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第百九十五話 帰国後の状況

 カガリス様の復活(仮)と共に、オレっち人形からオレっちが不在だった時の記憶が頭の中に流れ込んできた──ふむふむ。


 キュ?お屋敷の夏パーティー、中止になってたんだ。それに、ダンス学科も普通の練習のみでイベント関連のダンスは無し!?

 そうだ。ビスケス・モビルケ最後の小獣賢者様が亡くなられたんだったな。あんまりにもイロイロあり過ぎて、すっかり忘れてた⋯⋯


 あれから、たくさんの人々が集まる賑やかなイベントは、内々のものから公のものまで全て中止になっていたようだ。

 国から正式な通達があったワケでは無いが、一番大きなイベントである春の大祭と秋の大祭が何年か中止されることに決まったこともあって、国民全員が自粛ムードになってしまったらしい。


 夏休みもまた然り。今年は遠出の旅行の予定をする人も少なく、近場ばかりなんだそうな。まあ、これから数年は、季節を問わず、派手で華やかなイベントはオールナッシングということだな。


 でも、タイミング的にはよかったかも。

 これで例年通り秋の大祭なんぞあった日には、また舞の特訓をしなくちゃならなかったからな。竜リゾートに行く時間が無くなるところだった。


 オレっち人形を身代わりにすればいいじゃん?──って、以前は思ってたけど、ちょっと問題があって、これからしばらくオレっち人形は使わないことにしたんだよね。


 なんつーか、オレっち人形には、オレっち独特の雰囲気つーもんが醸し出せないみたいなんだ。

 かーちゃんには再会して早々「なんだか、タロスに久しぶりに会ったような感じがするわ」⋯って、言われたし。


 AI的な魔導人形は、雰囲気みたいなデーター化しにくいものが苦手らしい。とはいえ、姿形や大まかな性格は完コピできてるから、多少の違和感があっても偽物だとまでは思われないようだけど。

 それでも、あまりにも長くその小さな違和感が続くと、かーちゃんには気づかれるかもしれない。


 ただ、エイベル人形の方はそこまでの違和感が無かったようで、執事さんも周りの人たちも特に違和感を感じなかったようだ。⋯⋯つーいうことは、オレっちだけが、コピーしにくいタイプなんだろうか??

 

 まあ、そんなこんなで今年の夏休みは、怪しまれない程度に竜リゾートに滞在し、あとは通常通りの夏休みの消化していく──と、決めた。


 そして今日もまたフブル姐さん(キューブ)の様子を確認する為に、オレっちは、左手の中指でキラキラと輝く小さな金剛石の指輪に魔力を充填した。


 すると、グルグルと回転する光の魔法陣が現れ、パッと周囲に広がった後、オレっちの体をスッポリと包み込んだ。一瞬だけ視界が白くなった後、もう見慣れた竜リゾート内にある拠点──低い山の麓のログハウス風の建物へと転移した。


 「コレって、ホントに便利だよな!カガリス様の憑依無しでも起動してくれるし!!」


 ダンジョン内の竜リゾートに直接転移できるこの便利な指輪型神器は、カガリス様の要望に応えてドワーフの加護神たちが造り出したものだ。

 彼らは、新たな憑依用の人形だけでなく、これから下位世界で使うであろう便利な道具までセッセと製作している⋯⋯らしい。


 「でも、結局、大元の動力はカガリス様の神力なんだけど」


 そう。オレっちの魔力で起動するのは、単なるオン・オフのスイッチだけで、実際に空間転移させるエネルギーは、カガリス様の蓄電機能──もとい、蓄神力機能なのだ。


 実は、オレっち人形とエイベル人形は、コレで動いていたから問題が無かったらしい。戦闘用じゃ無い日常使いの人形は、最低限の蓄神力でも十分なんだそうだ。(戦闘用だと、供給源(神)と神力を繋げる必要有り)






 ◇◇◇◇◇


 「いらっしゃいませ、タロス様」

 「こんにちは、アミルさん!」


 ウルドラシルの木で組み建てられた巨大なログハウスの中に入った途端、紺色の簡素なメイド服に身を包んだ竜人型ゴーレムのアミルレートさんが、いつもの如く、吹き抜け式の大きなエントランスで出迎えてくれた。


 実はこのアミルレートさん、竜の半神であるユーグラム様が、カガリス様たちの復帰時に送ってきた黒の竜賢者ことアルファロン・ジーニクス様のお造りになった最新式の自律型ゴーレムなのだ。



 『炊事、洗濯、清掃、戦闘──全てをこなせる万能型ゴーレムです。屋敷内の事は彼女に全てお任せください。私からの復帰祝いです』


 何の状況説明もしていないハズなのに、突然、竜リゾートへと現れたユーグラム様は、()()()()だと仰った。オレっちとエイベル、ミルトちゃんは、当然困惑したが、カガリス様とヴァチュラー様、ムーヴィ様たちが全員スルーしたので、そこはもうツッコまなかった。


 『イルシア型No.28、『アミルレート』と申します。略して、『アミル』とお呼び下さいませ』


 それだけを言うと、アミルさんはゴーレムらしい無駄の無い動きで、すぐに屋敷内の清掃を始めた。


 ⋯⋯一体、どこから掃除道具を出したんだろ?いや、それより、ミルクティー色の長い髪に、青い瞳──なんか見覚えがあるなぁと思っていたら、エイベルがすぐにその答えを出してくれた。


 『ゴーレム博物館の〜竜人型ゴーレムさんだ〜!』


 あ、そうか!黒の竜賢者様んとこのゴーレム博物館に展示されていた、小獣人や大獣人、加護人型のゴーレムたちとお茶会をしていた、あの竜人型の女性ゴーレムだ!ちょっと変わった髪色だったから、印象に残ってたんだよな!


 あの展示していたゴーレムは、型こそアミルさんとは同じだけど、わりと初期の古いタイプのものなんだそうだ。(アミルさん談)

 

 どっちにしても、不眠不休で動くゴーレムだけあって、この広い屋敷をたった一体でアミルさんは完璧に維持管理していた。

 特に、ここに住んでいるミルトちゃんとダンガリオは、彼女に感謝しきりの様子だった。


 「本当に助かってるの!ほら、アタクシって、掃除や洗濯を自分でしたことがなかったでしょ?料理だって、切って炒める事ぐらいしかできないし⋯⋯」

 「そうですね。掃除や洗濯はともかく、俺も料理は簡単なものしか作れませんでしたから⋯⋯助かります」


 小賢者として至れり尽くせりの生活をしていたミルトちゃんには、家事を自分でする必要が無かったからな。切って炒めることができるだけでも、十分スゴいよ。それにしてもダンガリオ⋯⋯ミルトちゃんと上手くいってるみたいでよかった。


 ダンガリオはあの作戦の後、ネーヴァ国内、および占領地であるパールアリアで指名手配されることになってしまった。まあ、敵であるオレっちたちに加担したワケだから、当たり前といえば当たり前なんだが。


 それもあって、カガリス様が全快した後、一時的にマリアベル王国へ入国(避難)していたダンガリオを、出来立てホヤホヤの特殊転移の指輪で竜リゾートへと直接転移させたのだ。


 ダンジョン内とはいえ、故郷のウルドラへと帰郷した彼の胸の内は、さぞや複雑だろう。実はユーグラム様とも面識があったらしく、その姿を見た時は、思いっきり動揺しまくっていた。


 『これも縁というものだね。あの時、私たちがもっと慎重に事を成せば、君は罠に掛けられる事もなかったのに⋯⋯』

 『いっ、いえっ!俺⋯いえ、私が浅慮だったのです!白の竜賢者様のせいでは決してありません!!』


 オレっちの耳がピコピコ動くほど、ユーグラム様とダンガリオは意味深な会話をしていたが、きっと複雑な何かがあったのだろう──と考え、ダンガリオ本人が自ら話すまでは訊ねるのを止めることにした。


 ⋯⋯とか思ってたら、ミルトちゃんはその後すぐにダンガリオに事情を訊いたらしく、あっさりとオレっちとエイベルに教えてくれた。


 『なんかね⋯⋯元々ダンガリオさんは、黒の竜賢者の近衛だったらしいの。でも、あの方、寿命が近いでしょ?だから黒の竜賢者に信頼されていたダンガリオさんは、白の竜賢者──あっ、本当は竜の半神だっけ!⋯⋯のところに異動する予定だったんですって!』


 その話の流れで、オレっちには後の展開がすぐに読めた。

 つまり、他の黒の竜賢者に仕えていた者たちの反感を買ったワケだ。蓋を開けてみれば、複雑な何かでは無く、単純なナニかだった。


 なんでアイツだけ⋯⋯ってな感じだったんだろう。妬みと僻み──竜人のエリートたちも、人間とそう変わらんなぁ。


 『ダンガリオさん⋯⋯自分と仲の良かった人もそうだと思って、つい話してしまったらしいの⋯⋯』


 あ。闇が深くなっちゃった。その親友には異動の話が無かったんだ!

 これは⋯⋯友に裏切られたパターン──オレっちだったらエイベルに裏切──なんてことは万が一にも無いが、ダンガリオはそうだったのか。これは、精神的にキツイ!!


 それにしてもミルトちゃん。さすがは小賢者だけだけあって空気を読んでないなぁ。(自身の好奇心の方が他人のプライバシーより優先されてる)

 でも、それだけミルトちゃんがこの短期間でダンガリオを信用してるってことか。会話も多いみたいだし。というより、常時ここにいるメンバーが限られているから、他に話す相手がいないんだよね。


 アミルさんはよくできた自律型ゴーレムではあるけど、話題を提供したり会話を弾ませるという事が難しいようで、話し相手には向いてない。

 チルドナは自分で選んだ別の屋敷でぐーたらしているらしく、コッチにはたまにしか来ないらしい。


 でも意外なことに、ダンガリオは話上手だった。知識も広く、内容の要点だけを上手くまとめて話しくれる。なんか、モブラン先生の授業に似てるような感じするなぁ。


 本人曰く、専門的な知識は少ないが、ジャンルの広い雑学がそこそこあるとのこと。あと、子供の頃から本を読むのが好きだったらしい。なるほど。


 とまあ、先日までいろいろとあった。

 今日は、エイベルが裁縫学科の宿題(デザイン画を基にした一点物の服)を作っているため、オレっちだけで竜リゾートへとやって来たのだが──


 アミルさんはいたが、ミルトちゃんとダンガリオは外出中だった。どうやら、この広い竜リゾート空間のどこかを散策しているらしい。


 ガチャッっと扉を開け、応接間へと入る。


 ──あ。マルクス坊っちゃんがおるやんけ!!


 瞳が内側から光ってないので、ムーヴィ様が憑依しているワケでは無いらしい。⋯⋯ということは、自主的に竜リゾートへと来たのか。いや、お屋敷に居づらいから避難してきたんだな、きっと。


 マルクス坊っちゃんは、本来なら今年の夏前には留学先のウルドラの学校で第10レベルクラスに上がる予定だった。ところが、出席日数が足らず、留年してしまったらしい。これには、旦那様だけでなく坊っちゃんを溺愛する奥様ですら怒った。


 聞けば坊っちゃん、ホスト家であるリヴァーン家から引っ越して監視の目が緩くなった隙に、ウルドラでわりと有名な俳優養成所に入っちゃったそうな。


 えっ、坊っちゃん、役者希望だったの!?そっちの方がビックリだよ!!

 ──とまあ、ツッコみたいところは多々あれど、そんなこんなで真面目に勉強してなかったぽいっから、旦那様と奥様が怒るのは無理もない。


 その上、マルクス坊っちゃんは学校を休学して何年か俳優の勉強をしてみたいなどと言い出したから、旦那様が頭を抱えていらっしゃった。

 妹であるマリリンお嬢さまに遅れを取り(去年、第10レベルクラス卒業、現在第11レベルクラス在中)、もはや後継者では無いとしても、そこは大商人の長男。旦那様としては何らかの形で経営に関わらせたいと思っていたから大変だ。(この辺は、かーちゃん情報)


 「だけど、ここにいても何も解決しないと思うケドな⋯⋯」

 「ナニがだい?」

 

 おっと。つい、心の声がだだ漏れに!


 ん?クンクン。


 「マルクス坊っちゃん。なんかカレー臭がスゴいんですケド!?」

 「カレー臭⋯⋯?」


 複雑に木組みされた天井がある応接間で、一目で高級家具だとわかる凝ったデザインの一人掛けの椅子に腰掛け、優雅にお茶を飲んでいた坊っちゃんの目が細くなった。


 「ノンノン!それはカレー臭では無く、香辛料の匂いだよ。連日、スパイシーな物ばかり食べていらしたからなぁ⋯⋯ムーヴィ様」

 「ああ。そーいえばムーヴィ様って、もともと外界の食べ物で一番お好きな料理が激辛系でしたっけ?」

 「そうなんだよ。だけど僕へのダメージが大きくて⋯⋯臭いもそうだが胃の調子が良くなくてね。僕の方は、食欲が全く無くなってしまったよ⋯⋯」


 そうか。自己治癒があるオレっちとは違って、坊っちゃんは憑依後のダメージを受けたままになるのか。


 「でしたら、神薬をお出ししましょうか?一発で治りますよ?」

 「それは助かるが⋯⋯」


 オレっちは、口をあ~んと大きく開けた。


 ポンっと、何も無い空間から神薬の瓶が出てきた。よしよし、簡易空間も完全復活したな!


 「⋯⋯貴重な品をもらってなんだが、君はどうしてイチイチ口を大きく開けるんだい?普通に取り出すイメージで出せばいいだろ?」

 「それが⋯⋯カガリス様曰く、頬袋をイメージした出し入れがカリス伝統の簡易空間の出し入れらしいんです!」

 「頬袋⋯⋯?伝統⋯⋯??」


 気のせいか、坊っちゃんの視線が冷たい。もしかして、オレっちが嘘を言ってるとか思ってる!?


 コンコン。ガチャッ!


 「失礼します。タロス様の御要望のミックスジュースでございます。それと、マルクス様の紅茶のお取り替えをさせて頂きます」

 「あ、ありがとうございます!」

 「ちょうど新しいお茶を頼もうと思っていたから、よかったよ!」


 アミルさんの登場で、カリスの頬袋伝説はうやむやになった。


 しかし、こうして見ると、アミルさんの外見は生身の竜人そのものだな。実際、ゴーレムだと言われなければ、誰も彼女がゴーレムとは気づかないだろう。

 ただ、喜怒哀楽──基本的な感情表現は作れるものの、普段は無表情だし、少しだけ違和感を感じることもある。けど、ここまで精巧に造れるなんて──黒の竜賢者様の錬成術は、やっぱスゴい。


 それにしても、『イルシア型』とやらにこだわるのはなぜなんだろう⋯⋯?

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