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第百九十七話 あれから一年

 あれから、早くも一年という月日が経った。


 オレっちとエイベルは、まだ第四レベルクラスで学んでいる。あれ程に大きな出来事を経験し、これから世界がどうなるのかと心配していたというのに、お屋敷も加護種たちの国々にもさほど大きな変化はなかった。


 だだ一つ、人間の国だけは違った。ネーヴァとパールアリアが一つの国、『エル・ハデス』として統一されたのだ。


 エル・ハデスは、暗黒大陸(リベルタニア)にあるザドキエルの国の名称でもある。事実上、ネーヴァを裏で操っているザドキエルの国だというわけだ。

 でも今現在、ザドキエルはウルドラム大陸には姿を現さない。相変わらず一部の憑依神たちを派遣しているだけのようだ。


 目の上のたんこぶだったフブル姐さんが半死半生の今、表立ってこちらのエル・ハデスに君臨していてもおかしくないハズなのに。う~ん、どうしてなんだろう?


 でもあの時、ザドキエルは憑依神たちの王の魂ともめていたし、あからさまに様子がおかしかった。そこを考えると、強制憑依されて何らかの後遺症が残ったのか、はたまた、まだ王ともめているのか──その辺はサッパリわからんが。


 なんせあちら側の大陸の情報は、リチルたちが辛うじて得てくる僅かな物しか無い。それも大半は城下に住む人間たちの情報なので、ザドキエルや配下の憑依神たちに関しては噂程度ぐらいにしかわからないのだ。


 それでも、シルジーさんの所在と安否確認はできた。どうやらあちらのサーカス団に入り、例のスキルを使って活躍しているらしい。

 今はまだ連絡は取れていないが、無事でホッとした。


 神界では、古き神々のほとんどが様子見状態だ。そのためにカガリス様をはじめとする対ザドキエル派の憑依体は、まだまだ数が少ない。


 心情的にはよそ者(タルタロスの憑依神たち)にはムカついても、桁違いの神力を持つザドキエルと正面切って戦うのはちょっと⋯⋯と、いったところか。

 フブル姐さんが健在ならそこまで問題じゃなかったハズだったと、ムーヴィ様は愚痴っていたが。


 今のところ一番活動的なのは、ドワーフの加護種である神々だ。複数体のドワーフたちに憑依しながら、役立ちそうな魔導器やアイテムを急ピッチで生産している。本体で降臨している訳ではないから製作レベルに限界があるようだが、それでもこの世界では超高性能だと言える物ばかりである。


 彼らが熱心な理由は、ヴァチュラー様曰く、他神族であるタルタロスの憑依神たちに対する怒りというよりは、大神(トップ)からの許可がおりて堂々と自分たちの加護種たちに憑依しながらモノ造りができることが楽しいから⋯⋯だそうだ。根っからの職人さんなんやね。


 だが、そのおかげで憑依の同調率を上げる貴重な魔導器はたくさん造られた。後は様子見している神々の決断次第だ。


 それに二つほど、こちら側にとって有利なことがある。

 一つは、ザドキエル側につく神々は絶対にいないとわかっていることだ。そりゃそうだろ。今のザドキエルがしていることは、古き神々に対しての裏切りなんだもん。


 もう一つは、どちらも憑依状態とはいえ、能力的にはこちら側の方が少しだけ上だということ。ザドキエル側の憑依神たちは、完全に神体を捨てている分、神力に劣る。


 ただ──ザドキエルの強さがダントツ過ぎる。

 古き神々の憑依体がどれ程いても、勝てるかどうかはわからない。そこはやっぱり、フブル姐さんの復活が絶対に必要不可欠なのだ──






 ◇◇◇◇◇


 「姫姉様の今のご様子?それは⋯⋯解らないわ。でも、姫姉様の神力の供給が戻ってないって事は⋯⋯まだ眠りが深いんじゃないかしら?」

 

 一年前よりも少しだけ成長したミルトちゃんが、瞑想室から出た直後にそう答えてくれた。


 安全のために竜リゾートから出られない生活をしているミルトちゃんは、この一年、元々あった神力を増強するために修行を積んでいて、瞑想もまた、集中力を高めるための修行だった。


 ちなみにダンガリオも、このウルドラの旧ダンジョンの深層階で修行中である。

 ユーグラム様のコネで某竜人冒険者パーティに加入し、能力のレベル上げをしているのだ。幸いダンガリオは第一世代なので、竜体化以外の問題は無い。

 

 チルドナはというと、たまに竜リゾートを出て、ウルドラやビスケス・モビルケを観光しまくっていた。

 一人だけのん気過ぎてムカつくが、リチルたちと情報のやり取りをするために、アイツの↑↓スキルには頻繁に世話になっているので、そこはもう大目に見ている。


 《だが⋯⋯末姫様の状態は深刻だ。これじゃあ神体を再構成するまでにどれぐれぇの時間がかかるか解らん》

 《考えたんだけど、神体の復活は神界の方がずっと早いと思うんだ。今さらだけど、あちらの界へとお移しした方がいいかもね。でも⋯⋯》

 《それは、末姫様の意向を確認してからでないとマズいだろう?》

 《⋯⋯そうだな》

 《やはり、末姫様の意識が回復しない事にはどうにもならないようだね》


 マルクス坊っちゃんに憑依しているムーヴィ様がロッキングチェアに腰掛けて、ユラユラと椅子を揺らしながら空を見上げた。


 カガリス様に憑依されているオレっちも、ムーヴィ様につられて空を視る。


 ログハウスアジトの中庭にある東屋から見上げる竜リゾートの空は今日も晴天で、雲一つない完璧な蒼穹を見せていた。

 サンサンと輝く陽光も光量は多いが熱量が低く調整されているので、まるで春の日差しのようにポカポカしている。


 「──失礼いたします」


 アミルさんの用意してくれた様々な種類のお茶、ちょっとしたツマミや色とりどりのケーキが、東屋内の石テーブルの上に整然と並べられた。


 《⋯⋯おい!このケーキ、全然甘くねぇぞ!!》


 一見、生クリームたっぷりの激甘系に思えたカガリス様の選んだケーキは、全く甘味が感じられなかったらしい。


 「ケーキは全て糖分を控えめにしていますので」

 《控えめ過ぎだろ!!》


 アミルさんことアミルレートさんは、相変わらず融通の利かない頑固なメイドゴーレムのままだった。

 だがしかし、これ程の糖分制限をされていても、オレっちはさほど痩せていない。なぜかって?


 そりゃあ、竜リゾート以外でスイーツを食べまくってるからですよ!!


 さすがのアミルさんでも外の世界の食生活までは管理できないもんね!


 ──と、ここまでは普通の(?)午後のティータイムだったのだが──




 《⋯⋯そこにいるのは、カガリス、ヴァチュラー⋯⋯ムーヴィ⋯か?》

 《《《!!!》》》


 姐さん!?今の声、フブル姐さんだよね!?


 と、オレっちが動揺すると同時に、カガリス様たちは何かを見つめていた。


 ⋯⋯光?


 白光なのか金光なのか──判別し難い眩しい光が、宙で点滅していた。


 《末姫様⋯⋯!》

 《意識が戻られたのですね!?》

 《ですが⋯⋯その状態は》


 《そうだ。体は当面──いや、おそらく元には戻る事はないだろう。この目覚めも束の間だ》


 《⋯⋯そんな⋯⋯》

 

 カガリス様の呆然とした感情が、オレっちにジンワリと伝わる。


 《すまない。⋯⋯私は、ザドキエルに敗れた。この下位世界にて奴に対抗できる者は、もはやいない。どれ程他の神が降りたとてザドキエルが健在である以上は──憑依するだけ無駄だろう》


 やっぱり。古き神々が全員憑依降臨してもダメなぐらいに、力の差があるんだ。


 《⋯⋯ですが、そのザドキエルも何やら様子がおかしいようです》


 ムーヴィ様が姐さん(光)に向かって膝を折りながら、そう告げた。


 《今までに集めた情報では、あちらの大陸でもザドキエルの姿はこの一年見えず、憑依神たちの統制も乱れているようなのです。もしかしたら、奴も強制憑依の反動で弱体化しているのかもしれません》


 《⋯⋯そうか。しかし、それでも神体を維持している者としていない者の差は大きい。それにザドキエルは、自分の親神たちに対しても敵意を持っている。場合によっては神界の方に現れるかもしれない》

 《⋯⋯!》


 《それを避けるためにも、この下位世界への干渉は断ち切るべきだろう。全加護種との加護契約を破棄し、直ちにこの地を放棄せよ》


 ⋯⋯エッ!?今なんて──フブル姐さん、全ての加護種との加護契約を破棄するって言った!?


 《そ、それは──!》

 《母神⋯⋯大神たちもそれを認めるだろう。他の神々にしても、神界こそが最も重要な世界であって、それ以上に大切な界は無い》


 《《《⋯⋯》》》


 モフ神たちは沈黙した。


 オレっちも、それは仕方ないと思う。かと言って加護を失うことは恐ろしい。

 だけど長い目でみれば全ての加護種が『人間』という素体に戻るだけの話だ。そうなったらそうなったらで、いずれはそれに適応していくだろう。

 だけど姐さん。ザドキエルがそれで引き下がるかな?


 「──方法が無いわけではありませんよ。貴女にその気さえあればね」

 「!?」


 白銀の髪と蒼とも翠ともつかない美しい虹彩の瞳を持つ長身のイケメンが、唐突に古き神々の話に割り込んできた。


 角持ちのイケメン──って、白の竜賢者のユーグラム様やんけ!!

 なんだろう⋯⋯都合よくこのタイミングでここに現れるなんて──しかも、何か方法があるって言った!?


 《⋯⋯竜神?いや、半分だけ⋯か》


 「失礼致しました、古き神々の尊き姫神よ。私は竜の半神であるユーグラム・ダンテと申します。さらに失礼を申し上げますと、私には貴女様の御神体を完全に復活させる(すべ)がございます」


 ユーグラム様は優雅な仕草で礼をとると、フブル姐さん(激しく点滅する光)をジイっと見つめた。


 《何だと!?神体を──しかも、末姫様級の神体を復活させる事ができるだと!?》

 

 フブル姐さんよりも、カガリス様の動揺の方が激しかった。


 《ユーグラムとやら⋯⋯その術とは、一体何だ?》


 先にカガリス様の感情的な反応をみたせいか、フブル姐さんの声は、逆に冷静だった。


 「我らの母にして全ての根源──竜母神より賜りし竜神器、《マグナ・マギ・ドラギアス》が、それを可能にするでしょう」


 竜の神々の竜神力の源である竜母神の神器!?それなら確かにフブル姐さんを完全復活させることができるかもしれない!


 だけど⋯⋯他神族の神力なんて、逆に危なくない?拒絶反応とか起こりそうだし。それに、絶対ナニか裏がありますやろ!?


 挿絵(By みてみん)

タロスに憑依したカガリスは、タロス本人よりも白っぽく、やや大人びた雰囲気を醸し出しています。

 第三十三話に、シャム猫獣人、レキュー先生のイラストを載せました☆

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