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第百九十二話 リチル〜最後のオチ

 なんだかいろいろあったが、ようやくリチルたちのコロニーを見学することができた。

 遠目でもある程度解ってはいたが、地上にあるどの都市よりもハイテクな街だった。


 どうやら短距離転移用の装置が特定の場所に設置され、それを使ってリチルたちは移動しているようだ。その他にも空を飛ぶ車やバイクがあり、オレっちはワクワク感で目を輝かせた。


 「とりあえず、観光用の無人車に乗ってコロニーの上空を飛んでみるチル!」


 チッ・チェさんはそう言って、客待ちのふよふよと地面から浮いている空飛ぶタクシーに近づいていった。


 「⋯⋯!?び、ビックリしたチル!あんたら、地上の加護種じゃないかチル!!」


 チッ・チェさんがどれにしようかと選んでいる最中、ちょうど別のタクシーから降りてきた客が、オレっちたちを見て驚いていた。


 「そうなんだチル。ちょっと事情があって──あっ、でも管理局からは許可が出てるチル!」

 「そ、そうなんだチル⋯⋯?」


 明るい朱色の両目を見開いて、名も知らぬ中年リチルは、オレっちとエイベルを凝視した。

 ミルトちゃんやチルドナに対しては「加護人?それとも人間?」と、判別ができないようだった。それでも同族(リチル)ではないことだけは解ったみたいだ。リチルと人間の外見上はほぼ同じだけど、そこの判別はつくらしい。不思議やね。


 とまあ、ちょっとした時間のロスがあったが、無事に空飛ぶタクシーに乗り込むと、チッ・チェさんは一気に上昇し、かなり上空で車を一旦停めて、眼下いっぱいに広がるこの地下都市(コロニー)の説明をしてくれた。


 「ボクたちのご先祖様が地下に移住した当時のコロニーの規模は、今の倍ぐらいはあったそうだチル」

 「今でも十分広いですケド⋯⋯その倍ですか!?」


 かなり上空で見下ろしても果てが見えないぐらい広いのに!?


 「その代わり、新しいコロニーが増えて活動域が増えたチル!」

 「なるほど!」


 そうか。ここはあくまで起点となる地だったから、長く住むうちにウルドラム大陸全域へとリチルたちは移住していったんだな!


 それにしても、山も川もあるし、よく造り込んであるよな〜。オーバーテクノロジー=魔法と言っても過言ではなさそうだ。

 その割に田畑がまったく見えないのは、食糧を自分たちで生産していないからなのだろう。つーか、せめて野菜ぐらいは自分たちで作れや!


 それから上空をゆっくりと飛行しながら、チッ・チェさんはコロニーでの暮らしについて、事細かく説明してくれた。


 転移システムは便利だが、住宅地と中心街を結ぶモノが大半で、思うほど使い勝手がいいとは言えないということ。

 最近は、工場などで稼働していたアンドロイドたちの寿命(メンテナンス出来ないほどの老朽化)が尽きて人手が足りないこと──などなど。


 ⋯⋯工場?⋯⋯アレ?リチルって、借りパクで生活してるのに、工場??


 そこをツッコんでみたら、意外なことに、コロニー民のほとんどの人々は、個人では借りパクしていないのだそうだ。

 借りパクは彼らの国家的な事業として、そういう専門の業者たちによって大量に集められ、毎日各方面へと卸されるという。


 キュ?じゃあ、なんでテル・デルさんは自分で食料を調達してたの!?


 チッ・チェさんは言った。『スリルと鮮度、そして時間の余裕があるからですチル。ボクも学生時代は、結構な頻度でやっていましたチル!』⋯と。


 そもそも個人で借りパクしてはならないという法律は無く、体力やスピードに自信のある者、時間を持て余している者たちの多くは、フツーにやっているとのこと。そのほとんどが、人間で言うところの十代か二十歳前後の若者ばかりなんだそうだ。

 つまり、就職前の世代。あ、ちなみにリチルたちの平均寿命は、180歳前後だった。


 そう。借りパク文化=オール無職というのは、オレっちの思い込みだった。


 考えてみれば、個人で毎日物資をパクるって結構キツいよな。毎日地上に行くのも面倒だし、欲しい物が絶対に手に入るとは限らないし、自分たちのサイズに合わせて加工する必要もあるし。


 ⋯⋯そう考えると、元手はタダでも結局はコストや手間が掛かるんだ。それなら専門業者に任せて代金を支払う方が楽か。

 ふ~ん。よーするに、物と金の等価交換という経済的な循環は、地上と同じなんだ。


 でも、個人で頑張って借りパクしていけば最低限の生活はできるし、ニートでもやっていけるのでは?⋯⋯なんて、甘いことは無かった。


 全コロニーの基本法として、成人後は働かざる者食うべからず⋯⋯もとい、『一定の社会的義務』が課せられているのだ。この法律がある以上、どんな形にせよ、労働力として社会に貢献(つまり納税)しなければならない。


 なまじ文明が高い分、コロニー内での監視や監理がキッチリしているから借りパクニートでゴロゴロするのは無理か。


 「う~ん、でも⋯⋯ちょっとやり過ぎじゃないですかね?」

 

 そこはいろんな生き方があるし、ギリギリでやっていくのも個人の責任ってことで良さそうなもんだが。

 

 「イヤイヤ、そうでもしないとダメなんだチル!だって──」


 チッ・チェさんの話によると、この星の地下に移住した当初は、人工知能を持つドローンやアンドロイドなどが主力となっていたおかげで借りパクニートが爆発的に増えても、特に人手が足りないとかいう問題は起こらなかったそうな。

 だが、数千年、数万年と年月が経つにつれ、そうした人工物たちを支える資材が枯渇し、その上、メンテナンスする技術者たちも激減していたのだとか。(メンテナンスもアンドロイド任せだった)


 そして、とうとうインフラさえまともに維持できなくなり、文明は大きく後退したという。


 それからだ。一度痛い目を見たリチルたちは、これ以上の文明の衰退を防ごうと必死になり、法を新しく制定した。

 それが『一定の社会的義務』だったのだ。それでも、借りパクがコロニー経済を支える基盤であることには間違いないが。




 チルチルチルチ〜♪チルルルル〜♫


 ん??なんだ、この妙なリズムの音は!?


 「あ、ちょっと失礼するチル!」


 そう言ってチッ・チェさんが、小さな機器をズボンのポケットから取り出した。すると、その機器の画面上に、青色のショートカット髪の女性が映っていた。 


 「あ、リン・リルかチル!え、いつ帰ってくるかってチル?う~ん⋯⋯今はちょっと何時になるかわからないチル!後でそっちに連絡するチル!」


 薄い板状の映像付き電話──って、それ、思いっきりスマホやんけっっ!!


 「失礼したチル。今のはボクの妹チル。これは、携帯型の通信機器チル。昔に比べるとだいぶ機能が単純化⋯⋯ショボくなってるチルけど」

 「ええっ!?通信魔導器を個人で持ってるなんてスゴくない!?まあ、アタクシも賢者の特権として持っていたけれど⋯⋯」


 チッ・チェさんの真後ろ席に座っていたミルトちゃんが、驚いた様子でそう言った。


 いや、確かに今世ではスゴいんだけど、仮にも元宇宙人である彼らの文明レベルとしてはどうなんだろう?


 「でも、大昔はもっと便利な機器があったチル。特殊な金属が枯渇した上に技術も退化してきているから、今はもうこの程度のレベルなんだチル⋯⋯」

 「あの、それは魔素金属じゃ作れないんですか?」


 オレっちは、チッ・チェさんに訊いてみた。


 「うん。魔素金属とボクらの技術は、基本的に相性が悪いんだチル。魔素のせいで上手く精製できないチル。だからこういう機器も、今では過去の物をリサイクルしてどうにかしてるんだチル」


 あ〜、魔素を含まない金属でないと製造できないのか〜。でも、この星は元から魔素有りの星だから⋯⋯魔素を全く含まない金属なんてほぼ無いわな。


 「あっ、そうだ、昼食!ちょっと遅くなったチルけど、これからとっても美味しいお店に案内するチル!」

 「わぁ!楽しみねー!」

 「そうだね〜!」

 「⋯⋯それは、味覚の無いわたスへの嫌味ですかね?」

 「そこは気の毒だけど、雰囲気だけでも楽しんでみたら?ほら、見てるだけでもお腹いっぱいになる時ってあるじゃない?」

 「⋯⋯」


 ミルトちゃん⋯⋯何気にヒドいな。だけど、どーせ見た目はどれも団子ばかりだし、ある意味、食欲はそんなにわかないかも。




 とか思ってたのに──


 えっ、どういうこと!?


 空飛ぶタクシーを降り、チッ・チェさんが案内してくれたお店のタッチパネル式メニュー画面には、普通の定番料理が映っていた。

 ハンバーグにパスタにラーメン、カレーに丼ぶりもの──全部、フツーの見た目やんけっ!!


 「えっ、今までの料理チルか?あれは、お祝いの時やお客様のためのおもてなし料理チル。丸い食べ物は縁起ものだから手間を掛けてわざわざ丸めてるんだチル!」

 「!??」


 ⋯⋯ここに来て一番の衝撃的な事実だったかもしれない。


 お・も・て・な・し──そうか。今までのソレは、客人用だったのか。

 

 多少のショックは受けたものの、オレっちたちは人目を気にしない個室で、美味しい料理を堪能した。

 ちなみに支払いは、タクシー代も飲食代も全てチッ・チェさんがリチル式電子決済で支払ってくれた。チッ・チェさん、ご馳走さまでしたっ!!






 ◇◇◇◇◇


 「転移先は、小獣国の地下にあるコロニーチル。そこは首都(マルガナ)の真下だから、そこからは地上エレベーターに載って地上に出るチル。アッチにはすでに連絡してあるから、心配しなくても大丈夫だチル!」

 「チッ・チェさん──ここまで本当にありがとうございました!!」

 「本当にね。もし貴方と会わなかったら今頃は⋯⋯最悪な事になってたかもしれないわ」

 「うん〜。ホントだね〜!チッ・チェさん〜、お世話になりました〜!」

 

 オレっち、ミルトちゃん、エイベルは感謝を込めてお礼を言った。チルドナは──アカン、そっぽ向いとる!コイツ、ホントに最後の最後まで空気を読まんヤツだな!!


 「いや〜!ボクも加護種さんたちとこうして話せることができて、良い経験になったチル!なにせ、初めて地上の加護種と話せた歴史的な出来事だったチル!それに、これからも互いに連絡を取り合う事になったし、また会えるチルよ!」

 「そこも感謝してます!ウチの神様たちが復活したら、それも含めてまた連絡しますね!」

 「待ってるチル!」


 こうしてオレっちたちは、チッ・チェさんとお別れした。

 それからマルガナ地下のコロニーへと転移し、向こうのリチルに案内されながら、地上行きエレベーターへと乗りこんだ。


 そして、何日かぶりに地上へと出た先は──


 「⋯⋯なぁ、エイベル。ここって、ものスゴ〜く見覚えがある気がするんだけど?」

 「うん〜⋯⋯知ってるね〜。だって〜この倉庫の並び方は〜」


 元のサイズに戻って着いた先を見渡したオレっちとエイベルは、ズラッと並び建つ大きな倉庫群を見て、少し動揺してしまった。まさか。いや、でも、そんな──


 しかし、倉庫前の鳥浮舟用の広い発着場を見て確信した。


 おい。ここ、ウチのお屋敷やないかいっっ!!

第29話にモブラン先生&アラン、第154話にペナルシーのイラストを入れました☆

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