつけ、思わずイヴァンはひい!と声を出した。 その二人の様子を見ていたデルネーリはフッと鼻で笑い頭を掻きながら言った。

「まあいい、さて向かった先でどの位時間を使うかわからんから急ぐぞ。付いてこいよ、遅れたら訓練倍の刑な」

「わかりましたわ」

「…」

そう言ってデルネーリとベルティーナは馬速を上げていきだんだん小さくなっていく。

そしてイヴァンは思った。

「ちょっとまって…」と

イヴァンはさっきの話を聞いて絶対に拍車が馬体に触れないように内股気味で乗っていたのだがこのままだと 訓練倍の刑で死んでしまうので、おそるおそる踵の突起を優しく馬体に触れさせた。

するととてつもない加速力を発揮しみるみるベルティーナ達が近づいてくる。

「ちょ、これ、すげえっ!」

いままで見たことも無いスピードでベルティーナの隣にならぶと流石にベルティーナは驚いた顔でイヴァンとフリューゲルを眺め見る。

「ベルティーナ!ありがとう!」

そうイヴァンが声を掛けるとベルティーナは少しあっけにとられていたが気をとりなおして答えた。

「どういたしまして。ですわ」

悪い冗談のつもりでイヴァン置いてけぼり作戦を行なったデルネーリも、あまりの速さに驚いていたがあえて何も言わず ただ少し残念そうな顔をしたのみだった。



イヴァン達三人は王都の外にある厩舎に馬を預け、城門をくぐった。

目指すはフォッジアス大聖堂の付属施設、オルシュティン教会神学校女子部である。

街の中心の広場に面したところに大聖堂はあった。元々は小さな教会だったのだが少しづつ改修を重ね現在は大聖堂の名を辱めないほどの威容と景観を備えていた。

デルネーリはイヴァンとベルティーナをつれて大聖堂の門を素通りし、さらにわき道に入ったところにある別の門に向う。 そこにはオルシュティン教会神学校と書かれた看板が目立つように掲げられ、門の奥にはレンガ造りの建物がいくつも立ち並び、学生と思われる若者が散見できた。

「ここか…」

デルネーリは門の前であごをなでながらひとりごちる。

「先生。ここって女子部じゃないですよね?」とイヴァン。

たしかに見える範囲には若い男か男の子しか見当たらない。

「ああ、女子部はこの奥にあるんだそうだ」

「へえー」

「とりあえずいくぞ」

そう言ってデルネーリは敷地内に足を踏み入れズンズン進んでいく。

すると横合いからお待ちください!と呼び止められイヴァンら三人はそちらの方を確認すると 若い助祭らしき若者か息を切らして立っていた。

「はあはあ、騎士殿、ここは関係者以外立ち入り禁止でございます。なにか御用があれば聖堂のほうへご案内します」

「俺たちは教会神学校に用があって尋ねてきたんだ。学校の責任者に会わせろ」

「でしたらフォッジアス大司教猊下にお許しを得て頂きたい。とにかくこちらは部外者は立ち入り禁止なのです」

それを聞いたデルネーリはあごをひとなでしてから言った。

「われわれは女王陛下の命で来たのだ。何か文句があれば女王陛下に言うんだな」

そこまで言うとデルネーリは後ろの二人に向って、いくぞと声をかけると、またズンズンと建物に向って進んでいく。 若い助祭はそれを見守っていたがすぐに大聖堂の方へ向って走り去っていった。

周りの学生達は最初珍しい客人に奇異の視線を送っていたがいつの間にかその視線はベルティーナに集約していった。

「な、なんかわたくし注目されてますわね…」

「…」

「…」

注目されるうつむくベルティーナをよそ目に建物の入り口にたどり着くと 扉が自動的に開いた。そこには穏やかな顔の初老の司祭が静かに立っている。

「私はここの責任者のミローネです」

そう言って右手を胸の中央で握るオルシュティン教式の神に祈る時の礼をする。

「俺は女王陛下直属の騎士デルネーリだ。話がある」

「それでは奥でお話しましょう」 とミローネはデルネーリ達を建物内に招き入れた。

 応接室らしき部屋に案内されると三人はソファーを進められデルネーリ、ベルティーナ、イヴァンの順で座っていき、 三人が座るのを見届けてミローネが向かいに腰掛けた。

「さて、ご用件をうかがいましょうかな?」

デルネーリはそれに頷くと口火をきった。

「先日起こったルパート村襲撃事件はご存知ですな?」

それを聞いたミローネは本当に心を痛めているといった表情で言った。

「はい。本当に残酷なお話です。何より被害者はみな敬虔なオルシュティン教徒であり生存者はいなかったとか…」 デルネーリは頷きさらに語を進める。

「その襲撃者と最後に戦ったのがいまここにいる二人です。残念なことに首謀者らしき男は逃がしてしまいましたが」

「なんと…」

「そしてその時彼らに助力してくれた女性がいましてね。それがここの女生徒らしいじゃありませんか」

「ふぅ、…なるほどお話はわかりました。ルイーザがそう言った、ということですね?」

あきらめた風でミローネがため息をついた。

「話が早くて助かります。彼女についてその素性もあらかた予想はついてます。その敵も目的もね」

「そうでしょう。元々お教えしたのは我々でしたしね」

「そして今日は彼女に協力をお願いしに伺ったんですよ。この二人には一応本人確認のためついてきてもらったんです」

「なるほど、そういうことでしたか。お話はわかりました」

「で、彼女と話をさせていただけますか?」

デルネーリがそういうとミローネはひざの前で手を組み言いにくそうに話し始める。

「残念ながら、もうここにはおりません。彼女は契約者をみつけ旅立って行きました。だってそうでしょう?ここはもっとも戦事とはかけ離れた場所。元々彼女たちの目的は我等人類を助ける事ではないのですから。悪い言い方をすればついでに助けているだけの事。我々は彼女らを手助けし、ついでに助けてもらえるよう支える為の組織で、それはフォッジアスの王権者を指導者と認めてもなんら変わりません。なので路銀をたっぷりと渡した上で送り出しました」

「あいた~、間に合わなかったか…」

デルネーリは相手の事をまったく疑わず相手の話を鵜呑みにしたような反応をしたが、それもそのはずオルシュティン教徒にとって嘘は絶対の禁忌であり、話した事は全て完全なる真実。仮に話したくない事があれば彼らは黙して語らない。 それを前提に話しているからだ。

ちょうどそのときドアが開き豪華な衣装をまとった白髪の老人が入ってきた。

「残念だったなデルネーリよ」

デルネーリはそう言われると立ち上がり軍の礼を返す。

「お久しぶりです大司教猊下」

大司教は楽にしろと手で合図するとデルネーリはまたソファーに腰をおろす。

大司教はゆっくりと時間をかけ、ミローネの隣に腰をおろした。

「まあそういうわけじゃ」

「はあ、帰ったら怒られるな、校長に…」

「ブルーメのやつじゃな?帰って伝えろ。どうせ彼女を連れて帰れたとしてもお前なんかとは契約させてもらえんから安心しろとな」

「そんな事いったら私は大変な目に合わされてしまいますよ…」

「その時はわしの所にこい、面倒見てやるぞ?」

デルネーリは大司教の言葉に苦笑を浮かべながら答えた。

「考えておきます」と。

そのあとデルネーリ達は大司教と軽く雑談を交わしたあと部屋を後にした。

建物を出ると先ほどとは比べ物にならないほどのベルティーナを見に来た男子学生が集まり大混雑であったが、 「うざってえ」といらいらしてきた様子のベルティーナににらみつけられると自然と道が開きすんなりと門外に出る事が出来た。

敷地から少し離れた所でイヴァンはベルティーナに声をかけた。

「やっぱすごいなベルティーナは…」 とイヴァンは感嘆した様子でベルティーナに言うと

「わたくしは見世物じゃないっつうのよ!失礼っつったらないわね!」といらいらした戦闘用の口調で答える。

「…」

イヴァンはいまは触らぬ神に祟りなしと相槌をうつのもこらえ、違う話題をデルネーリに振った。

「しかし大司教猊下ってすごい気さくな方ですね」

「あ、ああ、あの人は昔っからあんなだぞ。だがまあ、本当にいい人だな」

「大司教猊下は校長と仲がいいんですか?」

「仲悪いんじゃないか?普通に」

「え?あ、あんな事言ってたからてっきり親しいのかと思ってました」

「昔、俺も同じ質問を校長にしたんだが、やっぱりそのまま仲悪いって言って文句言ってたしな」

「へえ~」

そこまで話した所で広場にたどり着くとデルネーリ先生がイヴァンとベルティーナを並ばせ話しかけた。

「今日の事は誰にも話すなよ?話が漏れたら身分に関係なく首が飛ぶと思ってくれていい」

「ゲッ、首…、マジでですか?」

イヴァンが驚いたように言うとデルネーリは無表情で頷く。

「冗談抜きだ」

「どこからどこまでの話がだめなんですの?」

とベルティーナが尋ねる。

「学校の職員室から今までだ」

「わかりましたわ」

「俺もわかりました」

「うむ、よろしい。では俺は王城に用事があるからおまえらはこのまま帰れ。もう掃除も終わってる頃だろうから門限までに戻ればいい。では解散。帰りは気をつけて帰れ」

そこまで言うとデルネーリはきびすを返して王城の方へ向って立ち去って行った。

イヴァンとベルティーナはデルネーリの後姿を見送ると顔を見合わせる。

「じゃあ帰るか」

「そうね」

とイヴァンらは正門のほうへと歩いていく。

広場に面したあたりは露天商や商店が軒を連ねており、ちらりとイヴァンがある露天に目を向けると女性用の薔薇の髪飾りが目に付いた。自分の紋章がド派手な薔薇であるためついつい薔薇の形のものを見るとふらふらと寄っていってしまう癖があったのだ。

そのためイヴァンの意識がはっきりしたときにはすでに露天の前でその髪飾りを手に取ってしまっていた。

「いらっしゃい騎士殿。彼女にプレゼントですか?」

「あ、いや…そういうわけでは…」

といいつつ細部まで目を凝らすとなかなか手の込んだ一品で純銀製…かどうかは判りかねたがデザインもよく、なかなかの業物であるのは間違いなかった。

ちょうどその時「どうしたの?」とベルティーナが後ろから声をかけてきてとことこと駆け寄ってくる足音が聞こえる。

「おいちゃん、これいくらすんの?」

デナル銀貨5枚でいいですよ。

「高っ!」と抜群の反応速度で驚くイヴァン。

それに対して店主が

「その髪飾りの飾りの部分は高純度な銀で作ってまして、どうしてもそれくらいの値段にになっちまうんですよ。へへっ」

と愛想笑いを浮かべながら店主は言った。

なかなかこれはいいものだ…自分は装備できないけど…。しかし友達にこんなもの持ってるところ見られたらなんて言われるかわからんな…あ!そうだ!クラリーチェ付けて貰うか!そしたら何気なくいつも見られるぞ!その薔薇の髪飾りを…と自分に言い訳するように考えたイヴァンはポケットから銀貨5枚を取り出し店主に渡す。

「まいどあり!!ってよく見たら騎士殿の彼女さん美人度すげえ!!」

と隣にいたベルティーナに気づいた店主は驚き、腰を抜かさんばかりに驚いた。

当の驚かれたベルティーナもビクリとするがちょいちょいと手を振り

「わたしよわたし、フォルテの…」

「あ、ああ!これはこれはフォルテのお嬢様でしたか。これは失礼いたしました。いつもと様子が違うので気がつきませんで、へへ」

「いつもはこんなカッコなんてしてませんものね。しょうがありませんわ」

と斧の紋章の入ったマントを手でひらひらと動かしてみせる。

「でも何を着てもお似合いで」

「ありがと、また何かいいものが手に入ったらお屋敷にでもよってくださいな」

「ええ、そのときは是非ごひいきに。あ、と、騎士様お待たせしました。えーと商品はお持ちですよね?どもまいどありぃ。イヒヒ、がんばってくださいね。ではまたごひいきに~」

イヒヒと嫌らしい笑い声で挨拶され、苦笑とともにイヴァンは店舗を後にするとベルティーナは店主に軽く手を振りながらすぐにイヴァンの隣に並ぶ。イヴァンは何か否定しなければいけない事を店主に言われた気がしたが、もう会う事も無いだろうと特に気にする事はなかった。

「ベルティーナあの親父と面識あったんだな?」

「ええまあ、だって王都のお屋敷はこの近くですのでよく露天はのぞいてましたの」

「へ~えそっかあ」

と何気ない話をしてたのだが、ベルティーナはイヴァンの持つ髪飾りが気になってしょうがない様子でそわそわしている。

「あ、あのさ、イヴァンって薔薇、好きなの?」

と意を決してベルティーナが切り出す。

「あ、う~ん、昔はなんてこと無かったんだけど最近は自分の紋章が薔薇だしなんとなく気になる感じ?かな?」 「そ、そう、紋章と同じだからなの…。わ、わたくしも好きかなーって思いますわ、薔薇って素敵ですわよねー」 「う、うん、そう?」といつもと様子の違うベルティーナにいぶかしみながらイヴァンは答え、手の中にある髪飾りを見つめるているとベルティーナもじっとイヴァンを見ている事に気がついた。

「ちょ、なんだよ。どうしたんだベル。早く帰ろうぜ」

そうイヴァンが言うと今まで機嫌のよさそうだったベルティーナの様子ががらりと変わった。

「な、なんでもありませんわ!あなたなんかに言われるまでも無くさっさと帰りますわよ!」

と言うが早いが今度はすごい勢いで歩き出す。

「お、おい」

イヴァンが呼んでもスピードを落とすことなく声なんか聞こえてないように振舞うベルティーナ。

「……おまえ、もしかしてこれ、欲しいのか?」

ぽつりとイヴァンがつぶやくように言うとピタリとベルティーナは立ち止まりクルリと振り返る。

「そ、そんな物、ほ、ほしいわけないでしょう!?こ、このわたくしが!?」

と、しどろもどろに答えるベルティーナを見て、しょうがないなとひとこと言ったあとに、イヴァンはベルティーナの手をとり、その手のひらに髪飾りを載せる。

「これ、やるよ。いつも世話になってるし今日も馬くれたしな。いつもありがとう、ベル」

「イヴァン…」

ベルティーナはもらった薔薇の髪飾りを両手で大事そうに持ち、それをじっと見つめ頬を赤らめた。 そのやり取りの後、また何事も無かったように二人は並んで歩き始め、数秒たった時事件は起こった。

「たく、欲しいなら欲しいと早く言えばいいのに」とイヴァンはまた言わなくてもいい一言を言ってしまったのだ。 ベルティーナはその言葉にピクリと反応し、歩みを止めてすこし低い声音で恐ろしい事実を告げた。

 「自分の紋章の付いた髪飾りを送るなんて、どこの誰がどんな見方をしても」そこまで言うと一旦ベルティーナは言葉を切った。

「ん?なんだ?」といぶかるイヴァン。

「きゅ、求婚以外には見えようがありませんわよね!!」

「な、なにーーーーーーーーーー!!」

とイヴァンは道端で大声で叫んでしまうと、通りを歩いていた人々から変な目でみられ、こそこそと噂話をされているがもはやどうでもいいことであった。

イヴァンはわなわなとベルティーナに左手を差し出し、そして告げた。

「それ返せ」と。そして一歩ベルティーナに歩み寄る。

それをみたベルティーナは止まれとばかりに右手を突き出し、そして告げる。

「それ以上近づかないで!近づくと皆に言いふらすわよ。イヴァンがわたくしに求婚したって!!」

イヴァンはその時すべて悟り、その場にガクリとひざをついた。

すべては策略だったのだ、イヴァンに対する決定的な弱みを握るための…。

宝飾品の露天で薔薇の髪飾りを見ていたときから考えられ、組立て、実行したほんの一瞬の隙を突く巧妙な作戦。

「アハハハハハハ、ありがとうイヴァン。これ大事にしますわね。アハハハハ」

と、とてつもなく悪そうな笑い声でひざを落としたイヴァンに笑いかけるベルティーナ。 終わった…、何もかも…、とイヴァンは体の力が抜けていくのを感じたが、もう一度だけ最後の力を振り絞り立ち上がった。

「違うぞベル!それは薔薇だ。ただの薔薇の髪飾りだ!!」

それを聞いたベルティーナは悪そうな笑いを収め、瞬時に豹変し冷めた瞳と表情ででイヴァンを見つめながら言った。

「あなたの紋章は何?」

それを聞かれたイヴァンはがっくりと肩を落とす。

「ば、ばら…?」

「ほら、わたくしの言った事とどこが違うの?髪飾りもイヴァンの紋章も薔薇でしょう?」

「…はい」

「さあさ、帰りますわよ!」とにこやかに告げるとベルティーナは力の抜けたイヴァンの腕をつかみ城門の方へうきうきと歩いていく。

そしてそれを離れた場所から見つめる二人の男がいた。一人はあごひげを生やした目付きの悪い長身の男。もう一人はフードを深く被った小柄の男。

 「ほお、あのガキどもここらのやつらだったのか…」

「ルパート村の?」

「あたりだ、ってか話したばかりだったな。」

「やるか?」

「いや、まずは本命のお嬢ちゃんが先だ」

「ふん」

「俺はまず好物から食う主義なんでね」

「ふむ、まあいいだろう」

長身の男はそこまで話すとこちらを見ていないイヴァンに優雅に会釈した。 「近いうちにまた会おうぜ、くそガキども」



リーパ襲来


昨日いやな目にあったイヴァンはなかなか寝付けなかった為、今朝はいつもよりも少し遅い目覚めだった。

現役騎士や戦略科は個室があてがわれる為、誰かが起こしてくれるわけでもなくごそごそと起き出して顔を洗う。

残念ながら朝食をとりに食堂に行くと遅刻確定のため、そのまま制服に着替えて部屋を出る。

男子寮は2F女子寮は3F学校施設は1Fに配置されているので中央階段に向って歩いていき、階段にたどり着くとちょうど3Fから降りてきた人物と鉢合わせた。

その人物はジュリアマリア=ダ=ベネディクティス、通称ベネ先生で戦略と戦術の教師で女親衛隊騎士だ。

宮廷序列で言えば騎士であるイヴァンの一つ上の序列になる。黒髪を後ろで束ね、めがねが特徴的な先生である。

「あ、おはようございます。」

とイヴァンがあいさつするとベネ先生が鋭い視線を投げかけてくる。

「おはよう。今日は遅いな?」

「昨日ちょっといろいろありまして、よく寝付けなかったというか…」

それを聞くとベネ先生は頷いて 「ふむ、奇遇だな?わたしもだ。」

「?…ベネディクティス先生も何かあったんですか?」

と、イヴァンが何気なく聞こうとしたが、ベネ先生は軽く手を振って

「まあ今の所は気にしなくてよい。」

とそっけなく返事を返し、そのあと何か思いついたような顔でさらに語を重ねた。

「でもちょうどよかったな」

「はい?」

「今日、校長含め私以外の教師は王都に行っているので今日は教室で自習だ。ラッキーだったな、教室に行ったら他の者にも伝えておいてくれ」

「おおーっ、了解しました!」

そこまで話を聞くとイヴァンは敬礼をし、足取り軽く階段を駆け下りていく。

ベネ先生はそれを見送るとメガネの位置を直しながらつぶやいた。

「自習で終わっちゃえばいいんだけどね~。」



戦略科と騎士科は学年で同じ教室を使う。午後の科目がほんの少し違うだけでほとんど同じ事を学習するためだ。

イヴァンが「おはよう!」の掛け声で教室に入るとミケーレとベルティーナがすでにいた。

というか今のところ騎士科と戦略科をあわせても3人しか居ない。

行軍演習は全校生徒を10個小隊と1個の騎士隊、1個の司令部に分けて行なっており、騎士科や戦略科、戦術科はそのほとんどが司令部付きか騎士隊に所属するので、一個小隊に所属する騎士はミケーレとイヴァン、戦略科は隊長としてベルティーナがいるのみ。といった事情で一番先に学校に帰り着いたイヴァン達は教室をゆったりと使えるのだ。補足すれば医学科はほとんど、薬学科もほぼ半分が司令部付きなので両兵科もゆったりと教室を使っている事だろう。現に医学科のヴェネリオは現在、教室に一人で孤独に過ごしている。

「おっす」

「おはようイヴァン」

「今日朝飯食いにこなかったな?」

「ああ、ちょっと寝坊しちまったよ。」

「めずらしいな?」

「まあ、たまにはな」

とそこまで話した所でベルティーナの方を確認すると、その頭上にはやはり薔薇の髪飾りを装備していた。

まずい、危険、デンジャーなど様々な単語がイヴァンの頭をよぎる。当のベルティーナの方はというと、どこ吹く風と涼しい顔でイヴァンのほうを見ていた。

そこでイヴァンは気にしすぎるのもよくないと思い直し、先ほどベネ先生に頼まれた伝言を伝える。

「今日は最高の日かもな」とミケーレが言い。

「最低の日かもしれませんわよ」とベルティーナが言った。

それを聞いたイヴァンは思わず、はぁ、とため息を一つく。

だが、イヴァンの予想に反して何事もおこらず昼食の時間となり、 イヴァン達3人は食堂に行くと昼食を受け取り窓のそばに陣取った。

なにげない会話をしているとジウベルト君とオフェーリアちゃんがやってきて

「先輩方、食事をご一緒してもいいですか?僕達戦術科、二人だけしか居なくて…」

とジウベルト君が声をかけて来た。オフェーリアちゃんはジウベルト君の後ろでもじもじと何かいいたそうにしている。

「ええどうぞ。一緒に食べた方が食事もおいしいですからね」

とベルティーナが二人に席を勧めると、二人はうれしそうに席に着いた。

その五人で会話を楽しんでいると、もじもじしているオフェーリアちゃんに気づいたベルティーナが優しく声をかけた。

「オフェーリアちゃんどうしたの?」

「あ、あのっ、今日、せ、先輩、とても綺麗です!そのっ、いつもきれいなんですけどっ」

そこまでいうとベルティーナはオフェーリアが落ち着くようにと背中に手を置きとんとんと優しく叩く。

「落ち着いてオフェーリアちゃん。誰も怒らないからゆっくり深呼吸して。」

何回か深呼吸した後完全に呼吸を整えたオフェーリアがベルティーナにお礼を言うと

「先輩の髪飾り、すごく似合っててきれいです!」と目を輝かせながら言った。

その時のイヴァンはというと、内心ひやひやしながらもなんとか感心のない風を装うことに成功していた。

「ありがとオフェーリアちゃん。ふふん~いいでしょこれ」

「はい!髪飾りすごく細かく作りこまれてて!!銀の薔薇と先輩のきれいな赤髪にすごく似合ってて素敵です~」

「俺も今日は結構凝った髪飾りしてるなーって思ってたんだよ。」

とイヴァンの隣のミケーレも話題に加わると、ベルティーナはすかさず腕を組み

「ミケーレさんの言葉はなんだか適当っぽくて信じられませんわ」

ふん、とばかりにそっけなく答える。

「ほんとだってベルティーナ~」

しゅんとなるミケーレを見てアハハとみんなで笑う中、イヴァンは引きつった笑みを浮かべ冷や汗を流していた。

一年坊がやってくれたなと思いながらも、とりあえず核心部分からはまだまだ十分距離があるので様子を見る事にした。

そのときジウベルト君がふむふむと何度か頷いて控えめに手を上げた。

「ジウベルトどうしたんだ」とすかさずミケーレが聞くと、ジウベルト君は何か思いついた様子で話し始めた。

「あまり聞いてはいけないことかなと思ったんですが…」と前置きして

「ベルティーナ先輩の髪飾り、薔薇ですよね?イヴァン先輩の紋章は薔薇なんですけど何か関係があるんですか?」

といきなり推理力全開で、さらになんとなく聞きにくい事シールドをも突き破って容赦なく疑問を議題に乗せたのだった。

まだ核心部分から距離があると思い込んでいたイヴァンは、思わずぶっ倒れそうになったものの何とか踏みとどまる事に成功した。

だが、もはや戦闘力は無い。そしてみんながベルティーナの方に視線を向けると、いつもベルティーナが誰かに嫌がらせをするときに見せる笑顔がそこにあった。

今、イヴァンが何か行動を起こすと、その行動すべてがマイナスのベクトルを持ってしまい、ベルティーナがそれにわずかな力を加えるとさらに級数的にマイナスされ、”すごいベルティーナ信者”というレッテルを貼られてしまう事になりかねない。

かといって何もしなくてもベルティーナの言葉一つで”普通のベルティーナ信者”扱いをされてしまうという絶体絶命の状況であった。

イヴァンが目をおどらせ、挙動不審になっている様子を見ていたベルティーナはやれやれと頭を振り

「わたしの紋章が斧なのは皆さんご存知ですわよね」と皆を見回すとイヴァン以外は頷いた。

「ですけど、今、斧を持っている方、兵士かもしれませんし、木こりの方かもしれませんが、その方々とはわたくし、なんの関係もございませんわ…。つまり、そういう事ですわジウベルト君」

非の打ち所の無い優雅な物言いで皆は納得したようだった。

「まあ、そりゃそうだよな、デルネーリ先生も猫の紋章だけど猫達と関係ないもんな、可愛いすぎて笑えるけど」

納得したようだがついでに本人に聞かれたら決闘ものの問題発言をするミケーレ。猫にしか見えないが真実はライオンである。

「論理がごういんですよ~ジウベルトさんってば~」

「すみません僕、変な勘違いをしてしまって」

そういうとジウベルト君は素直に頭を下げると ベルティーナはとてつもなく嬉しそうな笑顔をイヴァンに向けて問いかけた。

「別に謝らなくてもよろしくてよ、ね、イヴァン」

そこでようやく自分が助かったのだと認識できたイヴァンは気を取り直すと、

「あ、ああ!許す!!」と短く答えた。

「ありがとうございますイヴァン先輩」 ジウベルト君もにこやかに礼を言う。

それをみたイヴァンは得意げに腕を組みさらに口を開く。

「大体なあ、俺の紋章は薔薇だけど今薔薇を売ってる花売りの少女とはなんの関係も無いんだ!つまり、そういうことだ!」

と得意げに言うとすかさずミケーレが突っ込みを入れる。

「思いっきり言ってる事がベルティーナのパクリじゃねーか!!」

「あー、ほんとだ、自分では考えて言ったつもりなのに思いっきりパクってたわ」

爆笑が起こった。いつも楽しげな事の中心にいるのはイヴァンだった。

食堂に居る他の兵科の面々も、親しい者はなになにどうしたのとイヴァン達のテーブルに集まっていき、また笑いが起きる。

その時、食堂の扉が開きつかつかとチェインメイルに白地に黒で熊を染め抜いた軍衣を身に着けたベネディクティスが入ってきた。

食堂に居る生徒は皆何事かとベネディクティスに注目する。

「昼休み終了後に全員戦闘装備で城門前広場に集合!ここに居ないものにも伝えろ!あとはベルティーナ、お前に任せる。以上だ」

と男らしい口調でベネ先生がメガネの位置を直しながら告げるとすぐに部屋から立ち去った。

それを聞いた食堂にいる生徒達は何事かとざわついており、それはイヴァン達も例外ではなかった。

ベルティーナはイヴァンと目を見合わせるとすぐに立ち上がった。

「みんな聞いて頂戴!各兵科はすぐにここに居ない連中を確認して」

ベルティーナはそこまで言うとしばらく時間を置き、ざわめきが収まると大きくよく通る声で言った。

「医学科及び薬学科報告して!」

少し離れた席でヴェネリオが立ち上がる。

「医学科、薬学科共に全員そろってます」

「おーけー、次っ、工兵科!」

「一名いません!!」

「では5名はいるわけね、あなたが責任者となってすぐ探しにいって伝えて頂戴!どうしても居なかったら…わたくしに連絡して指示を仰ぐように!」

「はいっ!」

そう返事するやいなや工兵科5名は食堂から出て行く。

「歩兵科報告!」

「12名居ません」

「わかった。33人で手分けして伝えて!責任者はあなた。了解?」

「はっ!」

歩兵科は人数が多い分学年単位で手分けするようで少しの間打ち合わせをした後ぞろぞろと食堂を出て行く。

それを見届けたベルティーナは残ったイヴァン達と医学科、薬学科を見回して言った。

「じゃあ皆、後で会いましょう」

残った生徒はそれにうなずくと食器を片付け解散した。


昼休みが終わる前までには一人も欠けることなく全員が戦闘装備を整えて城門前に整列していた。

生徒達は多少不安な面持ちをして、近くの仲間と話し込んでおり、それはイヴァン達も同様であった。

「おいイヴァン。これから一体何するんだろうな。なんか知ってるか?」

とイヴァンの隣にいるミケーレが尋ねると、イヴァンはもちろん何も知らないので首を振った。

「いや、わからないな…。でも戦闘装備で、」とそこ一旦言葉を切り、用意された荷馬車を指差す。

「食料とその他装備持参って事はだ…甘い事は考えない方が身のためだろうな。」

「だよなー…」

そう言ってミケーレはひどく落ち込んだように肩を落とすと、 ちょうど昼休み終了の鐘が学校中に響き渡った。

それから小隊員達は私語もなく、整然と姿勢を正して天命を待った。

一、二分程するとベネディクティス先生が校舎から現れ、イヴァン達の前に立った。

「敬礼っ!」とベルティーナがよく通る気合のこもった声で掛け声を掛けると、 ベルティーナ以下60名は同時に敬礼をし、ベネディクティス先生が返礼する。

その数瞬あとにベルティーナがりりしく「直れっ!!」の合図でザッ!と、生徒達が同時に胸に当てた手を下ろし直立不動の姿勢をとった。

そしてベネディクティス先生は小隊員を見回した後「休め!」と声を掛けると生徒は一斉に肩幅程に足を開き腕を後ろに組んだ。

これが兵学校の軍事教練開始時の一連の動作である。

ちなみに通常の学科授業の場合は「起立」「気をつけ」「礼」「着席」である。

小隊員達は先生の言葉を待ったが一向にしゃべる気配が無く、口を真一文字に引き結んで目を閉じていた。

生徒達は一様に緊張し、言葉を待つ。

20秒程待った頃、ベネディクティスはメガネの位置を直すと意を決したように告げた。

「昨夜、王都のオルシュティン教会が十数名の賊によって襲撃され、司祭を含む聖職者と学生あわせて42名。それと聖堂守備の兵士10名の計52名が死亡。その後、城門守備隊と城内の守備兵約50名が戦闘を行い、その結果45名が死亡、まんまと賊に逃亡される前代未聞の大事件が起こった。」

ベネディクティスはそこまで言うと全員の様子を確認する。

みなこれから何をするかの予想がついた表情、つまりいくさにかりだされる若者の顔をしていた。

世間一般の若者と比べればはるかに戦に対する心構えが出来ているとはいえ、やはり緊張するものだ。

ましておそらく敵であろう者達の武勇伝を聞いた後ではなおさらであった。

「この事件を引き起こした賊が他国に逃げる前に、わが国の威信を賭けてこれを討伐しなければならない。わが王国はすでに王都周辺地域に動員令をだして3千人規模の部隊編成に取り掛かかり、賊の捜索および討伐準備をはじめている。くにざかいは隣国を刺激しないよう動員令こそ出してはいないが元々兵数は十分なので国境封鎖は問題は無い。そこで我々は港町ヴァローニュへ向かいフォッジアス王国海軍と協力し港湾警備任務に就く事になった。私以外の教師が今日出払っているのは王都で会議に出席していたからなのだが、先ほど連絡があり兵学校全部隊を呼び戻しに行った。合流地点はヴァローニュ。合流後も警備という任務上、大隊編成は行なわず司令部隊一個、騎士隊一個、小隊十個の混成小隊編成で任務に就き、教師は全員が司令部任務につく事になるだろう。ここまでで何か質問のあるものはいるか?」

そこでベルティーナが挙手する。

「言って見ろ。」とベネディクティス先生が発言をうながす。

「もし合流地点にたどり着く前に、賊と出会ったり賊の痕跡を見つけたらどうすればよろしいんですの?」

ベネディクティスは目を細め厳しい表情で答えた。

「賊の痕跡を見つけても合流が最優先だ。捜索などしなくていい。賊と出会ったなら撤退する。撤退時はわたしと騎士科がしんがりに付く。何が起ころうとヴァローニュに無事にたどり着くのが最優先事項だ。」

「わかりましたわ。」

問題発言を聞いた騎士科のイヴァンとミケーレは賊と会いませんようにと心の底から神に祈った。

と同時に、賊の捜索任務だとばかり思い込んでいたイヴァンは胸をなでおろした。これは他の小隊員達も同様で全員が一様に安堵した表情を浮かべている。

「さて、他に質問のある者は?いないなら出発する。」

ベネディクティス先生はそう言ってしばらく待ってからベルティーナに声をかけた。

「出発する。」

それを聞いたベルティーナは右腕を上げ「出発!」の号令とともに腕を前に振り下ろす。

目指すは港町ヴァローニュへ、フォッジアス王立兵学校混成第4小隊はゆっくりと進み始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。