第百九十一話 こっそり、ひっそりと!
「魔素の影響?今はもう無いチル。この惑星に移住した時代に外見を含めた肉体改造をしたチル!」
「キュ!?姿を含めての!?と、いうことは──」
「そうチル。記録に残る我々の元の姿は⋯⋯え~と、こんな感じだったチル!」
そう言うと、近くにあったテーブル上のメモ用紙に、サラサラと何かを描き始めた。
「できたチル!」
チッ・チェさんは静かに筆を置き、メモ用紙を一枚切り取った。
それを見たオレっちの感想は──
「随分と⋯⋯シンプルなお姿⋯ですね?」
「余計なモノを省いた究極の姿とも言えるチル!」
ああ、うん。目だけがデカい、髪もなく体毛も無く、ストーンとした体型の⋯⋯って言うか、コレ、前世の宇宙人そのものやんけ!!
ビックリした。まさかこの異世界でも、ザ・宇宙人の王道が存在していたとは!
そうか。コレから肉体改造をして今の姿に⋯⋯
「姿形はそう難しくはなかったらしいけど、魔素を無効化するのには苦労したと聞いたチル」
「無効化⋯⋯魔素に対する耐性や取り込む器官を作るんじゃなくて?」
「そうチル。そもそもボクたちには、魔力が⋯⋯魔力器官自体が無かったチル。そのおかげで肉体的には魔素による悪影響も無かったチルが、精神の方は、少しばかり影響を受けたチル」
「精神的な影響?」
「ハイになったり鬱になったり⋯⋯自分ルールを作って苦しむ者もいたそうだチル」
「自分ルール??」
なんじゃ、それ??
「常に左足から一歩を踏み出すとか、線の上をはみ出さずに歩くとか、決まった食べ物しか食べないとかチル!」
ああ、ルーティンの行き過ぎ版か!!
「自分の意思なのかそうでないのか⋯⋯自分でもよく解らないまま心を病むんだチル。だから、今のボクたちの脳はそこがおかしくならないようになってるんだチル!」
ホエ〜、ビックリだチル!⋯って、語尾が伝染っとるやんけ!!
「タロス〜!虹だよ〜、虹〜!」
「キレイねー。ここが地下だなんてホントに信じられないわ!」
「ふ〜ん。魔法や神術無しにしてはよく作り込んであるなあって、感じですかねー?」
施設内の応接間は吹き抜けになっており、上の階にいたエイベル、ミルトちゃん、チルドナたちが外の景色を見て、キャッキャッと楽しそうにはしゃいでいた。
いやいや、オレっちは今それどころじゃなくて、いろいろと思うところがあって大変なんですよ!
は〜、やっぱ惑星移住って大変だったんだな。オーバーテクノロジーを駆使しまくってなんとかした当時のリチル星人たちの苦労が忍ばれる。
まあ裏を返せば、他に移住できそうな星も無かったから苦渋の末の選択だったんだろうが。他に行くあてがあれば、神とかいうよくわからん存在がいた星には降りてなかっただろう。
◇◇◇◇◇
「テル・デルと申します!その節は、お世話になりまスたチル!お礼も言えず逃げてスまって、申し訳なかったチル!」
「いえいえ、あの時はお互いに意思の疎通もできなかったし、仕方ありませんでしたから」
小人さんたちのお偉いさんたちの前に会って欲しい人がいると、チッ・チェさんが応接室へと連れてきたのは、あのアナナグラのモグランの家で遭遇した小人──テル・デル・リチルさんだった。
「いや〜!欲張ってチーズを大きく切り取ろうとスたら、それごと下に落ちちゃいまして!ホントーに助かりまスたチル!」
「⋯⋯。あの、あれからお体は大丈夫だったんですか?」
結構な高さから落ちてたと思うが。
「はい、チル!テルは丈夫ですから!それにスても連絡を受けた時は驚いたチル!まさか、あの親切な加護種さんがテルたちと同じサイズになってるなんてチル!」
素朴な顔をニコニコさせながら、テル・デルさんは言った。見た目は成人前後の青年だが、内面はどこか子供っぽい。だって一人称が「テル」だもん。
それはともかく──そうか。きっとコロ・コロさんたちが、例のヒヤリハット提出者を調べて連絡したんだな。
「テル・デルは、大陸北東にあるラモグラン道のコロニーの学校に通っている学生なんだチル!」
「今回はお礼も言いたかったけど、地上の加護種さんとも一度お話をスたかったチル!いつもは遠くから眺めるだけだし!」
遠くから眺める⋯⋯要するに、加護種たちの行動を観察してるのか。なんたって彼らが外出した隙を狙って借りパクしてるもんな。
「あっ、そうだ!これはお礼の品ですチル!」
テル・デルさんが持っていた紙袋から取り出したのは、キレイに包装された正方形の箱だった。
「これは、コロニー定番のお菓子チル!」
「あ、ありがとうございます!」
へー、小人さんたちの定番のお菓子か。この施設でも食べ物(スープの具まで含めて)は、どれもマン・マルさんが作ってくれたような団子状のモノばかりだったけど、さすがにお菓子はどうなんだろうな?
「あっ⋯⋯!そろそろコロニー長たちが来る時間だチル!」
チッ・チェさんが、時計を見て慌てだした。
「じゃあ、ちょうど良いから皆さんで食べてチル。タロスさん、本当に助けてくれてありがとうチル!」
「そう大したことはしてないんですが。オレも、テル・デルさんと再会できて、ホントに嬉しかったです!」
「チルル。また何処かでお会いできるといいチルね!」
そう言ってテル・デルさんは、手を振りながら応接室を出て行った。
オレっちは「そうですね、また何処かで!」とは言い返さなかった。そう言ってしまうと、なんだかまた彼らの借りパク中に遭遇して『ヒヤリハット再び!』⋯⋯なんてことになりそうだったから。
やはり彼らの存在は、公にならない方がいいと思う。加護種にしても人間にしても、皆が皆、善人ではない上に、彼らがひと欠片の魔力を持っていないと知られると、差別的な扱いを受けるかもしれないしな。
イメージ的に、鳥籠や虫籠に閉じ込められるリチルたちの姿がボヤンと浮かんできた。⋯⋯うん。闇組織の連中なら、こんな感じで彼らを売りそうだ。
「⋯⋯チーズの下敷きって⋯⋯」
「でも〜この体のサイズだと〜チーズは〜大きな石みたいな感じ〜?」
応接室のソファにはすでにエイベルとミルトちゃんが並んで座っており、テル・デルさんと会話するオレっちとチッ・チェさんを黙って見つめていた。その間、いろいろとツッコミたいことがあったのだろう。二人とも微妙な表情をしている。
「わたスのスキルがあれば、そのチーズも小さくできるもんねー」
チルドナはそう言って、一人掛けの椅子に深く座りこんでふんぞりかえっていた。
あー、ハイハイ。チルドナさんの神スキルはとっても便利ですよ〜〜
コンコン!
キュ、お偉いさんたちが来た!?
「チルチルチル!初めましてチル!」
ガチャっと扉が開き、三連チルで現れたのは、もじゃヒゲの恰幅のいいオッサンリチルだった。
その後に続いて、リーマン風のオールバック頭の中年と、長髪の若い女性が応接室へと入ってくる。
「チルチルチル!吾輩は、この中央コロニーのコロニー長である、ドン・ダンだ、チル!」
ドン・ダンさんは自己紹介しながら、突き出た腹をさらに前へと突き出してきた。
「お、オレは、カリスのタロスと申します!」
名のりつつ、オレっちの目は、ドン・ダンさんの顔ではなく、その突き出た腹と水色のもじゃヒゲばかりにいってしまった。
「私は、ウルドラム大陸全コロニー統括局の事務局長であるエス・エルと申しますチル」
無表情であるが柔和な声をしているエスさんが、ペコリと一礼した。
「ぼ、僕は〜エイベル・チュラーです〜」
「アタクシは、ミルトレーカ・ヴァルパティ です!」
エイベルたちはソファから立ち上がって、こちらもまた、ペコリと頭を下げていた。
「タロスさんにエイベルさん、ミルトレーカさん──ですか。わたくしは、地上観察局の副局長であるフル・フルですチル!」
淡いオレンジ色の長い髪を背に流したフル・フルさんが、微かな笑みを浮かべてオレっちたちを見ていた。上下の白いスーツが違和感なく似合う。いかにも育ちの良さそうな上品な所作の女性だ。
「え~と、ボクは、今回の件を報告した樹海研究員のチッ・チェと申しますチル。とりあえず、皆さん、空いている席に腰を下ろしてリラックスして下さいチル!」
◇◇◇◇◇
カチャ、カチャ。
お茶が入った茶器が、チッ・チェさんの手により、それぞれの前に置かれる。そして、その中央には、テル・デルさんがくれた虹のような七色の丸いお菓子の山が、デーンと皿の上に置かれていた。
小さな丸いお菓子──そう。定番の菓子まで、ひと口団子型だった。どこまでもブレないリチル食品。
「チルチルチル!そうチルか、この方のスキルでそのサイズになったと!」
「そうですよー!わたスのスキルがあればこそ、ここまで来れたんですからね!」
「さすがは神ですわチル!ご先祖様の残した記録通り、私どもの科学力でも理解できなかった摩訶不思議な存在!」
「フフン!」
ドン・ダンさんとフル・フルさんに持ち上げられたチルドナは、いい気になっていた。謙虚のケの字もないふんぞり方。
コイツ⋯⋯名のりもせず挨拶もせず、椅子に腰を下ろしたままだったから仕方なくオレっちが代わりに紹介してやったのに⋯⋯ムカつくな!
おっと、今はそんな場合じゃ無いか。
それからオレっちは、これまでの経緯とこれから先、地上がどうなるか解らないことを彼らに伝えた。
「確かに、地上は混乱するでしょうね」
エス・エルさんが、フウッっと息を吐いた。
「チルチルチル。そしてそれは我々にも無関係ではないチル。その昔に起こった極度の物資不足に、また陥るという事だチル」
「でも⋯⋯暗黒期ほど酷くはならないんじゃないかしら?どちらかというと竜の神々の降臨前にあった古き神々の争いの時の状況に近くなると思いますわチル」
フル・フルさんが茶器を持ち上げながら、そう言った。
「だと思われますチル。物資の調達に波がある点では大変ですが、暗黒期ほどの物資不足にはならないでしょうチル」
最終的に、エス・エルさんがそう結論づけた。
三人の会話から察すると、極度の物資不足というのは、魔素濃度が高まって人間たちの頭がおかしくなった時代のことだろう。
まあ、物資の生産や流通させている人間たちの活動が止まったら困るわな。基本、彼らの生活は借りパク文化で成り立ってるから。
⋯⋯チッ・チェさんも以前言ってたけど、数万年もの間続けてきた借りパク文化を捨てて、今さら自分たちで全てを賄うなんて無理か。
「どちらにしても、私共はこれまで上の世界の争いに関しては関与してきませんでしたチル。ですが、その争いが早く終わってくれる事は願っていますチル」
「チルチルチル。こうして地上の加護種である貴方方とお話できたのも何かの縁。我々で協力できる事があれば、こっそりとお助け致しますチル!」
「あくまでも、内密でひっそりとできる範囲内ですけど!ホホホ!」
「──あ、ありがとうございます!!」
これから先どうなるかわからないが、ひっそり、こっそりとはいえ、リチルたちの協力を得られたことはこちら側にとってはプラスとなるだろう。やったね!!
第百七十三話にタロスとエイベルの人間バージョンのイラストを入れました。
モフ神たちがメインで体を動かしていないので、素体のままです。モフ神たちは、この素体の上に美形度+頑丈さをアップさせて使っています。




