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第百九十六話 アルファロン・ジーニクス

 「すみませ〜ん、アミルさん!コレのおかわりを下さい!」


 その日、オレっちは竜リゾートのログハウスアジトにて、メイドゴーレムであるアミルレートさんが作ってくれた花型クッキーを食べつつ、激甘のメロンソーダのおかわりを求めた。


 「⋯⋯タロス様。カロリーオーバーが、常軌を逸しております。直近の体重も標準基準を超えておりますね。よってこれより、タロス様の健康維持のため、ダイエット食へと全メニューを変更致します」


 そう言ってアミルさんがテーブルの上に置いたのは、氷が浮かんだソーダ水⋯⋯ではなく、ただの水だった。えっ、今からダイエット!?


 「そうだな。タロス君、君は見るからに肥えた。ダイエットに励み給え!」


 マルクス坊っちゃんがオレっちを見ながら底意地の悪い笑みを浮かべる。


 「マルクス様は、偏食のし過ぎです。菓子類は当面禁止。バランスの良い食事のみ食して頂きます」

 「なっ⋯⋯!?」


 ザマァ!!


 「ぼ、僕は⋯⋯?」

 「エイベル様は、特に問題ございません。ですが⋯⋯辛味は、幾分控え目になさった方がよろしいかと」

 「あ、アタクシは?」

 「ミルトレーカ様も甘い物がお好きですが、食す時間や食べる量から計算致しますと、さほど問題ではございません」

 「⋯⋯」

 「ダンガリオ様は──ネギ類が全滅ですね。せめて玉ねぎぐらいは食して頂かないと」


 アミルさんには、遠慮というモノが無い。

 ズケズケ言ってこちらの意見(言い訳)も聞かず淡々と断言し、決定する。表情が必要最低限なだけに抗議しても反応が薄いし、彼女を納得させる理由も思い浮かばない。


 『ゴーレムとは、マスターのいうことが絶対だろ!?』


 などと坊っちゃんが、最初の頃、アミルさんに抗議したことがあった。


『ハイ。私は、常にマスターへの最大の忠誠を誓う自律型ゴーレムです。よって、仕えるマスターにとっての最善を選びます。私は様々な情報から計算して結果を知り、そこに行き着くまでの最も正しい道を選択致します。ですから、その結果こそがマスターにとっての正解なのです』


 マルクス坊っちゃんは、目を剥いて沈黙した。それを横目で見るオレっちも悟った。


 アミルさんは、とにかく融通が利かない。


 自分で判断する能力が高すぎて他の意見を却下する傾向がある。彼女にはいろいろ世話になってるけど、正直、何もかもが計算尽くめで、チョー面倒くさい。もっと緩くてもいいのに。


 




 ◇◇◇◇◇


 ☆ モフ神たちの会話 ☆


 《あのゴーレム⋯⋯惜しいな》

 《そうだね。せっかく魂が入ったのに、未だに自我に目覚めてない》

 《人形とはいえ、魂が入った以上は人になれたものを⋯⋯残念だね》


 ヴァチュやムーヴィの言った通り、このアミルレートとかいうゴーレムは、自然に入り込んだ魂を持っている。つまり、(ハード)は魔素金属でも、中身(ソフト)は人間だと言えるのだ。

 たかが半神の末裔ごときが造ったモノとしては破格の出来だ。造りに狂気に近い執念を感じるしな。


 自然であっても人工物であっても、物には大小の魂が宿る。その後に魂が定着しさえすれば、それはもう、自我を持った立派な生命体なのだ。


 俺が視たところ、魂と器が融合しそうで融合していない。なんだろう⋯⋯ネジが一本足りないというよりは、ダウンロード率が99パーセント段階でフリーズしてるって感じだ。何かの拍子に、ポンと100パーセントになりそうなんだが。


 





 ◇◇◇◇◇


 ☆ ユーグラム視点、アルファロン・ジーニクスとの会話 ☆(タロスたちがウルドラム大陸へと帰還する直前の話)




 ゴォォォ!ザァァァ──


 この数日、外は昼夜を問わずして強い雨が降り続いている。風もまた強い。

 しかし、この黒の聖宮殿の中にいると外部の音が完全に遮断されてしまうため、この部屋では互いの息づかいぐらいしか聴こえてこなかった。


 「⋯⋯イルシア⋯⋯?」

 「アルファロン、私だ。ユーグラムだ」

 「⋯⋯ユーグラム⋯⋯様⋯⋯?」

 「すまないね。何やら良い夢を視ていたようなのに、私の神気で君を無理矢理起こした」


 幾つも緞帳が垂れ下がった天蓋付きのベッドの上で、肩で切り揃えられた黒髪に縁取られた少し丸みが残る少年の顔が、力無く私を見上げていた。


 元々、男女の区別がつかないほどに中性的な美しさを持っていたアルファロンだが、最期が近いせいなのか、さらに儚げな姿になってしまっている。ここ五十年は起きている時間よりも眠っている時間の方が長かったからかもしれない。


 「少し話したい事があってね。どうやら予言の時が近いようなんだ」

 「それは⋯⋯次の海の呪いの事ですね」

 「そうだ。海の呪いは、今回も防がれる。⋯⋯とはいえ、単なる先延ばしになるだけかもしれないが」

 「それでも予言の一番重要な部分は──まだなのですね?」

 「そうだね。まだ──だが、それは確実に果たされるだろう」

 「フフ。死ぬ事には未練はありませんが、それを見届けてから逝きたいですね。⋯⋯そうだ」


 アルファロンは、神気を使って何かをしたようだ。──ああ、何かを転移させたのか。


 アルファロンの横たわるベッド近くで、大きな影が動いた。

 ⋯⋯ゴーレムか。姿からして『イルシア型』だな。


 イルシア型とは、アルファロンのかつての夫人の一人をそのまま模した型のゴーレムの事だ。


 イルシア・リヴァーン──彼女は、竜人には珍しい土色──いや、薄茶色の髪と目を持った女性だった。

 アルファロンの寵妃であったが子はなせず、神々の祝福が得られぬまま老いた彼女は、すでに400年以上前に亡くなっている。


 そこまで誰かに執着した事の無い私には理解できないが、アルファロンはゴーレムを使い、亡き彼女を再現しようと必死になっていた。

 その結果が、30体近くになる歴代の『イルシア型ゴーレム』だ。


 「彼女は『アミルレート』です。他のイルシア型とは違い、外見以外はデータを固定しておりません。性格や思考は、彼女自身がこれから作っていくでしょう」

 「⋯⋯イルシア・リヴァーンの再現はやめたと?」

 「ええ。彼女の魂が宿る事が無いと解ってしまったので」

 「⋯⋯それは⋯⋯」

 「己の死が近いからか、薄くとも神の血がそうさせるのか──最近は()()()の世界を垣間見る事が多いのです。そこにいるイルシアは、私があちらへと行くまでは待っていると言っていました。ですからもう、彼女の生前の性格や思考を設定しても意味が無いのです」

 「そうか⋯⋯」


 確かに、この世を去った魂が留まる場所があるのだろう。そこから先は識りようが無いが。


 「このアミルレートを彼らに。彼女は万能型なので、様々な意味で役立つでしょう。そして、アミルレートにも大きな変化をもたらすかもしれない」

 「あちら側からの影響を期待すると?」

 「ええ。古き神々にというよりも、自己進化しなければ対応できない環境に追い込まれる事を」

 「それはまた──生みの親としては、随分と酷い所業だな」

 「私の最後の作で、自律型ゴーレムとしての最高傑作──だからこその試練ですよ。もしそれで本当の意味で完成したのなら、私ももうこの世に未練は無いですしね」

 「アルファロン⋯⋯」

 「まだ死にはしません。少なくとも、あと数十年は」


 アルファロンは、あどけなく笑った。それでも活動できる時間は短く、ほぼ眠る事になるだろうが。


 次の段階へはまだ進めない。肝心の神姫が目覚めていないからだ。今できる事は、この自律型ゴーレムであるアミルレートを彼らに与えて経過を見る事だけか。


 「⋯⋯雨が止んだようだな。ではアルファロン、彼女を彼らの元へと連れて行くよ。その経過観察は、次の訪問で伝える」

 「楽しみにしています。⋯⋯そうだ。私も、ゴーレム用のメンテナンス機器を整備しておかなければ──ユーグラム様、どうか彼女をよろしくお願い致します」


 アルファロンはそう言うと、他のイルシア型のメイドゴーレムを呼び、着替え始めた。

 私が無理に起こしてしまった状態なので、半日程でまた眠ってしまうかもしれない。彼もそれが解っているから急いでいるのだろう。

 

 「そうだ。あの子にはまだ何も⋯⋯?」


 あの子⋯⋯ああ、彼か。


 「伝えていない。伝えたとしても、あの子にはどうでもいい事だろうしな」

 「⋯⋯そうですね。彼は自分が最後の半神血族──竜賢者になる事はわかっている分、無駄に足掻きたいと思っていないようですし」

 「あの子の好きにさせよう。だが」


 万が一、あの子が⋯⋯赤の竜賢者が何かをしようとしたら、それは──酷く危うい事かもしれない。


挿絵(By みてみん)

黒の賢者とアミルレートさんのイラストです。モデルとなったイルシアとは、今のところまったく似たところがありません。しかも無愛想なだけでなく、仕えるマスターの命令をサクッと無視したりします。実はこれ、イルシアの基本データが入っていない弊害なのです。その為に、あまり人の精神面を学習していないAIに近い思考処理になってるんですね。要するに、今はまだポンコツなメイドゴーレムだということです☆

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