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第百八十八話 この星のことは宇宙人に訊け(前編)

 「ほえ〜⋯⋯古き神々の加護種には、ボクたちほど小さくなれるスキルがあるのチル?ビックリしたチル!」


 ほっそりスリムな体型、淡い鳶色の短髪に琥珀色の瞳、その両目に黒縁眼鏡をかけた樹海専門小人研究員、チッ・チェ・リチルさんが、オレっちたちに赤褐色のお湯──多分、紅茶かな?を淹れてくれながらそう言った。


 「いえ、それはわたスの『神』としてのスキルであって、古きなんとかのそれではないです!!」


 チルドナは、ここぞとばかりにマウントを取ろうとした。


 「あー⋯⋯そちらの神さまのスキルでしたチル?なるほど、成る程!」


 チッ・チェさんは驚くわけでもツッコむわけでもなく、淡々とチルドナのマウントをスルーした。


 さすがは宇宙人。いや、魔力も加護も持たない者の強みなのか?神という存在は頭では理解しているが、身近に感じない分、特に畏まることもないらしい。


 「それにしても、地上がまた荒れそうチルね⋯⋯」

 「あの⋯⋯地上が荒れると、地底も困るんですか?」

 

 考え込んだ様子のチッ・チェさんに、ミルトちゃんが訊ねた。


 「困りますっ!」


 チッ・チェさんは即答した。

 

 「ええっ⋯!?」

 「そ、そんなに〜困るんですか〜?」

 「ええ、本当に困るんですチルっ!!」


 チッ・チェさんが、そう叫んだ。彼らのやり取りを見ながら、オレっちもまた、心の声で叫んでいた。


 (そりゃ困るやろーな!!)


 エイベルやミルトちゃんは、彼らの生態をまだ知らない。地上が混乱すると、今ほど楽に食料や物資の借りパクができなくなるから、彼らにとっては死活問題なんだよ!


 さて、ここで説明を一つ。チルドナはわからないが、ミルトちゃんとエイベルは、チッ・チェさんを『地底人』だと思っている。なぜなら、チッ・チェさん自身がそう説明したからだ。


 おそらく、宇宙人だと言っても今の加護種たちには意味が解らないだろうとでも思ったのだろう。 なにせ加護種たちの認識だと、宇宙=死の(そら)だからな。そこからやって来た生命体だと言っても、理解し難いに違いない。


 そうして隠し通すチッ・チェさんとは違い、オレっちはこれまでの経緯を隠さず、彼に全てを話した。

 正直に話しても問題ないと思ったのは、チッ・チェさんのステータスを視たからだ。


 その結果、かつて遭遇したアナナグラの小人さん(名前ど忘れ)と同じく、彼もまたリチル星人であった。

 あの小人さんのステータスと違う点は、樹海を専門に研究している学者であることと、彼らリチルが基本的には地上の人間にその存在を知られたくないという記述が、ハッキリと書いてあったことだ。


 そもそも彼らは、古き神々が降臨する以前にこの星を支配していた神族の情報をも知っている。ここで全てをぶっちゃけたとしても、彼らにとっては以前にあった神々同士の争いがまた起こってるんだなぁ⋯⋯ぐらいの認識でしかないのだ。

 何よりも、チッ・チェさんは研究者らしく好奇心旺盛だが、口は固いとも書かれていたし。


 「しかしまぁ、神さまにこんなものぐらいしかお出しできなくて、本当に申し訳ありませんチル。加工品を含めた備蓄をちょうど食べ尽くしたところだったので」

 「いえいえ!わざわざ用意して下さって、こちらの方が逆に申し訳ないです!!」


 オレっちは、あわてて礼を言った。そもそも人形体であるチルドナは食べる必要が無いから気を使う必要もナッシングですよ!!


 「でも〜これ〜、甘くて美味しいです〜〜」


 エイベルは、よくわからない乾物をムギュムギュ噛みながらそう言った。

 確かに、噛めば噛むほど甘みが出て美味しい。カガリス様たちの簡易空間が使えない今、腹ペコのオレっちたちには口に入るものがあるだけでもありがたかった。


 「これは、樹海に実っている芋もどきチル。見た目はキュウリに似てるけど、実際に食べると芋の味がするチル。さすがにそのままじゃ美味しくなくて、塩漬けにして干してるチル!」

 「へー⋯⋯樹海に自生している特殊な木の実なんですね」

 「そうチル。樹海に生えているだけあって、実をつけるために最低でも魔獣を2体以上は捕食するチル。その割には、あまり肉っぽくない味チルが」

 「⋯⋯」


 魔獣を滋養にした味がコレか。確かに、どの辺が魔獣味なのかわからんな。


 「あの⋯⋯ところで、チッ・チェさんは、お一人でここに?」

 「今はボク一人だけど明日には二人増えるチル。ボクはその二人と交代するから、その時に皆さんをアチラの大陸へとお連れするチル」

 「あ、ありがとうございます!!」


 やった!ウルドラム大陸に戻れる!!──って、どうやって?そして、大陸のどの辺りに?


 「え~と、それはありがたいんですケド⋯⋯あの⋯⋯どうやってアッチの大陸まで行くんですか?」

 「君たちと同じチル。ウルドラム大陸と繋がっている転移装置があるチル」


 キュ?魔力も無いのに??⋯⋯あ、そっか!科学による転移か!


 「じゃあ、その行き先となる貴方たちの国は、どの国の地下にあるの?」


 芋もどきを食べ終えたミルトちゃんが、オレっちが次に言おうとしていたことを訊いてくれた。


 「国というか──幾つかあるコロニーの一つチル。ボクの住んでる第1コロニーは、大陸中央⋯⋯君たちが『ウルドラ』と呼んでいる国の地下にあるチル」


 竜人国に!?


 「ということは──聖竜都⋯⋯ヴァシュラム・ルアの地下にあるということですか!?」

 「そうチル。コロニーは、各大都市の地下か、各地のラモグラン道付近にあるチル!」

 

 あー⋯⋯。食料や物資があふれている大都市ほど借りパクしやすいところはないもんな。

 ラモグラン道は、地下仲間のラモグラン神関係だとは思うが──あ!そうだ!!この際、他にも訊いておきたいことが山程あるから訊いてみよう!

 う~ん⋯⋯でも、ミルトちゃんやエイベルの前では訊きづらいな。また後にするか。


 「とにかく、ウルドラム大陸に戻れるのね。あ⋯⋯安心したら眠くなっちゃった⋯⋯」


 ミルトちゃんがそう言って、目を擦った。


 「では、寝室を使って下さいチル。個室はたくさんあるからどこでもいいチルよ!」

 「重ね重ね、ありがとうございます」

 「僕も〜⋯⋯なんだか〜眠くなっちゃった〜⋯⋯」

 「そうだな。オレも憑依体として、カガリス様にさんざん酷使されたから疲れた⋯⋯」

 「わたスは、ずぇんずぇん眠くないですけどね〜〜」

 「そりゃ人形の体だからな」

 「でも神力が激減してるから、わたスも体を停止させる必要があるんだケドねー」

 「どの部屋もあまり広くはないけど、最低限の機能はあるチル。ゆっくり体を休めるといいチル!」


 チッ・チェさんのお言葉に甘えて、オレっちたちはそれぞれの室へと入っていった。


 オレっちが入った部屋は八畳程の広さで、壁は金属だが床はフローリングだった。

 全体的に清潔っぽいし、シーツも⋯⋯クンクン!⋯⋯別に臭わないな。むしろ散々動いて汗をかいたからオレっちの方が汚いかも。先にお風呂に入らせてもらうべきだった⋯⋯申し訳ない。


 でも、今からじゃ⋯⋯。あ、アカン⋯⋯めっさ眠い⋯⋯。

 ⋯⋯ぐう〜〜⋯⋯





 ◇◇◇◇◇


 「⋯⋯」


 ヤケにパチッと目が覚めた。夢も見ないほど深い眠りだった。おかげで頭もスッキリしたし、体調もいい。

 今さらだが、この地下深くの研究所は空調がよく効いていて適度な温度を保っているから快適に眠れた。


 そっと部屋を出て、一番大きな部屋である研究室へと向かう。

 まだエイベルたちが起きている気配は無いから、チッ・チェさんにアレコレ訊くのは今がチャンスかも知れない。

 でも、チッ・チェさん、まだ起きてるかな?


 「あの〜⋯⋯」

 「⋯⋯ん?あれ、タロス君、もう起きたチル?あれからまだ二時間ぐらいしか経ってないチル」


 三面モニターのある机に座っていたチッ・チェさんが、驚いた顔をしていた。


 「え⋯⋯まだそれだけしか経ってなかったんだ。ところでチッ・チェさんは、あれから二度寝しなかったんですか?」

 「目が冴えて、二度寝できなかったチル」

 「あー⋯⋯それは申し訳ないです。⋯⋯ところで、あなたたち()()()は、いつからこの星に住んでるんですか?」

 「宇宙──な、なぜそれを!?」


 ガタタと大きな音を立てて、チッ・チェさんは椅子から立ち上がった。


 「実は⋯⋯オレの加護神であるカガリス様が、あなたたちの存在を教えてくれた時がありまして⋯⋯ああ!もちろん、まだ誰にも言ってませんよ!」


 嘘八百。カガリス様に憑依される前にリチル星人に会ってるんだもん。まぁ、ステータスうんぬんをチッ・チェさんに説明するよりもコッチの方がわかりやすいし。


 「そ、そうチル!?うーん⋯⋯確かに、古き神々の一部の方とは交流があったと伝え聞くチル。君の加護神がそうなのかは解らないけど、知っているなら話しやすいチル。そう、ボクたちはリチルという異星人チル!」

 「元の母星はどうしたんですか?」

 「ご先祖様たちの記録だと大型隕石の直撃で崩壊してしまったようだチル。そこからは移住できる星を探しながらの航海だったチル」


 ふむふむ。定番の宇宙漂流ストーリーだな。


 「ところで、チッ・チェさんたちは、どうしてこの暗黒大陸の樹海の研究をしてるんですか?ここはウルドラム大陸よりも樹海面積が広い分、地下とはいえとても危険でしょう?」

 「そうチル。地下にも魔蟲はいるし、地上に設置した装置なんかも時々は取り替えなきゃいけないから危険だチル。でも、ここはこの星の本来の生態を残す貴重な大陸だチル。もちろんウルドラム大陸の樹海内にも研究施設はあるけど、ここほどの規模ではないチル」

 「え⋯⋯本来の生態を残す??」


 それって、どーいう意味!?


 「う~ん。今から話すこの話は、すぐに忘れて欲しいチル。君たちにとってはあまりにも理解し難い話だチル。何故なら、ボクたちのご先祖様が最初にこの星を観測した時、ウルドラム大陸は全土が樹海だったチル」

 「!?」


 何ですと!?


 「でも、実際にご先祖様がこの星に降りた時には、樹海はウルドラム大陸に一部だけしか残されていなかったチル。それとは逆に、こちらの大陸では一部のみが()()()()いたチル」

 「それって⋯⋯」


 この星は元は樹海だらけで、人間はその中で生きていた!?


 「人間が樹海で暮らしてた⋯⋯?」

 「違うチル。母星がまだ平和だった頃にご先祖様たちが観測した時には、突出した知的生命体はいなかったチル」

 「知的生命体⋯⋯()()()、いなかった⋯⋯?」


 ええ──ッ!?


 「そうチル。それもあったからこの星に移住しようと考えたチル。なのに、実際に母星から旅立った後ここに辿り着いた時には人間がいたチル。()()()()()()()()()

 「⋯⋯」


 え~と⋯⋯オレっちは、なんかとんでもないことを聞いてしまったのではないだろうか?だってそれは、カガリス様でさえ話さなかったこの星における人間の起源っつーことで───この先を聞くのが怖くなってきたっっ!!

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