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氷の聖女のテラリウム  作者: 風木水空
4章 開戦
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お茶会への招待状

俺は悩んでいた。

机の上に置かれた封蝋の割られた手紙――差出人はエリシアナ・ヴェルセル嬢。宛先はリシェリア。茶会の誘いだった。


なぜ、彼女から直接リシェリアに――という思いが胸を掠める。普通ならアデライナ経由か、少なくとも俺に前触れとしてが相談されてからでもよさそうなものだ。だが、封じ込めてしまうような内容でもない。


「リシェリア。君に」

そう言って俺は素直に手紙を渡した。


リシェリアは丁寧に受け取り、封の内側を覗き込んでから顔を上げた。


「ありがとうございます。前にお声かけいただきました。……参加してもよろしいでしょうか?」


伺いを立ててくる声音は控えめだが、その瞳には小さな期待が宿っている。


「もちろん、構わない。茶会の練習は出来ていないからちょうどいい」

快く首肯した。


しかし、心の中には釈然としないものが残る。

アデライナからでもなく、俺宛でもなく、リシェリアへ直に招待状が届いたこと。二人はすれ違う程度の顔見知りに過ぎないはずだ。当代聖女には公務があり、リシェリアには緻密な教練が詰め込まれている。接点はほとんどない。今後、せいぜい降誕節に行われる聖女交代式で会うくらいだと思っていた。


特に、……あのエリシアナ。


少し、いや苦手とする性質のご令嬢だった。ため息が思わず出た。


もうそうそう関わることはないと踏んでいたのに……いや、同じ聖女同志だ。時には顔を合わせざるを得ない。そういう事態の見込みを甘くしていた自分を内心で苦笑する。

手紙にはもう一枚、アデライナが添えてくれていた。そこには「カイル様はくれぐれもご無理のないように」と柔らかに書き添えてある。


俺は別に同行しなくてもいいらしい。


「リシェリア。君だけ……」


そう言いかけて、喉の奥で言葉を切った。

彼女の表情があからさまに翳ったからだ。細い眉が下がり、影の差した瞳が俺を見上げる。


「カイルは、あまり気が乗らなそうですね」


……そんなに顔に出ていたか。


自分では平静を装っていたつもりだったのに。


「俺は……、同席したほうがいい?」


気を取り直して意見を伺う。もし、来てくれと望まれたなら、断る理由などない。


「はい、ご迷惑でなければ。あまり経験がないですし、いてくださると……嬉しいです」


両の手を胸元で重ね、不安そうにしながらも、真摯にそう告げる。その仕草が可憐で、胸が温かくなる。今すぐその手を包んで安心させてやりたくなる。


「わかった。行こう」


口にした瞬間、自分でも不思議なくらい心が軽くなった。

俺がすべきことは決まっている。なるべく背景に徹し、表には出ないこと。リシェリアをただ見守って、無心で過ごす。


……彼女がそこにいるなら、どんな場でも耐えられる。


「しかし、いつの間に?話す機会があったとはね」


口に出してはみたが、俺の意識は鋭く探るように彼女へ向けられていた。どの程度の距離感なのか。それ次第で、受け止め方も変わってしまう。もし思いのほか親しいのなら、無碍にできるはずもない。


「ああ。ええ。まだそんなには。先日庭でセランと話しているところに出会いまして。せっかく聖女が二人城内に揃っているのだから交流しようとお誘いをいただきました」


リシェリアは少し考え込むような面持ちで言葉を選ぶ。彼女自身も距離感をを測りかねているのだろう。


「だから、これから仲良くさせていただければ嬉しいですね」


”エリシアナがセランと一緒にいた”


ははあ。


内心で小さく頷いた。

随分と足取りの軽いご令嬢じゃないか。


まあ、確かに。あのセランは、貴族のご令嬢の周りにいるような類の人間じゃない。年も近くて、危険な香りのする野生味のある男。それでいて聖女の幼馴染として親しく、女性の扱いは最低限心得ている。兵士文化に染まりきった下品さは少ない。


あのエリシアナが、もしもあちらの男に興味を寄せているのだとしたら――確かにリシェリアを通じて話を聞きたいと思うだろう。リシェリア宛に誘い状を出した理由にも合点がいく。俺の参加が必須じゃなかったのも、そういう意味では筋が通っている。


胸の中に溜まっていた重しが、少しずつほどけていくのを感じた。肩の力が抜ける。


……なんだ、そういうことなら。


むしろ、茶会の場でさりげなく後押ししてやるくらいが筋なのかもしれない。うん、それでいい。俺にできるのはその程度で十分だ。

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