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JOY  作者: co
第14章・曇り空の虹
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「浅井さん、もうちょっと下に来てよ」

「なんで?」

「キスしたい」

「嫌」

「なんでさ!」

 大沢が笑い出す。


「まぁいいけど」

「あ、そうだ!助けてくれてありがとう!私まだお礼言ってなかったよね?」

「んん、いいんだ。お礼なんかいらない」

「そんなわけ、」

「あのさ」

 大沢が笑ったまま浅井を見上げた。

「もう先輩の話、しないって言ってたけど、ちょっといい?」


 浅井も笑ってはいたが、複雑な感情を一瞬抱いた。

 浅井にとっても二人にとっても、先輩の存在と先輩の事故は重い。

 大沢の口から出る「先輩」という言葉が、浅井の中で鉛のように重い。

 先輩を鉛にしてしまう自分も嫌だと浅井は目を伏せる。


「俺さっき田村にね、変わったなって言われたんだよ。よくわかんないけどもし変わったとしたらさ、浅井さんの話聞いたからで、」

 浅井が少し目を上げる。

「浅井さんから先輩の話聞いたからでさ、」

 大沢の笑っている顔が見える。

「おかしいけど、先輩が俺の中にいるみたいで、それでそれが、幸せなんだよね」

 浅井が、息を呑んだ。

「先輩と一緒に俺も幸せなんだ」

 浅井の中で鉛になった先輩が姿を変える。

「だからさ、礼なんかいらないんだ」

 浅井は唇を噛んだ。



「浅井さんより、俺たちの方が幸せだよ」



 浅井は、唇を噛んだまま涙をこぼした。


「なんで泣くのさ。浅井さん」

 大沢が笑う。




「浅井さん、あの香水つけてる?」

「ジョイ?つけてないよ。これでしょ」


 浅井が涙を拭いて花束を持ち上げ、ティッシュで切り口を拭く。

 ピンクの薔薇が芳香を振りまく。



 ピンクの薔薇。

 先輩の形は、これになった。



 ピンク。

 さっきのバーテン君と君島君の色にピンクを足すと虹になるかしら?

 浅井も笑顔になる。



「大沢~~~!お母様がお入りになりま~~す!」

 田村の声が廊下から聞こえた。

「お邪魔かしらぁ~?」

 大沢の母の声が続いた。

 邪魔だよ!と言う大沢の声を後ろに聞きながら、ジョイの香りの花束を抱えて浅井が笑ってドアを開けた。





         終




※番外編になりますが、次は『a night and day』です。


※10年前の物語、浅井と先輩の2年間『SEASONS』はムーンライトノベルズで公開中です。

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