第百八十九話 この星のことは宇宙人に訊け(後編)
しかし、オレっちは好奇心に勝てなかった。そして、ここまで聞いたんだから最後まで聞くべきだとも思った。
「まあ、さすがのご先祖様たちでも、それがこの星における何度目かの神の降臨だったのか、あるいは初めての降臨だったのかまでは解らなかったようだチル。ただ、神々と呼ばれる上位次元の意思体が降臨した時に、人間という異種を持ち込んだのは間違いなかったチル」
「あの⋯⋯この星で創ったという可能性は?」
猿魔獣を改造したとかじゃ無いの!?
「ボクたちのご先祖様が彼らの遺伝子と魔獣の遺伝子を調べた結果、その可能性は無いと結論づけているチル。それ程にゲノムが違っていたチル」
「⋯⋯」
つまり、オレっちたちの祖先は、本当に外から持ち込まれた種だったのか。まあ確かに、一から創るよりはすでにあるもんを持ってくる方が早いけど。⋯⋯となると、もともと魔法が使えるタイプの人類だったのかもしれないな。
「そして当時の神々は、人間たちが繁栄していく為にウルドラム大陸を大改造したチル。それまで大陸中を覆っていた樹海は一部を除いて消されてしまったし、逆にこちら側の大陸は、一部だけが消されたチル」
「どうしてコッチの方は一部だけだったんでしょう?」
「もともとの生態系をある程度は残しておくべきだと考えたのか⋯⋯それとも単なる降臨期間の時間切れだったのか──多分、後者だと思うチル。実際、当時の過剰魔素期は短かったチル」
あー⋯⋯それで中途半端になっちゃったんだ〜。でも、それ以降に降臨した神々──うちのカガリス様たちも、なんで残った樹海を消さなかったんだろう?こっちの大陸は次元穴があったせいだとしても、ウルドラム大陸の方は完全に消せたハズなのに。
⋯⋯また謎が増えたな⋯⋯
「なにはともあれ、樹海が残ったことはボクたちにとってはありがたい事だったチル。樹海の固有種たちは面白いんだチル!植物でも動物でも突然変異が多くて!!それに、これ程の弱肉強食世界なのに、ご先祖様たちが最初に観測して以降の記録では絶滅した種は一種も無いんだチル!これは驚くべきことチル!!その理由は──」
あ。樹海オタクスイッチが入っちゃった!それはそれで興味あるけど、それより訊きたいことがまだまだあるんですよ!
「え~と、それはまた今度で!それより、ラモグラン神の遺した聖遺物のことをお訊きしたいんですけど!」
「えっ、そんな事まで知って!?ああ、ラモグラン神も古き神々だったチル。でも⋯⋯あの聖遺物に関しては、ボクも──いや、ボクだけじゃなく他の皆も詳しくは知らないチル。知ってる事は、ご先祖様たちが乗ってきた宇宙船と同じ場所にそれがある事ぐらいチル」
「宇宙船!!そ、それはどこに!?あ──別にどうこうしようというワケでは無くて、単に興味があるだけなんですけど!」
などと言いつつ、今のこの大きさなら見学できるかも!?⋯と、淡い期待を持つオレっち。
「場所はともかく、見ることはできないチル。あそこは聖域だから。出入りできるのは各コロニーの代表と高名な科学者、後はメンテナンスする技術者だけチル」
「⋯⋯そうですか⋯⋯」
う~ん、残念!!宇宙船なんて前世でも見たことが無かったから、すんごく興味があったのにぃ!!
「聖域自体は、ボクたちの第一研究所があるウルドラム大陸の樹海の地下に近いチル。もちろん聖域の方はもっと深いし、休火山の近くにあるけどチル」
「休火山⋯⋯?って、樹海の中に火山があるんですか!?」
ビックリだよ!!樹海って、山とかもあんの!?
「普通にあるチルよ?山も川も、湖も。あまりにも周囲に生えてる木がデカいから見えないだけチル」
⋯⋯そっか。木が高過ぎて外からは見えんのか。なるほど、なるほど。
「でも何十年かに一度、宇宙船のメンテナンスでエンジンを起動させるんだけど、樹海の地下深くにまで伸びてる木の根が連動しちゃって、地震が起こっちゃうんだチル」
「地震⋯⋯?」
キュ!?
まさか⋯⋯オレっちが小獣学校に入学した時に起こった地震って、宇宙船のメンテナンスの余波だったってこと!?マジで!?
「地震の影響を受ける人たちには申し訳ないけど、メンテナンスしておかないと、いざって時に宇宙船が使えないチル」
「いざという時⋯⋯この星から離れる時が来るかもしれないってことですか?」
「そうチル。かつての母星の時のようにとんでもない大きさの隕石が衝突してくる可能性もあるし。過剰魔素期であれば、降臨してくるどこかの神々が防いでくれるかもしれないけど」
──まさかの神頼み!
「でも、そう都合よくタイミングが合うとは限らないチル」
「⋯⋯そうですね⋯⋯」
ってか、ソッチの方が可能性が高いわな。でもその場合、オレっちたち加護種はどうなるんだろう?彼らのように宇宙船で脱出することもできないし、魔法やスキルでは宇宙からの災害に太刀打ちできない。この星と共に滅びるしかないのかも。
そう考えると、この星に留まり続けるフブル姐さんの存在がとてもありがたく感じる。神々の中でもトップクラスの神力を持つ姐さんなら、隕石なんぞすぐに消せるだろう。⋯⋯そーいう意味ではザドキエルもそうだけど。
フブル姐さん⋯⋯ホントに大丈夫なのかな。それに、キュリムさんとトニロームさんは──
オレっちたちを逃がしてくれた彼らの最期を思うと、気持ちがズーンと沈んだ。
憑依神たちや樹海の魔獣たちから逃げるのに必死で、彼らの死を悼むこともできなかった。姐さんの眷属の魂は、姐さんのもとに還るという。だとしたら、姐さんが回復すれば彼らも──都合のいい話かもしれないが、オレっちはそうだと思いたい。
これから先も不安だ。フブル姐さんの復活がいつになるかわからないし、ザドキエルの精神的支配を受けたニナさんがあれからどうなったのかも気になるし、カガリス様やヴァチュラー様の受けたダメージも大きい。
なんとか逃げ切ったメンバー⋯⋯小賢者とはいえミルトちゃんはまだ子供だし、オレっちやエイベルはたいした戦力にはならない。そうすると、普通に考えてチルドナが一番頼りになるところだが、アイツは神力とスキル以外じゃポンコツだ。
ここはやはり精神的な大人であるオレっちがこれからのことを考えないと⋯⋯
⋯⋯。⋯⋯。アッ──
シルジーさんのことを、すっかり忘れてた!!!
◇◇◇◇◇
☆ シルジー視点 ☆
⋯⋯どうやら、あたしだけこの街に取り残されてしまったらしい。
キュリム老、トニローム──よく、姫様とあの子たちを守ってくれたね。アンタたちの頑張りは無駄にはしないよ。
でも、眷属間の繋がりが感じなくなっても、不思議と喪失感は無いんだ。それもそうか。だってアンタたちは、姫様の中で生きているんだからね。
主である姫様との眷属共鳴が起こった時、あたしも参戦しようと願い出た。けど、姫様からその許しは出なかった。
その判断が正しいかったと思ったのは、眷属共鳴でキュリム老やトニローム、ミルト嬢ちゃんとの情報や視覚の共有が絶たれた時だった。姫様からの神力供給は無くなり、弱いながらも辛うじて姫様との繋がりだけが感じられた時、あたしは悟った。
姫様が命の危機にひんし、何らかの方法でどうにか延命している状態なのだと。
そもそも、今回のメンバーの中で一番戦闘力の低いあたしが参戦したところで結果はたいして変わらなかっただろう。あたしは、もともと加護種である他のみんなとは違って基礎能力が低い。元がただの人間だったせいだ。
姫様の神力が供給されている状態ならともかく、魔力が多いだけの人間であるあたしが役立つことといえば、生来持つ闇スキルだけ。地中に何でも収納できるこのスキルは人間に対しても効果はあるが、憑依神相手だと未知数だった。だからこそ、いざという時のために城の外で待機してたんだけど。
これからどうしよう⋯⋯。とにかく、姫様が復活されるまではこの地にいるしかないって事だよね。仕方ない⋯⋯その間、この国の情報を集めておこう。幸い、あたしは少しばかり肌が白いだけの彼らと同じ人間だし、そう目立つこともないだろ。
そうと決めたら、とりあえず生活する基盤を作らないとね!そのためには先立つものが必要だけど──う~ん⋯⋯ウルドラム大陸のベルビーは使えないだろうから何かを売って換金するしかないわねぇ。
「⋯⋯あら?」
あ⋯⋯姫様の簡易空間が使えない!?マズイ!これじゃあ、あたしの財産が取り出せないじゃないの!!
⋯⋯。⋯⋯こうなったら住み込みの仕事を探すしかないか。まあ、こうみえても556歳。姫様に助けられるまでは地獄だったけど、その後は自由に生きて社会の表も裏も知り尽くし、マリアベル王国やパールアリアでいろんな職を暇つぶしがてら体験してきたあたしだ。たとえ大陸は違えど人間の街なんてそれ程大差ないだろうし。うん、きっと何とかなるわ!
「あ〜、うちは今、従業員の募集してないから。え、住み込みの仕事?う~ん、どこかにあると思うけど、アレコレ理由をつけて給金から引かれるからあまり稼げないと思うよ?それよりアンタ、せっかく珍しい白い肌をしてるんだから、色気のある接客業なんてどうだい?店によっちゃあ短期間で稼げるよ?」
「⋯⋯」
いや、あたしは普通に稼ぎたいんだけど⋯⋯って、やっぱりこの肌色だと白過ぎるのか。薄い肌色の連中もいるけど、ここまで白いのはいないみたいだしねぇ⋯⋯でもさ、容姿うんぬんじゃなくて色白だから?それってどうなのよ!?
そこそこ繁盛してる飲食店のオーナーに雇ってもらえないかと頼んだのだが、なぜか水商売を薦められてしまった。
500年以上生き、メイドや女優、占い師に装飾店のオーナまで幅広くやってきたあたしだが、そうした商売に向いてるみたいに言われたのは生まれて初めてだ。⋯⋯仕方ない、他を探そう。
「⋯⋯ん?」
ふと、店の向かい側の壁に貼ってあった『団員募集中』という大きなポスターが目に入った。どうやら、サーカスの求人広告らしい。
サーカス⋯⋯サーカスか!そうか。サーカスなら住み込みOKだよね!さすがに経験した事は無いけど、あたしの闇スキルなら手品まがいのことができるし──ええい、一か八かで行ってみるか!!
「ホウホウ!こりゃ珍しいスキルだな。何も無いところから人や物が飛び出す演出ができる!──よし、採用だ!!」
小太りな壮年の男が、瞬時に地中に出し入れできるあたしの闇スキルを見て、歓喜の声を上げた。
やったわ!これで当座の生活を確保できる!!
長く続けられるかどうかはわからないけど⋯⋯今は良しとしましょ!
「早速だが、今夜の興行でやってみようか。おい、誰か『大毛玉』を呼んできてくれ〜!」
「大毛玉⋯⋯?」
ここの団員の芸名かしら?大きくて頭がモサモサしてるとか??
首を傾げて待つこと三分──その呼び名の意味がわかった。
──大獣人じゃん!!
確か⋯⋯大型の熊魔獣に似てるグリズとかいう加護種だったっけ!?
「団長〜、オーレのこと呼んだ〜?」
ノソノソと巨体を揺らしながら灰色毛の大獣人が近づいてきた。
「ああ!今夜の演出を少しばかり変えることにしてな!いや〜、お前みたいなデカいのが突然客席から現れたら、観客も度肝を抜くだろうな〜!反応が楽しみだ!!」
「よくわかんねーけど、楽しいんだったら何でもいいや〜〜」
ああ、なるほど。そういう演出なのねっっ!
第四十九話の誘拐事件以降、お久しぶりの大毛玉こと、ブーオン・グリズ。今、この大陸にいる大獣人は、彼のように闇組織関係で犯罪奴隷として売られた者たちだけです。
本来なら樹海内の鉱山行きでしたが、サーカスの目玉が欲しいと役人に掛け合った結果(実際は賄賂)ここに売られてきました。芸らしい芸もできませんが、物珍しさで人気を博しています。




