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氷の聖女のテラリウム  作者: 風木水空
間章 白
39/69

未来への希望

二年前にアスティの庇護下に入ってから、来てくれていた家庭教師の先生から、私たちは少しだけ学んだ。


内容は、ごく一般的な基礎教育。

文字の読み書き。簡単な計算。歴史の流れ。家政の基本。


それに加えて、宮廷に上がる最低限の礼儀作法と、淑女教育の入口。

背筋の伸ばし方や、歩き方。

声の出し方。目線の落としどころ。


異能に関することは、本当にさわりだけ。

理論と呼ぶには心許ない、輪郭だけの説明。


お城に来て、祭祀庁に所属して、聖女見習いになって。

ようやく私は、異能について体系的に――

少なくとも、私なりに「教わっている」と感じられる形で、カイルから学ぶことになった。


それでも。

聖女の叙任に万全と言えるほどの知識があるかと言われたら、正直、ない。


カイルは言った。

知識として完全に理解していなくても、実演できるなら今はそれでいい、と。

考えるのは研究者や学者の仕事。

奇跡として実行するのが、聖女の役目なのだ、と。


多分――

それよりも、日々こなすべきことが多すぎて、後回しにするしかないのだと思う。

あるいは、

単純に、今の私には教えきれない、と判断しているのかもしれない。


そもそも私は、聖女の選定時点で、他の誰よりも教養が低かったと聞いている。

入城の二年前には、私もセランも、文字の読み書きすら十分じゃなかった。


……少し、恥ずかしい。


だから、ちょっと怖い。


聖女の任期が終わったあと、もし祭祀官になりたいなら、試験が必要だという話を聞いた時。

目指したとしても、入れないんじゃないかと――

実は、心のどこかで思っている。


公務の合間や、わずかな自由時間にも、勉強をしなければならない。

それは、今でも正直、難しい。

分からないところで何度も立ち止まって、四苦八苦している。


それでも。

知れば知るほど、世界の仕組みや、人の営みが少しずつ見えてくるのは、楽しい。

「わからない」が、「そういうことか」に変わる瞬間が、嬉しい。


そして、聖女になってから。

異能が溜まりすぎて体調を崩すことは、ほとんどなくなった。


聖女になってからは規則正しい生活。

過度な緊張や、不安のない日々。清潔な環境。


異能は、日々の奉納でちゃんと消費できる。

鍛錬や勉強の合間の実演で、常に使っているから、内側に張りつめて溜まることもない。


――これが普通の生活。これが、平穏という世界。


そう気づいたとき、私は、生きること以外を考える余裕を手にしていた。

多分、セランも同じなのだと思う。


……私たちにも。今からでも。


できるんだ。

混ざって、群れに入れるんだ。


それは、とても素朴で。胸の奥が、静かにあたたかくなるような。そんな、明るい気持ちが胸を満たしていた。

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